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茶道

 茶道を習い始めた動機はまことに不純なものだった。

 若い女性がいっぱいいるから。


 きっかけは、大学四回生の秋くらいだったと思う。

 友達のアユちゃんが、

「紫苑くん、歴史好きやし、茶道に興味ない?」

 と誘ってくれたのが始まりだった。


 私の住んでいたアパートからバイクで五分くらいの公民館で茶道教室が開かれていた。近くに女子大があるせいか、通っているのは若い女性が多かった。


 その和気あいあいと、まあ要するにきゃぴきゃぴとした雰囲気が気に入って一発で入門を決めた。

 しかも茶道習ってる女性って、ちょっと奥ゆかしくて大和撫子的な女の子が多いのよ。ギャルとかいないし。


 不純だ……

 正に不純である……

 千利休先生が草葉の陰で涙を流していることだろう。

 

 当時私は二十二歳、あふれ出る若い情熱を誰も止めることなど出来やしない。


 先生は四十歳くらいの痩身の男性で、茶道教室を教えながら趣味で能をやっているという変わった人だった。

 この先生のおかげで能も何回か観劇させてもらったことがある。


 あとはこの先生左翼的な思想の持ち主だったので、サシで飲みに行って言い合いをしたこともいい思い出だ。まだ私も若かったのだ。

 今でも年に一回、年賀状のやり取りをしている。


 もちろん和敬静寂、一期一会、という茶道の理念は素晴らしいものだと思うし、狭い茶室に身を置きながら、古の戦国武将に思いを馳せるのも一興である。


 就職してからも、週一回、七時位からだったと思うが稽古に通っていた。

 当時は、入行したばっかりだし、仕事もそんなに忙しくなかった。


 私が習っていたのは裏千家。

 手首のスナップを効かせて抹茶の泡をたくさん立てるのが裏千家の特徴らしい(そんなんしか覚えてない)


 最初は盆略点前ぼんりゃくでまえといって、お盆を用いた略式の手前を習う。その後、薄茶平点前うすちゃひらてまえというよくテレビで見るような本格的なものに移っていく。


 もっと進むと、濃茶という上級者向けの点前を習ったり、人に教えるための師範になる資格を取ったりするらしいが、そうなる前に辞めてしまった。


 茶道を習っていて良かったのは、所作が綺麗になった(気がする)こと。


 取引先のお偉いさんにも

「君のお辞儀は綺麗だね」

 と何回か褒められたことがある。普段から謝罪しまくってるせいもあるかも知れないが……


 あとは、重要文化財級の茶器や茶室に触れることができたこと。

 

 京都の北野天満宮の境内に松向軒しょうこうけんという茶室がある。

 細川忠興(*注一)もここでお茶を嗜んだことがあると言われる由緒正しい茶室なのだが、先生のコネで、ここでお茶を立てさせてもらった時はとても感動した。


 結局、仕事が忙しくなったり、その後転勤があったりして、辞めてしまった。


 そうそう、茶道教室の女性陣とは、二人きりで食事に行くくらいまでは進んだが結局何にもなかったな。あとは韓国からの留学生の女の子に告白されたりもしたが、忙しかったりなんだりで、うやむやにしてしまった。ソネンちゃん、元気にしているだろうか。


 せっかく家を新築して和室も作ったんだから、茶器のセットを買って、たまには妻を相手に和敬静寂の境地を楽しむのも良いのかもしれない。

 子どものおもちゃになりそうだけど……


 


(追記)

 利休百首といって、千利休が作った(とされる)和歌があるんだけど、その中のひとつに


「この道に入らんと思う心こそ 我が身ながらの師匠なりけり」

(大意)習い事というのは先生につくのが大事だが、まずは「やってみたい」その心が何よりもやる気につながるというものだ。


 すぐやる気になって色んな趣味に手を出す私にピッタリだと思って、結構気に入っている。




(注一)細川忠興ほそかわただおき

 戦国武将で千利休の弟子。九州小倉藩の初代藩主。

 文化人としても名将としてもその名を知られる。

 細川ガラシャの旦那と言った方が、通りがいいかも。

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