始業式――黄崎徹
新入生三三〇名。彼らを含めて聖央学園高等部の生徒数は九八一人になった。
聖央学園は少しばかり異例で入学式と始業式を同日に合同で行う。
場所は聖央学園大学所有の大講堂。二千人強を収容可能であり、世界的権威を招致しては大学生相手に講義を行うこともある施設だ。約千人になる生徒と、父兄と教師陣を含めれば広い講堂も人で埋め尽くされる。
「では、生徒代表として生徒会長の黄崎から新入生に挨拶があります」
最近、髪の生え際が気になりだした高等部の佐藤副校長が司会進行を務める中、登壇する一人の少年。
――黄崎徹。
聖央学園高等部三年生にして、生徒会長を務める男。
生徒たちからの人望も厚く、去年の九月に行われた生徒会選挙では一八人の立候補者を寄せ付けず、七百を超える票を得て当選したまさに生ける伝説。その選挙の投票率も史上最高を記録した。
おまけに彼にはアニメや漫画も真っ青な『二つ名』までついている。
名は『彩王』
由来は黄崎の鮮やかすぎる虹色の髪に起因するものであり、髪の先を尖らせたツンツン頭は右から順に赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と七色のグラデーションで構成されている。舞台上の黄崎の髪色は新入生やその父兄を困惑させるには充分なものだった。
ただ、同時に彼を包む得体のしれない何か。それが魅力となって二千人の聴衆、四千の瞳は自然と黄崎に引き寄せられていた。
「新入生の皆さん並びに父兄の皆様、ご入学おめでとうございます。
私を初めて目にする方は少々戸惑っていらっしゃるかと思いますが、この学園の風紀は極めて健全です。確かに今日の魔法全盛の時代に学園内で魔法のトラブルがないとは言いません。
ですが、聖央学園は創立時からの理念でもある『個性の尊重・自立』を掲げ、生徒による生徒自治を行っています。学園内で起こる様々なトラブルを自ら解決する過程にこそ、我々、生徒の成長があるという初等部から大学まで一貫した学園の方針です。
ご入学される新入生の皆様は日々研鑽を惜しまず、努力と根性でこの学園での生活を謳歌していただきたいというのが私の思いです。
もちろん、友人を作り、互いに高め合うことも大事です。
私は学園生活において、友こそが最大の宝だと確信しています。では、長くなりましたが、この言葉をもって私から新入生への挨拶とさせていただきます。
――どうか勇敢で慈愛に満ちた実りある学園生活を」
黄崎が一歩下がり一礼すると講堂全体を揺るがすほどの割れんばかりの拍手が沸き起こった。
彼のカリスマ性からか、その鳴り止まない拍手はまさに生ける伝説と呼ばれるに相応しいものだ。
これが『彩王』が『王』と呼ばれる所以。
最初に挨拶をした山田校長は肩身が狭いだろうな、と有機は講堂の右奥の席でその光景を眺めていた。
「やっぱ『彩王』は他の人間とはなんか違うよな。持ってるもんがよ」
有機の隣では青木が手を真っ赤にしながらその他大勢と拍手に混ざっている。
――クラス分けを知らせる巨大掲示板は二人が今年も同じクラスであることを示していた。
講堂ではクラスごとに場所が指定されているだけで、その範囲で席を自由に選ぶことができた。
「そうかもしれないな……」
世界が変わり、天才が蔑まれようとも、生まれ持ったカリスマ性や魅力に人間は逆らうことができない。それは才能とは別の何かとして革命後の世界でも確かに息づいていた。日本の政治もかつての短命な政権が嘘のような長期政権を維持している。それは単純にトップたる総理大臣のカリスマ性と行動力によるものだ。
「なんだよ、この場内を見て感想はそれだけかよ」
有機は黄崎があまり好きではない。
黄崎からは自分と似た何かを感じていた。
それは『天才』と呼ばれる者たちが持つ独特の空気感。
だが、黄崎は周囲の反感を買わず、努力と根性が支配する世界で一つの集合体のトップに君臨し、
事実、目の前に広がる光景は彼の評価を物語っている。
同じのはずが同じじゃない。
有機は黄崎に少なからず嫉妬しているのかもしれない。
だからこそ、黄崎を見ていると嫉妬深い醜い自分をさらけ出しそうになるのが有機は恐かった。