第21話(僕には、特殊能力がある)
柔らかくてふわふわで温かいものに包まれている。
その心地よさにしばらく僕は、このままもう少し居たいなと思った。
だから、嫌々というかのように首を振り、その柔らかいふわふわの毛に顔をうずめた。
小さく笑う声がして、
「タクミ、そろそろ起きろ。移動しないといつまでも、元の世界に戻れなくなるぞ」
「うぎゅ……戻れなくなるのは、困る……みゅ~」
「こら、起きろ。キスするぞ」
「いいよ~、むにゃむにゃ」
こんな心地よい、人を駄目にしてしまうような柔らかさの前では、キスの一つや二つ構わないと僕は思った。
もう少しこの寝心地を……と僕が思っていると別の声がした。
「ここまで心を許しているとは、もう国に連れて帰って“嫁”にしてしまいましょう」
「……レイト、他人事のように言うな。そもそも……」
「でもここまで気を許してくれているのでしたら、ね」
「レイト、お前は今現在、人の事を気にかけている余裕があるのか?」
「相変わらず、カイル様は手厳しいですねぇ。ですが、私達の目的はカイル様自体がよくご存じでしょう?」
「様付けはやめろ。タクミが訝しがる」
「……しばらく私も様子見ですね」
嘆息するようにレイトが答えている。
それに今、カイルに様がついていたし、前もそうだったような……。
それでも寝ぼけた頭は、まだ覚醒する気配がなくそのまま心地よい二度寝へ~、と思った所で、
「猫ぱーんち!」
「うにゃああああ」
何かが肉球で僕を攻撃してきた!
しかもすぐに連打である!
これは、
「味合わねば!」
そう、猫の肉球で攻撃という至高の時を寝ている場合ではない!
そんなわけの分からない思考で、はっと目を覚ました僕は、茶色い猫になり猫パンチを食らわせてくるメルと、そんな僕をやさしげに見つめる獣化したカイルと目が合ったのだった。
とりあえずそのまま起きて歩き出した僕達だが。
「ご、ごめん、カイル。僕、なんだかカイルの毛並みが心地よくて……」
「いや、タクミにそう言ってもらえて嬉しいよ」
そういうカイルの声は本当に嬉しそうで、人の姿に戻っても残っていた獣耳と尻尾がいつも以上に揺れている。
しかも僕の手を握ったまま移動である。
ちなみにメルは、猫のままレイトに抱き上げられて移動らしい。
今はレイトに甘えたい気分なのだそうだ。
昨日のメルを誘拐しようとした輩がやはり怖くて、心細いのかもしれない。
どうやら、高い地位の貴族の家に生まれたらしいメル。
でもどうして家出したのだろう?
そして、確かレイトに会った時は空腹で倒れたといっていた気がと僕が思っているとそこでカイルが、
「それでそのメルは、一体どうして気づかれたんだ?」
「多分、この前の荷馬車の人が転送陣を使ったりした時に、“彼ら”に気付かれたのではないかと」
「誘拐犯、か。しかもあれだけの人数でそこそこ強い人間を集められる……随分とお金のかかった誘拐だな」
「誘拐といっても、多分、連れ戻しに来たのと同じようなことになったのだと思う」
「どういう意味だ?」
そこでメルは一度黙ってからか細い声で、
「僕には、特殊能力があるんだ」
そう答えたのだった。
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