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先生が退屈な人でよかった  作者: じんたね
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0 プロローグ

 今日の啓蒙には、自嘲ぬきに自分との健全な関係などあり得ない。

  (ペーター・スローターダイク『シニカル理性批判』)


********


 いっそのこと巨大な鉄塊で、脳天から叩き潰してくれ。

 痛みだ。目が覚めるくらいの強烈な痛みが欲しいんだ。この空間を前進するためのざらざらした摩擦はどこにあるのか。


「ここはどこなんだ」


 そう、言葉にする。だが私の声は、周囲に染み入るようにかき消えた。周囲に人の気配はおろか、音声が反響する物体すらない。


 ない。

 何もない。

 色も、かたちも、上下も、左右も。

 見ることも触れることもできない真綿に包まれているような、そんな感覚が、でっかいペンチで締めあげるほどの苦痛をもたらしている。


 終わりにしたい。

 自分でも、世の中でも、どっちだっていいんだ。この苦しみが消えてくれるのなら。


「終わらせてくれ、頼む」


 もう一度、大声で叫んだ。この空間そのものを突き破りたい一心で。

 すると視界は突如として暗転し、オレンジ色の蛍光色が見えてきた。


『3:40』

 暖色系のライトが数字を灯す。それがデジタル時計の表示盤であることに気づいたときには、真っ暗なアパートの一室で、布団から上体を起こしていた。


「……またか」


 悪夢を見ない方法は簡単だ。頭を切り落としてしまえばいい。もう二度と苛まれることはなくなるのだから。その辺に斧でも落ちていればいいのに。

 点滅を繰り返すデジタル時計の光。汗を吸ったTシャツがべっとりと背中全体に張りついてくる。すぐさま不快感が込みあげてきた。


「……明日がある、寝ないと」


 私は、枕元に置いてあった睡眠薬に手を伸ばすと、それを呑み込んだ。吐き気のように湧きあがってくる不快感を封鎖しようと、頭から布団をかぶって横になる。


 こんな風に眠れなくなったのは、いつからだろう。

 現在、勤めている高校に赴任したときか。それとも男子バレー部の顧問を担当した頃か。2年2組の担任を引き受けたからか。


 睡眠薬を飲むようになって、もうずいぶんと時間がたっている。

 疲れればよく眠れると考え仕事に打ち込むのに、働けば働くほどあの苦痛が強くなっていく。夢を見る頻度は増し、薬に頼る夜も多くなっていた。


 そんなことを考えていると、次第に眠気が込みあげてきた。薬が効いてきたのだろう。

 私は、ゆっくりと意識を手放した。



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