第10章
「幽霊にプレゼントをもらっただーー⁉︎」
楓は飲んでいたイチゴミルクをよだれのように垂らしながら大きな声を出した。
「楓、声大きいよ。あと、プレゼントとは言ってない」
「いやー。マジかー。美涼も、ついにか……」
「なんか勘違いしてない?」
二人は一旦間を空ける。
「それはね、多分。朝霧くんなりの気遣いなんだよ。だから、多分。他意はない……」
「バカヤロー!バカヤロー!」
話の途中で楓は美涼の肩を掴み、ブンブン揺らす。
「お前はそれだから、彼氏も私しか友達ができないんだよー!考えることが浅ーーい!」
「分かった。分かったから」
楓は美涼の肩から手を離す。
「……疲れた」
「暴走すればね」
楓は興奮すると、声を大きくする上に、乱暴なことをする。感情がわかりやすい。喉が渇いたのかいちごミルクをガブ飲みする楓。
「ほんで、進んだ?幽霊と」
「ん……あぁ、少しは」
「少しはってね。あんた、バカ言っちゃいけないよ」
この短時間で、三回バカと言われた。少し腹が立ってくる。
「いいかね?私が服をセッティングしたのは置いといてね。幽霊から帽子をもらって『ありがとう』だけじゃ足りないのさ。もっと、なんか、こう。『ご褒美だよ』とか言って……」
「なにを考えてるの?楓は」
ドライに美涼は言った。
「いやね。私は美涼が将来独身を貫くのが心配なのだよ」
「独身って……」
「あ、『顔がいいからいつか彼氏できる』と思ってる人の典型だ」
「やめなさい」
「でも、美涼がそこまで奥手だとは……」
「奥手って……楓がグイグイ来すぎなんだよ」
「え?いちごミルクぶっかけるぞ」
しれっと、空のいちごミルクのペットボトルを振る楓。言うほど量はない。
「ダメだ。かける量のいちごミルクないから美涼買ってきてー」
楓は財布から、いちごミルクの代金、百二十円を美涼に手渡す。本当にかける気なのだろうか。
*
美涼は渋々、二棟の職員室前の自動販売機に向かう。
「おやおや……」
そこには、変わらない調子の幽霊がいた。
「あぁ、ありがとね。帽子」
「あぁー、いえいえ。日射病が心配なので。なにも無くて……」
すると、聞き慣れない声が美涼の耳に入ってきた。
「あー。白川さん……?」
そこにいたのは、話したこともないし見たこともないような高身長な男子だった。
「ちょっと、いい……?」
「あぁ、うん……ごめんね。朝霧くん……」
美涼は幽霊を置いて、彼に着いて行く。
*
「美涼遅いな〜〜」
楓は小さな声で言ってため息をつく。
「いちごミルクにどれだけかかるんだろー?私の風呂くらいかかるじゃん。おかしいな。自販機にいちごミルク売ってなかったけなー」
楓は立ち上がり、二棟に向かう。
(まさか幽霊を見つけて、別室でやってんのかな。そうだといいな)
変な期待をしながら、楓は廊下を歩く。だが、そんな声は聞こえる気配がない廊下を、楓は淡々と歩いていた。




