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怠惰な王女とひねくれ魔剣

私の名前はアリア。王国の第一王女。

人生の目標はただ一つ 「いかに労働せずに一生を終えるか」である。


「アリア様! 大変でございます!」

天蓋付きベッドの上で、二度寝を決め込もうとしていた私の耳に、侍女の甲高い声が突き刺さる。

うるさい。実にうるさい。安眠妨害は死罪に値するのだ、この国では(今決めた)。


「なんじゃ、マリー。せっかくまどろみの海でユニコーンと追いかけっこしておったというのに…」

「隣国グレイシアの軍が、国境の第三砦を突破したと…! このままでは王都陥落まで一週間ももちません!」

「ふーん。それで、私のおやつのプリンはちゃんと冷えておるか?」

「それどころではございません! 陛下も、王子も、今後の対応を協議しているんですのよ!」


父上も母上も、出来の良い兄上も、本当に働き者よな。感心はするが、尊敬はしない。

なぜなら、働くことは尊くないからだ。ベッドの上でゴロゴロすることこそ、人類が目指すべき最終形態なのだ。


だが、しかし。

「このままでは、敵軍によって王族は皆殺しに…なんて噂も…」

マリーが涙声でそう言った瞬間、私の脳内そろばんが弾き出された。


(王族が皆殺し…? ということは、この私を甘やかしてくれる家族がいなくなる…? それはつまり、私が働かなければならなくなる…ということか!?)


それはいかん。断固として阻止せねば。この怠惰な生活を守るためだ。仕方ない。


「ちっ…手っ取り早く、私が最強になって、ちゃちゃっと終わらせればよい話ではないか」

「えっ、アリア様…?」


きょとんとするマリーを尻目に、私はベッドから跳ね起きた。

古文書で読んだことがある。王家の禁忌の間に、一本の魔剣が封印されている、と。



埃っぽい禁忌の間の奥、隠し扉の先、そこにそれはあった。

台座に突き刺さった、禍々しいオーラを放つ漆黒の長剣。刀身にはまるで血管のように赤い紋様が走り、見るだけで精神が汚染されそうだ。


その名は、魔剣「グラットン」。

あらゆる願いを食らい、持ち主に絶大な力を与える。

――ただし、持ち主は必ず不幸になる、という曰く付きで。


「不幸、ねぇ。毎日汗水たらして働くよりマシじゃ」


私が柄に手を伸ばした瞬間、剣が激しく振動し、脳内に直接声が響き渡った。


『ククク…我が名はグラットン。さあ、願いを言え。何でも叶えてやろう…ただし、お前の一番嫌う方法でなぁ!』


(うわ、厨二病じゃ…)

一瞬引いたが、背に腹は代えられぬ。私は王女らしく堂々と宣言した。


「よかろう、魔剣グラットン! 我が名はアリア! この我を、世界最強にするのじゃ!」

『世界最強、か。良い願いだ。その傲慢さ嫌いではない。よかろう、契約成立だ!』


剣が赤黒い光を放ち、私の手の中に収まる。ずしりと重い。

さあ、これで私もチート能力を手に入れ、敵軍を指先一つで殲滅し、また怠惰な生活に戻れる…!


『ならば…』


グラットンが再び語り掛ける。私の目の前に、独りでに羊皮紙がふわりと現れた。

そこに書かれていたのは――


『最強への道!地獄のトレーニングメニュー(初心者編)』


「は?」


羊皮紙には、信じがたい文字が並んでいた。

・毎朝六時起床。朝日を浴びて深呼吸。

・朝食前に10kmのランニング。

・食事は一日三食、野菜と赤身肉中心でバランス良く。間食は禁止。

・腹筋・背筋・スクワットを各100回3セット。


『うむ。まずは早寝早起き、一日三食バランスの取れた食事。そして地道な筋力トレーニング。ククク…お前を徹底的に基礎練習と健康的な生活で最強にしてやろう…!』

「くっ…!」


こめかみに青筋が浮かぶ。

なんだこれは。私が一番嫌いな単語のオンパレードではないか。

努力、根性、継続、健康。どれも聞くだけで蕁麻疹が出る。


「まともに努力するくらいなら死んだほうがマシじゃ!」


私がそう叫ぶと、魔剣は愉快そうに振動した。

『いかにも。それこそが我が契約。お前の一番嫌う方法だからな』

「ふざけるな! 我は楽して最強になりたいのじゃ! 手っ取り早く、今すぐ、一瞬でだ!」


怒りに任せて、私は最悪の提案を口にした。


「そうだ、生贄をくれてやる! 父上でも母上でも兄上でも、誰の命でもくれてやるわ! だから今すぐ我に最強の力をよこせ!」


家族の命と引き換えに、怠惰な生活が手に入るなら安いもの。

さあ、どうだ魔剣! これぞ悪魔との取引に相応しい願いだろう!


『…………』


魔剣が、沈黙した。

あれ? と思っていると、やがて震えるような声が響いた。


『(うっわ悪魔やんコイツ…一番嫌う方法とか言ったけどさすがにドン引きだわ…せや!)』


ん? なにか聞こえたような…。


『ク、ククク…クハハハハ! 小娘! 貴様のそのドス黒い欲望にお似合いの、特別な呪いをかけてやろう!』


呪い!?

次の瞬間、私の右手に、黒い茨のような紋様が奔った。


「な、なんじゃこれは!?」

『クククク…お前が真面目にトレーニングをした日数分、お前の家族の寿命が一日ずつ延びる呪いをかけてやったぞ…!』


「はぁ!? なんじゃその、地味にありがたい呪いは!?」

『サボれば寿命は延びん。もちろん、貴様が死んだり、我を捨てれば、家族の寿命はいずれ尽きる。さあ、どうする? 家族を見殺しにして怠惰を貫くか? それとも、血反吐を吐きながら努力して、家族を長生きさせるか? 選ぶのは貴様だ、クククク…!』


なんという、なんという悪魔の所業…!

私の怠惰な生活を守るためには家族の生存が不可欠。

そして家族を生存させるためには、私が最も嫌う努力をしなければならない…!

完璧に詰み…だ!


「悪魔め! そうすれば真面目に私が訓練するとでも言いたいのか!?」

『言いたいが? さて、まずは形から入るぞ』


ポンッ、と軽い音と共に、私が着ていた豪奢なドレスが、安っぽいピンク色のジャージに変わった。

胸にはデカデカと、アリアの名前が縫い付けられてるされている。致命的にダサい。


『まずは準備運動だ! 怪我の予防は基本中の基本だからな! いーち、にー、さーん、しー!』


魔剣から軽快な号令が響く。


「いやあああああああああああああああっ!!」


王城の禁忌の間に、悲痛な絶叫が響き渡る。

こうして、私の地獄の日々が、幕を開けてしまったのである。

読んで頂きありがとうございます、私がこっそり書き溜めていたお話を機会があったので投稿します!

☆・リアクション b・感想頂けたらメチャクチャ嬉しいです、次回の投稿のモチベーションになるのでぜひぜひ!

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