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先生が退屈な人でよかった  作者: じんたね
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10・3 流刑

 早朝のHRは、国立先生の「お説教」から始まった。

 お説教と言っても、下駄箱で手に入れた証拠を使うようなことはなかった。


「今朝は腹立たしくも悲しいことが起きた」


 ただ一言。最初にそう言ってHRを開始した。そして何事もなかったかのように、連絡事項の書かれたプリントを配布する。


 現行犯でない限り、国立先生は怒らない。人前で名指ししたりもしない。そんな国立先生が、あえて「腹立たしくも悲しいことが起きた」と言えば、それだけで伝わる。どれほど怒っていて悲しんでいるのかが。他の先生だとこうはいかない。


 それから手短に連絡事項の伝達を終えた国立先生は、いつものように1人の生徒の名前を読みあげた。


勝田かつた瑠衣るい、放課後に職員室に来るように」


 このイベントは先生が復帰してから続いている。

 目的は不明。生徒の個人的な相談にのっているということでもないらしい。それなら学級ノートがあるから。呼ばれたことのある生徒が雑談しているとき、脇を通りながら聞き耳を立てたけど「呼ばれれば分かる」と仲間内でも情報を開かなかった。


 早朝HRが終わり、授業が終わり、お昼休みが訪れていた。


「国立せんせって変わったよね」

 隣の門田さんを中心とした女子たちが、国立先生のことを話題にしている。


「前はすごい堅かったよね」「優しくなったよね」「可愛くなった?」「かも」なんて口を上下に動かしていた。食べるためなのかしゃべるためなのか分からない。


 たしかに国立先生は変わった。

 以前だったら授業中に失敗することなんてなかったし、意味のない無駄話だってしなかった。でも復帰後は脈絡のない世間話をしたり、教科書の内容が抜けていたりすることがある。


「だよね」

 すると今度は、甲高い笑い声までしてきた。


 その声がどうしても気になってしまって、じっと座っていられなくなってくる。

 私は静かに立ちあがると、そのまま教室を出ていった。





 私はふらふらと中央階段へ吸い込まれていった。

 とにかくどこでもいい。2組から離れたい。一歩、また一歩。階段を上るごとに、周りから矢のような視線が向けられてきた。これまでなら私がどこへ行こうと、何をしようと、誰も注目なんかしなかったのに。誰もが遠慮なく舐め回すように私を見る。


 ――この胸に触わったって嘘をついたんだよな――

 ――まじでいやらしい胸だよな――

 ――俺らにもしてくれんのか――


 ぼそぼそと小声が聞こえてくる。無視しないと気持ち悪くて吐きそうだった。


「やっぱ他人を見てないって顔してるな」


 階段の上のほうからアンニュイな声がした。佐々岡だ。また面倒なのに捕まった。


「こんなとこで油売ってないで教室に戻れよ。もうすぐ昼休み終わるぞ」

「あ、そう。ご忠告ありがとう」


 降りてくる彼に、階段をのぼりながら答えた。


「どこ行くんだよ、授業すっぽかす気か?」

「どこでもいいし、佐々岡くんと反対の方向だったら」

「お前のことを知ってる3年の連中だっているんだぞ。いじめられたいのか?」

「佐々岡くんと同じ教室よりましだから」

「ちっ、なんでこんな奴」


 じゃあ勝手にしろよ、佐々岡の悪態に背中を押され、私の歩みは速くなった。

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