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先生が退屈な人でよかった  作者: じんたね
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2・1 学校不協和音

「今日の数学はここまで」


 私は予鈴がなると同時に、手にしていたチョークを黒板に戻した。

 すぐさま日直に終わりの号令をかけさせる。教室に開放感が広がっていった。三々五々。生徒らは仲間グループを作って、わずかな休憩時間を謳歌し始める。一定のスピードで上下左右に動く黒板消しを見ていると、欠伸が口をついて出てきた。


 ――いつまで続くのか……。


 今日の授業も、まるで作業のようだった。

 教科書に沿って、学習内容を提示して、公式や解法を覚えさせて、その理由や来歴を分かりやすく解説して、まとめて終わり。


 私の授業を面白いと言ってくれる生徒は多いし、真面目に聞いてもくれる。日夜、苦労したことが結果につながって嬉しいのもたしかだ。だが、その苦労の結果は何なのだろうか。大学進学の役には立つかもしれない。けれどそれだけではないか。だとしたら、この工場労働のような授業をするために、私は教師になったのか。授業が上手になればなるほど疑問が膨らんでいた。


「せんせー」


 考えごとをしていると、門田の間抜けな声が近づいてきた。


「なんだー」


 黒板消しを左右に動かしながら、その口調を真似して返す。「月ちゃん、真似されちゃった」とリアクションがこぼれる。どうやら月島も一緒らしい。


「今日の放課後はお話してくれる?」

「すまない、中間試験の問題作成が終わってないんだ」

「なら、国立せんせのお家まで遊びにいってもいい?」「……いいですか?」


 黒板の掃除を終えて身体の向きを変えると、4つの輝く瞳が、私を見つめていた。

 門田のおちゃらけはいつものことだが、それに月島が付き合うのは珍しい。


「どうして自宅に帰ってまで、お前の相手をしなければならん」

「いやだって、せんせも男の子でしょ? だったら女の子が必要なときがあ――」

「女の子はそんなことを口にしない」


 こつん、と出席簿で門田の頭を叩いた。「痛い!」と痛くもないのに頭をなでて、痛そうに痛がる。その様子を無表情のまま眺める月島。


「私、せんせを襲ったりしないよ? ちゃんと合意の上で――」


 こつん。私はもう一度、淑女のあるべき姿について教えた。「何を言いふらされるか分かったもんじゃない」と補足する。


「そんなことしないって約束するから。だからお願い、ね?」

「駄目なものは駄目だ。月島ならともかくお前は油断ならない」

「ふ、ふーん……」


 すると門田は、はしゃぐのを止める。そして「月ちゃん、行こ」と彼女の手を引っぱって教室を出ていった。


「何だったんだ、今のは」


 門田が矛を引いたことへの違和感が湧きあがる。あんなにしつこかったのに。


 ――まあ気が変わったんだろう。


 理由にならない理由で違和感をはぐらかすと、私も教室をあとにした。



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