第2章
あれから、楓と一緒に学校を出て別れたが、どうも腑に落ちない。
美涼は学校にまた入り、図書室まで階段をあがる。
「おや?」
図書室の真ん前に幽霊がいた。
「なにか、借りたい本がありましたー?」
さっきと同じく、微笑を浮かべながら聞いてきた。
「……いや、ちょっとね」
美涼が階段を降りようとする。
「あぁ、ちょっとまってくださーい」
幽霊が声をかけ、美涼は立ち止まる。
「ん?」
「あの時、本を取ってくれたお礼ですー。これしかありませんけど」
幽霊が差し出してきたのは飴玉だった。
「……ありがとう」
美涼は幽霊の手から飴玉を受け取る。少し触れた彼の手は温かった。人間なのかもしれない。
「では、僕はこれでー」
幽霊は美涼の横を通り過ぎる。
「…………」
美涼は何かを言いかけたがやめた。
(朝霧幽霊。彼は、何者?)
美涼は足を動かす。
「ねぇ」
階段を降りている幽霊に声をかける。
「……んー?」
「メッセージ、交換しない?」
「……あぁ、いいですよー」
共にスマホを出し、メッセージのIDを交換する。
「ごめんね。急に」
美涼はいそいそと階段を降りていく。
*
家に帰って、美涼は大きくため息をつく。
「なんで、あんなこと」
幽霊とメッセージを交換したことを非常に後悔していた。
「なんであんな速いタイミングで交換したんだろ。どうせなら、もっと仲が良くなってからでよかった。なんで私は毎回順序が違うんだろ。それに……」
延々と独り言が部屋にこだまする。
この日、美涼は少し寝つきが悪かった。
美涼が通学路を歩いていると、楓が現れた。
「お、元気がないね。美涼」
「うん。なんかね」
「なに?幽霊に恋しちゃった?」
その冷やかしに、美涼はピクリとする。
「え、なに?」
「これ……」
美涼はスッとスマホを差し出す。
「え⁉︎幽霊とメッセージ交換したの?なに?いつの間に?」
「昨日。楓と別れた時に慌てて学校に戻ったの。朝霧くんをちょっと…………なんていうか、観察するために」
「ほー。でも、よくやったよ。今まで誰もやったことがない研究に手をつけるか」
「それ、研究っていう?私、化学の成績悪いよ」
「まぁまぁ」
肩をポンポンと何回も叩きながら、楓はニマニマする。
「これで美涼初の彼氏かー」
「まだ付き合ってないよ」
「ヒヒヒ。まぁまぁ」
*
売店で飲み物を買い、美涼は廊下を歩く。
「もう、楓ったら」
あの後、「幽霊をお昼に誘う?」だの「もう一回図書室行ってみる?」と余計な冷やかしをもらった。
売店に行く時には楓はついて来るが、今回は行く気がなく美涼一人だ。
「全く……ん?」
目の前には、クリームパンを持った幽霊が前を歩いていた。
(後をつけてみようかな)
幽霊と距離をとり、後をつける姿勢を取る。
これじゃ、刑事ドラマの尾行だ。慎重に歩を進める。
「美涼?」
「わ!」
驚き、後ろを振り返る。
「あぁ……楓」
「どうしたの?こんなところでチョロチョロ動いて。ネズミ?」
美涼は少しムッとする。
「朝霧くんの後をつけてたの」
「え?幽霊?いないよ」
首がちぎれそうなほど頭を振ると、そこに幽霊の姿はなかった。
「……なんで」
「え、まさか本当にいたの?」
「……うん」
昨日、温かった手の感触が嘘みたいだ。
「あれー?悪いことしちゃったかな?」
楓は頭をかく。
かすかに、いい香りが漂っていた。