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第13章

「誕生日……だと?」

 いちごミルクを(かたむ)けたところで止めた楓は呆気にとられる。

「あんた、そんなに積極的だったけ」

「なんか言えたんだよねー。いつもなら恥ずかしいから言えないのに」

「ほーう。美涼も進化したか。なるほど。本格的に幽霊を堕とすようになったか」

 傾けていたいちごミルクを飲む。

「そこで、楓の出番」

「お。なんだい?男の体の構造かい?」

 露骨に手を握り上下させる楓。

「そういうのじゃない」

「あぁ、そうか残念。で、なにかね?」

「えっとね」

 楓は少し体を傾ける。ずっこけるまでにはいかない。

「そこは言えないのね。幽霊には易易(やすやす)と言えたのに」

「えぇい。まだだから」

「はいはい。ほんで?」

「朝霧くんの、プレゼント。どうしようかなって」

 楓はニヤニヤしだす。

「あのねぇ。こう言うのはね手を使うんだよ」

「楓……!」

 美涼は少し怖い目つきで楓を見る。

「はいはい。分かったよ。じゃ、真面目に考えますよ。で、幽霊の好みは?聞いた」

「聞いてない」

「おバカ」

「は?」

「全く。初めから好みは聞く物でしょ。まったく。恋愛はね遠慮しないことが大切。相手の好みを知れば、その分相手に合わせられるし、相手との仲も深まるの」

「あぁ、そう、そうなの…………」

 美涼は楓の圧に押され気味だ。

「全く。それじゃ、ちょっくら聞いてみるか」

「……え、誰に?」

「幽霊に」

「…………え?」


            *


 楓はクリームパンを持って売店から出てくる幽霊を見つける。

「お、幽霊だ」

 偶然を装い、幽霊に手を振る。

「おや、どうしましたー?」

 いつもどおり、微笑を浮かべている。

「ねぇ、幽霊はさ、どんなもの貰ったら嬉しい?」

「おや。白川さんと同じで、あなたも何かあげるつもりですー?」

「いやいや。美涼が幽霊のプレゼントに迷ってるらしいからさ、ちょっとしたリサーチを」

「ほーう。なんでしょうねー。もらえるならなんでもいいんですがねー」

「なるほど。あぁ、あと一つだけ」

 楓は指を一本立てる。

「幽霊ってさ、どんな子が好み?」

「えーー。そう言われましてもねー。僕、恋愛とかあんまりわからないんでー」

 楓の顔はニヤニヤしてくる。

「じゃあ、攻めたい?攻められたい?」

「攻め……それってー、どう言うことですかー?」

「あぁ、美涼と同じか。ま、いいや。じゃあね」

 手をフリフリして楓は幽霊から離れる。


            *


「ただいマッチ棒」

 楓は美涼の向かいに座る。

「で、どうだった?楓」

 すかさずと美涼は楓に聞いてくる。

「もらえればなんでもいいってさ。あと、美涼と同じ草食系だよ。やれやれ。リードしてくれる人がいないとは」

「誰が草食系?」

「あんた」

 同時に楓は美涼を指差す。

「私、楓から見たらそんな感じなの?」

「そうだね。全く。私と美涼の思考回路を入れ替えたいよ」

 楓はわざとらしくため息をつく。

「あぁ、そうだよ」

 楓は何かを思いつく。顔は奇妙な笑みを浮かべている。

「みすずー。これだよ」

「……ん?」

「私が男の子のあしらい方を教えてあげよう。これでどうだろう?あぁいう無頓着な男はこっちがリードするのよ」

「うーーん。まぁ、うん」

 美涼は少し乗り気ではなかった。


            *


 土曜日。幽霊の誕生日まであと一週間。

「はい。まずはねぇ」

 楓は美涼の部屋で講義をしている。

「いいかね。多分、幽霊は気を効かせるかもだけど、それ以外はしないと思われる。つまり、美涼(こっち)からアクションを起こすしかないって言うわけ。そして、私が今までの恋愛経験で男がもっともドキッとしたことをやってみましょうしょう少林寺」

 “しょう”が一個多かった楓を見て、美涼は「大丈夫だろうか」という疑念を抱き始める。楓は少しズレたような恋愛をしている気がする。

「ほいじゃあ、立って。スダンドァップ!」

 美涼は驚きと疑念を胸に立ち上がる。

「まず、一つ目。女の子側からの押し倒し」

 楓は美涼のベッドの前に立つ。

「ほいじゃあ、やってみなさい」

「ふぁ……」

 美涼は変な声を出す。

「うまくいけばいい感じになるかもよ」

 ニヤニヤ顔の楓が言う。

「えぇ、もうやだ」

「やってなきに何言ってるべ。ほれ、オダにぶつかってやってみっちゃ」

「誰?」

 楓の突然などこぞの方言に少し美涼はつっこむ。

「ほらー。早くやんないと」

 楓は美涼の部屋の端っこに置いてある彼女が持ってきたリュックを見る。

「あの中から何が出てくるかわからないぞー」

「なに、あれ。竹刀でもあるの?」

「はいはい。無駄話なし。ほれ、ヤれヤれ」

「あー、もう」

 ぶっきらぼうに楓を押し倒す。顔は楓の胸に着く。

「うん、ダメだね」

 美涼は楓から離れる。

「じゃあ、なにならいいのさ」

 聞き返す美涼

「そうぶっきらぼうにするもんじゃない。愛情持って」

「愛情ってね」

「じゃ、私を幽霊だと思いなさい」

「いや、身長がねー」

「白川さ〜ん」

 幽霊の声真似をする楓。

「地味に似てないからやめて」

「はい。すいません」

 美涼の威圧的な声に、楓はまともに謝る。

「とにかく、私を幽霊だと思いなさい。男は女の密着に弱い!どこかしらに触れてればいいと思うけどね。下半身をのぞいて」

「楓……」

 親友のその冗談に、美涼は少し安堵する。

「じゃ、もっかいやるよ」

「お、乗ってきた?」

 楓はベッドから起き上がる。

   

            *


 何回かやって、二人は疲れてきた。

「つかれたたったー」

 楓はベッドから起き上がり、リュックを漁る。

「え、竹刀でも取り出すの?」

「んーん。違うよ。色は似てるけどね」

 楓が取り出したのはコンビニのエクレアだった。

「食おうぜ。甘いもの」

「休憩?」

「ううん。終わり。やっぱり、美涼くらいならこれくらいがいいかなって。『もっとやってほしい』を期待できるような感じにはできたかなって。ところで、プレゼントは?」

「あぁ、いいのが見つかったから、取りに行くよ」

「ん?取りに行く?」

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