美しきアドリアーナとDrミゼリオの快楽
被検体第一号:Dr.ミゼリオの秘密の実験
とある路地の、小さいがまずまず活気のあるレストラン。
所謂、穴場である。
一見目立たないその店は、昼は普通のレストランだが、夜になると怪しげな男や娼婦などで溢れかえる。
今宵もまた、その喧騒は路地にまで響き渡っていた。
下品な笑い声を上げて、椅子から転がり落ちた娼婦に手を差し伸べたのは《ミゼリオ》、この店の店主である。
整った顔立ちを見てハッとし、すぐに頬を染める娼婦。
ニコリとして彼は、「お客様、少し酔いを醒ましては…?」と、カウンター裏に彼女をエスコートした。
娼婦はなにかを期待したような眼差しでこくりと頷くと、ミゼリオについて行った。
その先にどんな快楽があるのだろうと想像しながら。
しかし、娼婦の淡い期待は絶望へと変わる。
彼女はまだその事を知らない…。
被検体第十二号:2体の《死体》と、愛しきアドリアーナ
ミゼリオの心地よい朝がやってきた。そう、甘美なまでに心地よい朝だ。
2つの干からびかけ、《人間》だった《なにか》を抱き寄せて、ミゼリオは愛おしそうに頬ずりした。
「おはよう。フェイト、デスティニー」
いつものように朝食を《4人分》作り、彼は地下へと向かった。
「おはよう、アドリアーナ。朝食を持ってきたよ。僕の自信作さ」
そう笑顔で微笑すると、女も、男でさえ頬を赤らめてしまうようなそんな優しげな笑みで。
ガシャ…と重たい何かを引きずるようにして、彼女「アドリアーナ」はゆっくりと小窓から差すわずかばかりの光の元へと進み出た。
その姿は、あちこちが大きく腫れ上がり、辛うじて肉の間から見える瞳はブルーの美しい目だった。
しかし、その目は恐怖に縮こまっている。
まるで、ひどく躾けられた子犬のように。
そう、彼女は《躾け》られたのだ。
床に置かれた皿に盛られた朝食を見るなり、ボロボロと涙をこぼしながら口をつける。
なぜ手を使わないかって?
だってもう彼女の《手》もしくは《腕》は《無い》からだ。
両肩から下がごっそりと無くなっている。
その様子を楽しげに壁に寄りかかって見つめているグレーの瞳は、それを見て大層面白がっているように見える。
「よしよし、食べてる食べてる」
そう言いながら彼はうんうんと楽しそうに頷いた。
そして、そのまま踵を返し地下の階段へと姿を消した。
それが彼の日常だった。
そうして、自分よりも弱くなった人間を眺め、愉しむ。
抵抗の出来ない相手なら、裏切らない、逃げない、どんなにひどく扱おうとも。
彼はそこに、ある意味安心感を抱いているのだ。
「誰も、もう僕を傷つけさせない…」
ぽつりと呟いた、しかし次の瞬間顔を上げると、まるで常識人のような顔に戻りいつもの優しげな微笑が浮かんでいた。
今日も一日がはじまる。そう、彼にとっての幸せで退屈な一日が。