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先生が退屈な人でよかった  作者: じんたね
29/70

6・6 非行中

「襲われた気分はどうですか?」


 月島は、馬乗り状態のまま。私を見下ろす。

 両手で布団ごと私を押さえ込み、両太ももで脇をしっかりと挟む。衰弱した身体では、月島を跳ねのけることすらできない。


「私は、自宅に押しかけて、しおらしい振りして、無抵抗の先生を襲いました。国立先生の生徒指導が足りないからです。だから叱ってください」

「そんな安い挑発で、私は動かされない」

「動けない、の間違いじゃないですか?」


 腕を曲げて顔を近づけてくる。黒髪が頬のうえで遊ぶ。

 今は我慢するんだ。もう放課後になってから時間が経っている。もうすぐ花本先生が――


「花本先生なら来ませんよ」


 月島は予想もしなかった台詞を言った。

 どうしてそのことを知っている。それに花本先生が来ないとはどういうことなんだ。


「……お前、花本先生に何かしたのか……?」

「実は私、ずっと国立先生に抱かれたいって思ってたんです」


 もはや月島は質問に答えない。彼女の圧倒的な優位。私との対話など、もう不要だと言わんばかりだった。


「冷静になれ。私に抱かれたところで、月島には何の得もないんだぞ?」

「きっとみんな驚きます。先生が女子高生を抱いたって知ったら」


 月島は制服のボタンに手をかけた。

 流れるような動きでボタンを外し終えると、圧力から解放されたふくよかな双丘が弾けるように露わになる。


「花本先生もびっくりですよね。真面目な堅物先生がこんなことをするなんて」

「……どうしてここまでする。友だちや先生、お母さんがどんな気持ちになるか分からないのか」

「あはは、頑張って否定しますね」


 月島は高らかに笑った。「眉間みけん、すごいしわですよ」と挑発してくる。


「笑いたければ笑え。こんな馬鹿なことがあってたまるか……!」

「退屈なだけの毎日のほうが、よっぽど馬鹿馬鹿しいですよ。それとも私じゃ嫌ですか?」

「……つ、月島となど願い下げだ……」


 月島は馬乗りになったまま「その嘘も面白いですね」と見透かしたような台詞を吐く。


「怖がらなくても大丈夫です。平和という名のルーティーンを破り捨てるだけの、ささやかな勇気があれば……」


 月島の呼吸は荒くなり、頬は高揚し始めた。彼女は私の手首を握りしめ、それを胸元へと運ぶ。


「やっ、止め――」


 ろ、とようやく声が出たときには、すでに指先は膨らみに沈んでいた。

 柔らく温かい。わずかに感じる産毛の刺激。乾いていた私の手が、より多くを求めようと力を込める。


「ふざっ、ふざけるな……!」


 その刹那。潜んでいた衝動を開放する力を利用して、月島を弾き飛ばした。

 尻餅をつくように布団に着地した月島は目を白黒させている。自分でも信じられないほどの力だった。だがすぐさま強烈な倦怠けんたい感が伸しかかってくる。


「痛い」


 真っ黒い瞳が2つ。私をにらみつけている。余裕で笑っている月島はそこにはいなかった。


「分かりました。そんなに嫌なら結構です」


 月島はすくと立ちあがる。「一応、材料は手に入りましたから」と言いながら、ボタンで開いたシャツを閉じ、玄関へと向かう。


「もう退屈できませんよ」


 玄関の扉が閉まる音に、月島の声がかき消えた。

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