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先生が退屈な人でよかった  作者: じんたね
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10・12 会食

「ちはや先生、ごちそーさまー」


 少女は満足げな表情で、両手を合わせる。口の周りには、食べ終えたばかりのパフェのクリームがくっついている。

 彼女との約束通り、千早黒樹は近くのファミリーレストランを訪れていた。国立一弥と昼食をとった場所でもある。彼女の両親への電話連絡は済ませており、3時のおやつといったところだった。


「おいしかったです。また食べたいです」

「ちゃっかり次回も予約か。きみは立派な大人になるね」


 クリームを拭いながら笑顔で話しかけてくる少女を尻目に、彼は財布の中身を確認していた。「なくなったら国立先生に仕送りしてもらおうかな」などと不穏な独り言をこぼす。


「美味しかったかい?」

「はーい」

「じゃあ、そろそろ塾に戻ろうか?」

「いやー」

「でも、もうちはや先生のことは嫌いじゃなくなったんだよね?」

「ねむーい」

「ここにずっといたらお店の人が困るだろう? だから帰らないと」

「おやすみー」


 少女はレストランのソファ席に横になった。演技だろうかと疑っていると、すぐにすやすやと寝息をこぼし始めた。


「嫌われなかったということで、今日は満足しよう」


 寝た子を起こさないよう静かに立ちあがった彼は、レジへと向かい会計を済ませた。しばらく彼女はそっとしておこう。そんなことを考えながらテーブルに戻る。


「ちはや先生、どこ行っとったん」

 すると少女が寝そべりながら不機嫌そうに視線を向けてきた。


「おいて帰るつもりじゃったんじゃ。うちがわがまま言うけん」

「お金を払ってきたんだよ。わがままだからって――」

「帰る」


 少女は、ひょこんと席から飛び降りて、出口へ向かう。

 ころころと態度を変える少女に困りつつ、そのあとに続く。ドアベルを鳴らして外に出て、歩いてきた道を並んで帰っていると、いつもの雑居ビルが見えてきた。


「なんで怒らんのん、嫌いにならんのん」

 すると少女の口から、弱気な台詞が落っこちてきた。「なんで、なんで、ねえなんで」と質問攻めを始める。


「うちのお父さんは怒るが。わがままな子はいらん言うて。なんでなん、なんでなん?」

「うーん、と……」


 彼の歩みは緩やかになる。どう答えようか考えているからだ。


「わがままだから、嫌いにならないんだよ」


 彼は思案のすえにそう答えた。少女はまたもや言葉を失う。勉強をしないでいいと言ったときのように、彼の答えは自分の想定を越えていた。

「おかしい、わがままな子は嫌われるはずじゃがん」

「そんなことはないよ」

「嘘じゃ」

「だって退屈だよ? わがまま言えない関係なんて。言い合ってるほうが面白いだろう?」

「嘘じゃ嘘じゃ」

「うーん……」


 このままだと問答が続くか、会話に飽きられてしまう。


「わがままな女の子のほうが可愛い」

 彼は方向性を変えることにした。


「はっ……、はっ……、はげはげのちはや先生に言われても嫌じゃし!!」

 少女は頬を赤く染める。方向性の転換は、よい結果をもたらしたようだった。


「そんなこと言って、本当は照れている――」

「ちはや先生、そんなん言いよると気持ち悪い」


 だが無情にも、少女の態度は冷いものに急変する。女心は難しい。


「ろりこん、変態、犯罪者」

「…………」


 再び、2人の間に沈黙が回復する。雑居ビルに入り、エレベーターで3階を目指す。


「頑張るけん」

 エレベーターのドアが開くと少女は言った。


「うん」

 男が少女の背中に手を当てながらエレベーターを出ると、にぃ、と少女は笑った。

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