第5章
美涼は楓に駆け寄る。
「楓……」
「あぁ」
声は普通だが、かすかに殺気がある。こうなれば、幽霊に何をするかわからない。
「ちょっと、楓。落ち着こ。精神的にも」
「あぁ……うん」
*
放課後、楓に一緒に帰ろうと誘われたが美涼は「用事が……」と言って断った。
大急ぎで、美涼は図書室に向かった。
(いた……)
そこには、幽霊がいた。
そろりと足を忍ばせ、図書室に入る。小走りで、幽霊に近づく。
「ね、朝霧くん」
「……はいー?」
美涼に微笑の顔を向ける。
「その、お昼は、ごめんね。色々。私の友達が」
「……あぁ、大丈夫ですよー」
しばらくの間があった。まだ少し許してないのだろうか。
「え、なんか、また怒ってる?」
「いえいえー。全くー」
不思議。心の中でふと出た。
「では、これは今日の文を読み終わったので、僕はここらへんでー」
幽霊は立ち上がり、カバンを持って図書室から出ていく。
*
幽霊が校門を出るのを見計らい、楓が動き出す。
「幽霊」
冷たい声がして、幽霊は振り返る。
「おや」
「美涼がいないからね。待ち伏せさせてもらったよ」
「僕、そこまで危険ですかねー」
(こいつ、付いてるもん付いてるのか?)
男なんて、胸か足しか見ていないと思っている。楓は大きくて細い方なのに、顔はまっすぐに楓を見ている。
「で、要件はー?」
「あんた、人間なの?幽霊なの?」
昼休みと同じことを聞く。でも、答えはわかっている。
「答えません……」
楓はため息をつく。
「はいはい。分かってたよ」
そう言うと同時に、幽霊は小走りで楓から離れていった。
「さて、私も帰るか」
*
美涼はクッションを枕にしてソファで寝転がっている。
「朝霧くんねぇ」
朝霧幽霊。彼について整理することになった。
性別・男。
性格・温和。
特徴・声が間延びしていて、敬語口調。そのほかは不明。
楓にもっと教えてもらおうかと思ったが、明らかな敵意を持ってるから、答えてくれなそうだと思って諦めた。
(でも、なんであの質問には答えなかったんだろ。なにか、答えたくない何かがあるのかな?それとも、幽霊だからかな。バレたら、みんなにバラされるから?まぁ、私は言わないけど。楓なら言いそうだな)
*
夕食を済ませて部屋に戻ると、楓からの不在着信があった。しかも、美涼が物思いにふけていた時だった。
「えー……」
慌ててこっちから電話をかける。
『はいはい。美涼』
「ごめんね。無視しちゃって」
『いいよいいよ。でね、早速だけど』
「うん……」
『幽霊と会ったよ』
「……え⁉︎」
『まぁ、喧嘩は売ってないよ。私にも理性はあるからね』
「あぁ、うん。良かったよ」
思わず、安堵してしまう。
『でね。アイツね、顔とか体とか。多分、そういうのに興味ないと思う』
「でも、私は興味を持たれるような体はしてない気がする。朝霧くんだって、男の子だからそういうのに……」
『気のせいだって?この私でも目しか見てなかったぞ?なんなら、どれだけか見るか?』
「あのねぇ……」
『まぁ、冗談は置いておきましょう』
「あぁ、ん」
『美涼、幽霊に興味持ってない?』
美涼は少し返答に迷った。
「まぁ、うん。そうだね。まぁ、持ってはいるよ」
『ふーーん。ま、いいか』
楓のあくびの音が聞こえる。
『美涼が誰を好きでいようが構わないけどさ、一応、私に定期的に報告しなよ。私の方が恋愛経験あるんだからアドバイスしてやるよ』
「言われなくても分かってるよ。じゃ、おやすみ」
『え、もう寝るの?』
「ごめん。色々疲れちゃってさ」
電話を切り、ため息をつく。




