第1章
男子生徒たちが、本を読んでいる一人の女子生徒を見ている。彼女は、宝石のような美しさを持っていた。名前は、白川美涼。
つややかな長い髪。小さな顔の中には大きな瞳を持っていて、顔も綺麗に整っている。まさに、絵に描いたような美少女だ。
彼女はある一人の男子に近づく。
彼は、美涼よりも低い身長に、目が隠れるくらいの前髪をしている。どうやら、一番上にある本棚の本を取りたいが、手が届かず、美涼に手伝ってもらっているようだ。
「本、どんなの?」
美涼は彼に聞く。
「あぁ、ミステリーのー……」
女の子のように高く、間延びした声。その声は女の子と思わせる。
美涼は細く白い手を伸ばし、彼に手渡す。
「ありがとうございますー」
彼は美涼に一礼すると、貸し出しカウンターに向かっていった。
美涼は去っていく彼を見ていた。
*
美涼は、とある人物と話している。
「え?奇妙な男の子?」
彼女は美涼の幼馴染で通称、幼馴染美女コンビといわれている、島風楓。彼女の髪はだいぶ茶色い。染めたわけではないのに、こうなっているのだ。そのせいで、よく頭髪検査に引っかかる。
「うん。なんか、人間味がなかった」
「ふーん。美涼が興味を示すなんてすごいね。どんな子なんだろ」
楓は呑気にあくびをする。
「じゃあ、見てみる?今日の放課後。多分、いそう」
「図書室?」
「うん」
「ほいじゃあ、行ってみるかー」
楓は億劫そうに言った。でも、嫌がってはないのは分かっている。
*
「どの子?」
楓は本棚の影から机を一瞥する。
「ほら、あの、ハードカバーを読んでる前髪長い子」
美涼はコッソリと指をさす。
「あ、いた」
普段、声が大きいのにこの時だけは静かにしている。
「あの子か。確かに不気味だねー」
「楓。誰かわかる?」
「朝霧だね。朝霧幽霊」
「ゆ、幽霊?」
不思議な名前に、驚く。
「どんな子……?」
「わからないねー。でも、不思議な子っていうのは覚えてるよ」
「うーん……」
美涼が考え事をしていると、後ろから声がかかる。
「呼んでますー?」
驚いて、二人は後ろを振り向く。
そこにいたのは、声が間延びしていて、微笑を浮かべている小柄な男子。朝霧幽霊だ。
「あなたたち、覗き見は良くありませんねー」
口調は敬語だ。でも、同い年のはずだ。なぜか幼子のような、大人のような感じがする。
「うっさい。あんたじゃないから」
楓は美涼の手を引き、図書室から出る。
*
二人は渡り廊下で立ち止まる。
「なに、あれ……」
「ね。いつの間に来てたんだろ。気配さえ無かった」
まるで、バトル漫画みたいだ。
「考えられるのは、二つ」
楓は指を二本立てる。
「あいつ……幽霊は本物の幽霊か、それともただ、幽霊っていう名前の影の薄い人間なのか」
霊や霊的現象については、美涼は信じていない。
でも、この時は一瞬、朝霧幽霊は幽霊じゃないかと思った。
ありえないからだ。足音もなく一瞬で自分たちの背後に立つとは。
幽霊以外に、なにもない。