目撃者――三人組
「見たン?」
「フン! 見たさ。青いバンダナをしている男子など、そうそういないからな」
「見たぶぅ。あいつで間違いないぶぅ」
「あいつが無灯有機ねン」
三階廊下で、とある三人組は風のように走り抜ける有機とすれ違った。
「フン! しかし中森さん、ほんとにやるのかい?」
「当たり前よン! 先輩たちの仇を取らなくちゃン」
いかにも優等生風な長身痩躯の少年の名は大森。
彼は辞書を片手に眼鏡をずり上げながら中森という少女に話しかける。いつも鼻の通りが悪いのか鼻息が荒いのが特徴的だ。
「天才が相手なら暴れてもそんなに騒ぎにはならないぶぅ?」
「ふふっ! その通りよ、小森ン。」
続けて声を発したのは背の低い丸々と太った肥満児の小森。
彼は左手で大事そうに抱えたポテトチップスのコンソメ味を右手で休むことなく口へ運び続けている。
そして優等生風なのと肥満児の間に立つのは、彼らチーム『森』のリーダーである赤い縦巻きの髪をした中森という名の少女。
少女は赤い透明な下敷きをペコペコとさせながら、不敵な笑みを浮かべていた。
「久々ねン。こんなにワクワクするのはン。私たちの手で学園に平和をもたらすのよン」
「フン! しかし大丈夫だろうか……。あいつに手を出した先輩たちは顔を青ざめさせながらこう言っていたじゃないか」
「『まさに閃光』ぶぅ」
「心配ないわよン。先輩たちはいきがってる割にはたいして強くないものン。私たちが三人でかかれば負けるはずないわン。天才相手なら例え三対一でも卑怯とは言われないン。だってそうでしょン? 天才なんて呼ばれる奴らは才能にかまけた傲慢で憎たらしい奴らばかりなんだからン」
「フン! 確かにそうだな。そういえば、今、無灯のあとを追って行ったあいつは何者だったんだ?」
大森は辞書を持っていない方の手で、いかにも優等生風に考えているようなポーズをとった。
「まさに閃光だったぶぅ……」
小森は右手を止めた。
ポテトチップスがなくなったらしい。
口さみしそうに哀愁漂う眼差しでコンソメ味の袋の中を覗いていた。
「確かにン。今日の入学式じゃ見なかった顔ねン。中等部上がりの先輩でもないでしょン。紫の髪なんていきがった奴がいたら覚えているハズだものン。でも今はそんなことより無灯をボコボコにすることが先よン。紫の奴が調子に乗ったときはそのときヤッちゃえばいいのよン」
「フン! そうだな。話を脱線させてすまなかった」
「これからどうするぶぅ?」
「とりあえず、校内を探すのよン。鞄を持っていなかったから帰ってはいないでしょン。小森ン、あんた普段はトロいんだから、ここで無灯が帰ってくるか見張ってなさいン」
「えー! 嫌だぶぅ」
「なによン。私に口ごたえするのン?」
「だって……ぶぅ……」
「フン! いったいどうしたと言うんだ?」
「学食のカレーが食べたいぶぅ」
「フン! 今ポテトチップス食べてただろう!」
「今、ポテトチップス食べてたじゃないン!」
二人が口をそろえるが、小森はそれがどうしたと言わんばかりにケロッとしている。
リーダーの少女、中森の整った顔に青筋が立つのを無視するように、小森は鞄からチョコ菓子を取り出し、その袋を開けた。