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先生が退屈な人でよかった  作者: じんたね
58/70

10・2 閉域

 どさ、どさ、どさ、どさ、どさ。

 私が下駄箱を空けると、見慣れない小さな物体が大量にこぼれ出してきた。街頭とかで配っている化粧水の試供品のような四角形の包みが、足元に散らばっている。


 ――何これ。


 腰を落としてそのうちの1つをつまみ上げると、すぐにそのその正体が分かった。


 ――これ、コンドームじゃない。


 私への嫌がらせらしい。男用だけじゃなくて女性用のもの、さらには使用済みのも混ざっていた。ご丁寧なこと。


 つまんでいたそれを力なく落とした私は、スニーカーからシューズへと履き替えて、ゴミの山を払い落としながら廊下へと進む。


「月島、おはよう」

 職員室から、あの声で挨拶あいさつが聞こえてきた。


 身体が勝手に反応する。ほほはひとりでに緩み出し、駆け寄って触れろ、とそわそわし始める。でもしない。そんなことをしたら辛くなるだけだから。


「昨日のメールは読んでくれたか。話をする時間を――」

「すみません、忙しいので」


 私は歩みを止めずに、その場に返事だけを置いた。すぐに向こうから「待ってくれ」と肩をつかまれる。


「少しだけでいい。放課後どうにかならないか」

「お断りします」


 先生の手を払いながら、私は背後を振り向いた。


「どうして私を避けるんだ」

「避けない理由がないからです」


 先生はまゆを開いて、私を見てくる。

 もう十分でしょ。私の居場所はなくなった。今度こそ学校を辞めさせられるのは私。これ以上、私をからかうなんて悪趣味過ぎる。


 下唇を噛みながら先生をにらみつけていると、下駄箱のほうが騒々しくなった。数人の生徒が「うわ」「誰のだよこれ」「月島じゃん」なんて下卑げびた感想を口にしている。


 すると国立先生は私から手を離して、下駄箱へ向かっていった。すぐに先生の声が響いてくる。向こうで説教しているみたい。そしてあっという間に戻ってきた国立先生の片手には、コンドームが握られていた。いじめの証拠ってことかな。


「月島、いつからこんなことされているんだ」

 呼吸が乱れている。ずいぶんと急いで戻ってきたみたい。


「欲しければあげますよ、それ。他の女子高生に使ってください」

「月島! 冗談を言ってる場合か」


 こんな状況でも先生として振る舞い続けている。

 はぁ、とため息が出てきた。しょうがない。生徒として合わせてあげないと解放されなさそうだし。


「これが初めてです」

「本当か? 他にはないのか?」

「はい、ありません」


 国立先生は胸をなで下ろした。本当に分からない。


「どうしてそんなに驚くんですか?」

「どうし――」

「2組には佐々岡くんも門田さんもいますし、簡単に味方を増やせたはずです。敵の敵は味方。先生の敵は私。先生の味方にとっても私は敵。だから国立先生が戻ってきたら、こうなることくらい予想できます。最初からそのつもりだったんですよね?」

「……違う。まったく違う」


「もしかして、佐々岡くんと門田さんを使って、私をいじめるように仕向けていたんですか? だとしたら陰湿ですね。そこまで国立先生がやるとは思いませんでしたが」

「だから違うと言っている。どうしてそんな馬鹿な想像をするんだ」

「気分爽快ですか? 白い目で見られている私を観察するのは」

「月島――」

「失礼します」


 国立先生を振り切って、私は教室へと走った。

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