出会いと別れと関係と
「あなたには私の気持ちは分からないわ」
こんなことを言われたのはここまでの人生を通じて何度目だろう。
言われてようやく分かった。人の気持ちというものを一言で語るのは不可能だということを。
どうしてこうなってしまったんだ?という後悔と自責の念が一斉に押し掛けてくる。
常に柔らかく生きよ、といったのは最も尊敬する恩師だった。
ふわふわ言葉とちくちく言葉。こんな子供向けの言葉を使うまでもない。心をセトモノにしてはいけないと何度誓っただろうか。
どうやら、私はまた失敗したようだ。
「もうあなたとはいたくない」
目の前の妻が淡々と言う。
ついに妻にも見捨てられてしまったと考えると、自分がとことんダメだと思い知らされる
妻は続ける。
「子供もいないことだし。別れたいの。もうあなたとは一緒に暮らせない」
スッと、離婚届を出される。サインして、と妻がいった。
「ああ。分かったよ。俺も覚悟を決めよう」
ペンを手に取る。さて、名前を書くか、と思ったその時。
妻は死んでいた。
やっぱりこうなってしまった。
私に関わった、私と別れた人間はいつもこうなる。
今回は窒息のようだ。鬱血していないのを見ると実に安らかに死んだようである。
さて、感傷に浸るのはこれで終わりにして、作業を始めよう。
すでに死神は隣にいるのだ。
妻のふわふわは簡単に分離した。あとはこれを隣の死神にわたすだけだ。
生きているふわふわは死神の最高の栄養源なんだと。