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第9章

「あ、誕生日は?」

 駅に続く一本道で、またしても話題がなくなった美涼は、再度幽霊に質問する。

「えー……六月の六日ですけどー」

「え、6……?」

 思わず、美涼は引いてしまう。

「…………ん?」

 幽霊は少し美涼を見る。

「あ、いや、ごめんなさい……」

「あー、いえいえ。大丈夫ですよー」

 小さな声で謝った美涼はかなり反省している。人が生まれた日を、気味悪がってしまった。

 六月六日。美涼はあることに気づく。

「あと、二週間後じゃん」

「あぁ、そういえばそうですねー。あ、プレゼントは大丈夫ですよー」

 そう言われて、少し驚いた。

(それって、まだ私を友達と思ってないのかな?)

 美涼はあることを思いつく。

「じゃ、じゃあさ」

「んー?」

「この、今日行く喫茶店のお会計、私に払わせてもいいかな?」

「そんなー。そんなことできませんよー。僕もお金は持ってますし……」

「お願い……」

 柄になく、美涼は手を合わせてお願いする。誕生日を気味悪がってしまったことの償いもあるのかもしれない。

「…………わかりました。じゃ、お願いします」

 声が間延びしてない。怒ってるのだろうか。いや、かしこまったのだろうか。


            *


 電車で二駅行って、そのあとしばらく歩くとそこにはレンガ作りの喫茶店があった。

「わー、思ったより凄いですねー」

 幽霊は感嘆の声をあげた。

「うん……ね」


            *


 中に入ると、木で作られた森の中のような空間だった。

「さて、なにを頼みましょうかねー」

 幽霊はメニューをを広げて、少し楽しそうな声を出した。

(なんか……)

 美涼は幽霊を見る。なんだか、不思議だった。顔はずっと微笑なのに、声だけは不思議と高ぶっている。

(声が感情なのかな)

 ふと、美涼はそう思った。言うなら、声と感情が一緒になっている。そう思うと、幽霊が不思議な存在だと思った。


            *


 店員の「お待たせしました」の声を聞き、幽霊にはプリンが。美涼にはパフェが来た。美涼は楓のように料理が来たら、すぐに写真を撮ることはしない。SNSなどやってないし、風景などは分かるが食べ物の写真を撮る人の心の中がいまいち分からない。

 美涼は一緒に運ばれてきたスプーンを取り、クリーム部分をすくう。

 生クリームだ。甘い。見ると、中にはスポンジケーキや半分にカットされたイチゴが入っていた。


            *


 喫茶店を出ると、夏の熱気が戻ってきた。

「わぁー……」

「どうしましたー?」

「いや、暑さがまた戻ってきたって」

「ほーう……」

「で、ここの近くの……あれ?」

 隣にいたはずの幽霊がいない。

「え……迷子?」

 すると、幽霊は向かいの洋品店から出てきた。

「よければどうぞー」

 唐突に幽霊は、白と黒のシンプルな帽子を差し出してきた。

「え……」

「あぁ、暑いと言ってたのでー……」

「い、いいの?」

「えー。日射病になるよりは……」

「……日射病?」

「あぁ、熱中症ですねー」

 幽霊は言い直した。

「うん……ありがとう」

 美涼は幽霊から帽子を受け取り、帽子をかぶる。今日の服装にぴったりな色だった。

「いいですねー。似合いますよー」

 二重の言葉をもらい、美涼は少し照れて言った。

「……ありがとう。朝霧くん」

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