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ジーニアス ―白銀のガントレット―  作者: 出金伝票
第三章 天才至上主義者『ドラゴンライダー』
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ドラゴンライダー

 世界には数多くの天才たちが存在している。

 無論、その数は世界の総人口からすれば微々たる数字だが、かつて賞賛と栄光に彩られた人生を謳歌した天才たちは、ドレイク・ドラゴンの新たに構築した世界でひっそりと身を潜めながら苦汁の日々をおくっている。

 二〇二〇年七月二三日。この日を境に人生を狂わされた者達。

 そんな『天才』と呼ばれる彼らの中には、少数ではあるが憎むべき存在の科学者、ドレイク・ドラゴンと共通する思想を持つ者がいた。


「真に価値のある天才はこの世に私一人で充分だ」


 ドレイク・ドラゴンが革命時にはなった始まりの言葉。


 言い換えれば「天才こそが至高の存在である」という意味にも取れるこの言葉は、革命後一五年が経過した現在、栄光とは程遠い生活をおくる彼らの心の支えですらあった。


 ドレイク・ドラゴンの言葉・思想に『乗る』者。


 行き過ぎた天才至上主義者。


 天才を除く多くの人々は彼らを『ドラゴンライダー』と呼んだ。



◇◆◇◆◇



 吉祥寺駅前には工事中の駅ビルが存在する。

 日中は作業員やトラックの出入りも多く、重機の駆動音もせわしなく聞こえることから、誰も不自然に思わない。だが、工事は着工開始からすでに三年以上が経過していた。


「それが我々天才に許された至高の力。今回は特別にお前たちにも分けてやろう。その代わりに私の手足となって働いてもらう」


 威圧感のある男の声。男と向かい合う二人の携帯電話が激しく振動した。

 大森と小森は液晶を確認し、大森が声のする方へ話しかける。


「フン。それで具体的に何をしろと?」

「そうだな……。手始めに学園の生徒を襲え。誰でもいい。ただし、天才だけは相手に選ぶな。学園に通う天才はどいつもこいつも癖のあるやつばかりだからな」

「そんな……そんなことがバレたら僕たち停学どころか退学ぶぅ」


 今度は小森が暗がりに向かって言葉を投げた。


「ふっ! 私を誰だと思っているんだ? そんなこと簡単にもみ消してやるさ。そもそも始業式の日にお前たちがしでかしたことも私は知ってて黙っているんだぞ?」


 最終的に八階建てになる予定の駅ビルは、工事中のため巨大なブルーシートに覆われている。シートの中は四階までが完成しており、その上は鉄骨の基礎が作られているのみ。彼らがいるのは四階の屋根。現在の最上部にあたる部分の屋上だ。

 月明かりを全身に浴びる大森と小森を囲うように黒スーツの男が九人。

 そして二人の正面。

 鉄骨の資材の上に座っているのは、聖央学園高等部教師の権藤虎児。

 ブルーシートの作る巨大な影に身を潜め、権藤の位置には月明かりも届かない。だから大森と小森には権藤がいったいどんな表情で会話をしているのかがわからなかった。


(先生が生徒を襲えだなんて……どうしちゃったぶぅ……)


 小森の手が震える。

 左手にはいつもあるはずの菓子の包みはない。左手は空を切りそわそわと落ち着かない。


「権藤先生……。あんた一体何者なんだ……」

「ん? 私か? 私は違法職人集団『レパード』の幹部、権藤虎児だ」


 権藤は自分を教師だとは言わなかった。

 ――職人というのはアプリ製作者の通称である。そして職人集団は職人たちがより高度で優れた性能のアプリを制作するために集まった団体のことであり、規模の大きいところは起業し、それを生業としている集団も多い。

 その中で極端に危険性の高いアプリを提供したり、悪質なアプリの開発、さらには他の団体からアプリの情報を盗み出し、自らの利益にしようとする者たちがいる。彼らは『違法職人集団』と呼ばれ、そのほとんどが天才至上主義者ドラゴンライダーで構成されている。


「ここまでは割と順調だったんだがな。あのいけすかない女大臣が色々と嗅ぎまわっているらしい。先日のメディアを通した大々的な注意喚起のせいで今回はあまりサンプルが集まらなかったからな。だが、もう遅い。計画はすでに次の段階へ移行している。お前たちが良いデータを揃えてくれることを期待しているよ」

「フン、俺たちが逆らったらどうするんだ? すでに力はこの手にある。持ち逃げするかもしれないぞ?」

「出来るのか? やれるものならやってみろ。そのときはお前たちが守りたいものがどうなるかは知らんがな」

「ま、まさか、あんた……」

「貴様たちが思っている以上に私はお前たちのことを見ているよ」

「くぅ……」

「逆らおうとは思わないことだ。私が貴様たちに素性を明かしたのも明かすことに問題がないとわかっているからのこと。仮に貴様たちが反抗の意思を見せても、私にはそれを止める算段がある」


 資材の上から腰を上げた権藤が大森と小森の方に向かって歩いてくる。次第に権藤の顔が月明かりに照らされて明らかになる。

 そこには普段見せることのない愉悦に満ちた笑みが浮かんでいた。

 全ては権藤の思いのまま。

 大事な人を守る力を欲した二人の少年は、大事な人を人質にとられ、闇に足を踏み入れた。


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