10・2 閉域
どさ、どさ、どさ、どさ、どさ。
私が下駄箱を空けると、見慣れない小さな物体が大量にこぼれ出してきた。街頭とかで配っている化粧水の試供品のような四角形の包みが、足元に散らばっている。
――何これ。
腰を落としてそのうちの1つをつまみ上げると、すぐにそのその正体が分かった。
――これ、コンドームじゃない。
私への嫌がらせらしい。男用だけじゃなくて女性用のもの、さらには使用済みのも混ざっていた。ご丁寧なこと。
つまんでいたそれを力なく落とした私は、スニーカーからシューズへと履き替えて、ゴミの山を払い落としながら廊下へと進む。
「月島、おはよう」
職員室から、あの声で挨拶が聞こえてきた。
身体が勝手に反応する。頬はひとりでに緩み出し、駆け寄って触れろ、とそわそわし始める。でもしない。そんなことをしたら辛くなるだけだから。
「昨日のメールは読んでくれたか。話をする時間を――」
「すみません、忙しいので」
私は歩みを止めずに、その場に返事だけを置いた。すぐに向こうから「待ってくれ」と肩をつかまれる。
「少しだけでいい。放課後どうにかならないか」
「お断りします」
先生の手を払いながら、私は背後を振り向いた。
「どうして私を避けるんだ」
「避けない理由がないからです」
先生は眉を開いて、私を見てくる。
もう十分でしょ。私の居場所はなくなった。今度こそ学校を辞めさせられるのは私。これ以上、私をからかうなんて悪趣味過ぎる。
下唇を噛みながら先生を睨みつけていると、下駄箱のほうが騒々しくなった。数人の生徒が「うわ」「誰のだよこれ」「月島じゃん」なんて下卑た感想を口にしている。
すると国立先生は私から手を離して、下駄箱へ向かっていった。すぐに先生の声が響いてくる。向こうで説教しているみたい。そしてあっという間に戻ってきた国立先生の片手には、コンドームが握られていた。いじめの証拠ってことかな。
「月島、いつからこんなことされているんだ」
呼吸が乱れている。ずいぶんと急いで戻ってきたみたい。
「欲しければあげますよ、それ。他の女子高生に使ってください」
「月島! 冗談を言ってる場合か」
こんな状況でも先生として振る舞い続けている。
はぁ、とため息が出てきた。しょうがない。生徒として合わせてあげないと解放されなさそうだし。
「これが初めてです」
「本当か? 他にはないのか?」
「はい、ありません」
国立先生は胸をなで下ろした。本当に分からない。
「どうしてそんなに驚くんですか?」
「どうし――」
「2組には佐々岡くんも門田さんもいますし、簡単に味方を増やせたはずです。敵の敵は味方。先生の敵は私。先生の味方にとっても私は敵。だから国立先生が戻ってきたら、こうなることくらい予想できます。最初からそのつもりだったんですよね?」
「……違う。まったく違う」
「もしかして、佐々岡くんと門田さんを使って、私をいじめるように仕向けていたんですか? だとしたら陰湿ですね。そこまで国立先生がやるとは思いませんでしたが」
「だから違うと言っている。どうしてそんな馬鹿な想像をするんだ」
「気分爽快ですか? 白い目で見られている私を観察するのは」
「月島――」
「失礼します」
国立先生を振り切って、私は教室へと走った。




