9・10 充実した登校からメランコリックな下校へ
――どうしよう。
ベッドの上で体育座りをしたまま何もできない。
もう無理なんだ。前みたいに一緒にはいられない。
先生は本気だった。佐々岡も門田さんも先生の味方になっている。泰一だって先生のことを気にかけている。お母さんも先生のことが好きだ。
どうしよう、どうしよう。もうどうやっても私だけが悪者になる。
ずっと信じたくなかった。先生が私を恨んでいるなんて。仕返しをしようと考えているって。先生の苦しみを分かっているのは私だけだから大丈夫。きっと私のことを大事に考えてくれる。弁護士さんに会ったときも、先生の家で話をしたときも、どこかでまだ大丈夫って思おうとしていた。
だけどもう否定できない。お母さんまで味方につけるほど本気だったから。
――月島の顔は退屈そうにしているからな――
私が先生に話しかけたときも、同じことを言った気がする。これは宣戦布告だったんだ。
――月島を助けたいと思っているんだ。月島がそうしてくれたように――
私を退屈させないって言ってる。退屈できないほどの刺激を用意するって。
――月島からもらったものを、月島にちゃんと返したい――
私のことを恨んでいるんだから、仕返しをしたいって気持ちに正直になるんだよね。
私はたまらずポケットから携帯と取り出した。
『月島です。大丈夫ですか?』
先生と交わした、最初の頃のメッセージを表示させる。
『大丈夫だ。どうして私の連絡先を知っているんだ?』
『ごめんなさい』
『どうして謝るんだ?』
『国立先生の携帯を勝手に見ました。あの雨の日です』
『見てしまったものは仕方ないが、今後は控えてくれ。親しきなかにも礼儀あり。夫婦でもプライベートには干渉しないものだ』
『ごめんなさい』
『分かったのなら十分だ』
『遠征は、花本先生が一緒だったんですか?』
『そうだ』
『月島は普段から、こんな風にメールするのか? 文体が丁寧というか、シンプルというか』
『先生は友だちみたいなのが好きですか? 国立先生だから気を遣ってみました』
もう戻れない。
あの頃のように先生と話すことはできない。期待していても辛いだけ。頑張っても駄目なものは駄目だって、もう知っているはずなのに。だから未練を捨てないと。先生への気持ちを諦めなきゃ……。
私はメッセージを削除しようと、親指を画面に押し当てスライドさせる。表示される『削除』の文字。震えながらそれに触れると『削除してもよろしいですか?』と再度表示された。
触れようとしても親指が動かない。駄目。これは消さなきゃいけないの。
「なんで……」
ぽたりぽたり、と画面に涙が落ちてきた。お願いだから消させて。これを見たら辛くなる。また期待しちゃう。お願い、あと少しなの。
「どうして、どうして消せないの……」
それでも親指は動いてくれなかった。
私はずっと滲む画面を睨みつけることしかできなかった。そして気を失うように眠りについたのは、携帯の充電が切れた直後だった。




