第3章
二人は、隣のクラスに行く。そこに幽霊がいるからだ。
クラスを覗くと、幽霊はいなかった。
「あれ?いないね」
楓は不思議がる。
「別のところで食べてるんじゃないの?なんか、教室じゃないところに歩いてたし」
「…………学校中探してみるか!」
楓は時々、脳筋のようなことを言ってくる。
「えー。お弁当食べようよー」
「えーい。こうなったら、それすらぶん投げてやる!」
美涼の手を引き、半ば強引に巻き込む楓
*
探し始めて十分。
学校中探したはずなのに、幽霊の“ゆ”の字もない。幽霊だけに気配一つすらない。
「ダメだ。いない。今日休んでんじゃないの?」
「まさか。見たのは確かに、本物の朝霧くんだよ」
「……んー。おかしいね。なんでいないんだろ」
すると二人の背中を、冷気のような声が聞こえる。
「なにか用ですかー?」
「ひ‼︎」
二人して驚き、振り返る。そこには、あたかも「そこにいましたよ」みたいな感じの朝霧幽霊がいた。
(おかしい。なんで。学校中探してもいなかったのに。まさか、透明にでもなってた?)
二人は冷や汗をかく。
「おや。走ったんですかねー。汗をかいていますよー。二人とも」
(違うよ。冷や汗だよ。君が突然現れるからだよ)
美涼は心の中でツッコミを入れる。
すると、楓は美涼の手を引いて走って幽霊から離れていく。横顔を覗くと、「異常事態発生!」みたいな顔をしていた。
*
教室に戻って早々。
「おかしいんだよ。マジで」
楓は息を切らして荒々しい言葉を吐く。
「んだよ。アイツ。急に現れて」
慌ててる。こういう時、楓は口が悪くなる。わかりやすいから、美涼からしたらいい癖だけど。
「まぁ、楓。落ち着こうよ」
「あぁ、そうだな……」
一瞬、男の子かと思ってしまうのは美涼だけではないはず。チラチラ見ている男子たちは、少し意外な顔をする。おちゃらけていて、人気者の楓がここまで口を悪くするとは。
「で、なんで幽霊が出てきたのかか」
口調が戻って、美涼もクラスのみんなもホッとする。
「学校中探したよね。どうして……」
「多分、なにか条件があるんじゃない?」
「条件?なに?裏ボス?」
どうやら、楓の脳はゲームに支配されているようだ。
「なんか、んー。あ……」
「ん?」
「名前を呼べばいいんじゃない?」
楓はうなずく。
「あー、そっか。幽霊」
呼んだはいいが、彼が出てくる気配がない。
「あれじゃない?『必要』っていう意思じゃないの?」
「は?メンヘラ?」
「多分違うよ」
それから、慌ててお昼を食べて授業には間に合った。