アウトオブあーかい部! 20話 ネイバー
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
3度の飯より官能小説!池図女学院1年、赤井ひいろ!
趣味はケータイ小説、特筆事項特になし!
同じく1年、青野あさぎ!
面白そうだからなんとなく加入!同じく1年、黄山きはだ!
独り身万歳!自由を謳歌!養護教諭2年生(?)、白久澄河!
そんなうら若き乙女の干物4人は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく、学校から少し歩いた住宅街。
「珍しいね、2人が私の家に遊びに来たいなんて。」
「急に部活がなくなって、暇になってしまったからな。」
「白ちゃんの風邪、早く治ると良いねぇ。」
(まあ本当は全然元気なんだけどね……っ!?)
物陰にあさぎ、ひいろ、きはだを尾行する影が1つ。仮病で仕事を休んだ白ちゃんである。
(ひいろちゃん、きはだちゃん、頼むわよ……?)
時は少し遡って、昨日の夜。
会議ッ!(3)
[ひいろが参加しました]
[きはだが参加しました]
白ちゃん:よし、2人とも来たわね
ひいろ:あーかい部のトークルームじゃダメなのか?
きはだ:あさぎちゃんハブだぁ、そう言うの良くないんだよぉ〜?
白ちゃん:ごめんなさい、あさぎちゃんにバレるわけにはいかないの
ひいろ:訳ありか?
きはだ:じゃあまずは人にものを頼む態度から
白ちゃん:土下座しながらビデオ通話してもいいわよ
きはだ:おお、冗談だってぇ……
ひいろ:で、なんの会議なんだ?
白ちゃん:あさぎちゃんのお隣さんに会いに行くわよ
きはだ:マジで?
ひいろ:いくらご近所さんイベントが羨ましいからって
白ちゃん:カレーか?肉じゃがか?ちょっと作り過ぎてくる
ひいろ:いや、いいです……
きはだ:今日の白ちゃん怖え
白ちゃん:2人とも明日暇?
きはだ:明日はあーかい部の活動日だよぉ
ひいろ:だよな
白ちゃん:よし!
きはだ:全然『よし!』じゃないよぉ
白ちゃん:突然ですが、私は明日熱が出て学校を休む予定ができたので、顧問不在のためあーかい部はお休みです
ひいろ:ええ……
きはだ:真っ当な大人のすることじゃねえ
白ちゃん:というわけで、明日2人にはあさぎちゃんの家まで案内してもらいます
きはだ:あれれぇ?なんだか熱が出て来たみたい……これは明日学校行けないなあ
白ちゃん:仮病は認めません
ひいろ:なんたる理不尽……
白ちゃん:じゃあ明日の放課後、2人はあさぎちゃんの家に訪問すること。私も後ろから同伴します
きはだ:そりゃあもう尾行ですぜ旦那
白ちゃん:成功したら2人になんか奢ってあげるから、いいでしょ?
ひいろ:『3人分』な
白ちゃん:友達思いなのね
きはだ:友を売らせて言う台詞じゃねえ
時は戻ってあさぎの住むマンション前。
「着いたぁ♪」
「学校から近いと羨ましいな。」
「ひいろの家もそんなに変わらないでしょ。」
「それじゃあ、おっじゃまっしま〜す♪」
「お邪魔するぞ。」
「お邪魔するわ。」
「え"……?」
あさぎの家を訪ねる声が3つ重なった。
「ん?」
「なんで、白ちゃん先生がここに……!?」
「え〜っとぉ、家庭訪問?」
「そりゃ訪問してますよねっ!なんでいるんですか今日熱でお休みって
「仮病よ……!」
「う〜わかっこ悪ぃ。」
「こんな大人にはなりたくないな。」
「っていうか2人とも!まさかグル
「すまない。白ちゃんが、こうすればなんか奢ってくれるって……、」
「私、『なんか』で売られたの……?」
「まあまあ、あさぎちゃんにとっても損な話じゃあないからね?」
「まったく……どうせ『お隣さん』目当てなんですよね?」
「あら、鋭いのね?」
「白ちゃんそこは『お前が欲しいんだ』って言うとこだよぉ〜。」
「違うわっ!」
「……はぁ。出入り口じゃ邪魔になるし、とりあえず上がってください。」
しぶしぶあさぎは3人を自室のあるフロアまで案内した。
「へぇ〜、あさぎちゃん家って角部屋なのね。ということは
白ちゃんはあさぎの家の隣室に向かってまっすぐ歩き出した。
「待って待って!?」
「なんで止めるの?」
「無理やり押し行るのは犯罪です!」
「そうね。」
「わかってるなら歩みを止めてください……!」
「いったい何が白ちゃんを突き動かすんだ……?」
「さあ?」
お隣さんの室の前でわちゃわちゃしていると、不意に中からドアが開けられた。
「やっほーあさぎ♪」
ドアを開けて出てきたのはもう1人の白ちゃんだった。
「「え」」
「……。」
「今日も元……き
「見つけたわよ琥珀!!」
「やべっ、
唖然とするひいろときはだの前で白ちゃんともう1人の白ちゃんがもみくちゃになっていた。
「はぁ……。やっぱこうなるかぁ。」
「あさぎちゃん知ってたのぉ?」
「ワタシ達には、白ちゃんが2人いるように見えるんだが……これはどういうことだ?」
「ちょっ、すみ姉放して……!」
「そういって海の向こうへ高飛びしたのは琥珀でしょ!?もう絶対離さないんだから……!!」
「えっと……見ての通り、2人は姉妹です。」
「白ちゃん、姉妹いたのか……。」
「そういえば前にそんなこと言ってたような?」
「っていうかさっきから琥珀琥珀って、今の私はモーラ・コロルなの!その呼び方やめて!?」
「なぁにがコロルよ!?売れない芸人みたいな名乗りしちゃって……!」
3人に見られていることなんてお構いなしに、白ちゃんともう1人の白ちゃん……『モーラ』と名乗り『琥珀』と呼ばれる女性は取っ組み合いを続けていた。
「あんなクソ親の苗字よりよっっぽどマシだわ!とにかく私は自由に生きるの……!!」
「それでどれだけ心配かけたと思ってんのよ白久琥珀!」
「まぁた言った!?私はモーラなの!白久琥珀なんてもうこの世にいないの……!」
「うっさいパスポート見せやが
「……ぁぁあもう!!2人とも人ん家の前で騒がないでください!!!」
人目も憚らず大声で取っ組み合いを続ける大の大人2人に、あさぎがキレた。
「「……。」」
「とりあえず入って……!」
「「……はい。」」
「「「「お邪魔しま〜す……。」」」」
「……とりあえずまっすぐ行くとリビングだから。」
アサギの剣幕に圧倒されて4人が席に着くと、
「……ひいろときはだはこっち。」
「あ、ああ……。」
「はぁい。」
あさぎは姉妹を残して3人で自室へと移動した。
「……ふぅ。」
「……なんだか、すまないな。」
「いいよ。いつかはこうなるって思ってたし。」
「あさぎちゃんはいつから知ってたのぉ?」
「……あの外見で、気づかないと思う?」
「「それはない。」」
「……一目見たときから察してたよ。まあ、白ちゃんの口から話してもらってだいぶ経つけど。」
「……ん?」
「今までちょくちょく話題に出て来たお隣さんがモーラさんってことでいいんだよな?」
「うん。」
「羨ましい……!」
「え?今そういう流れ?」
「だってそうだろ!?お互いの部屋に入り浸ったり、お土産もらったり……実質同棲じゃないか、セッk
「言わせないよ?」
「ねえねえあさぎちゃん。もっと教えてよ、モーラさんのこと。」
「うん。し……モーラさんは外国人っぽい名前だけど白ちゃん先生の妹で、今まで世界の色んなところにいたみたい。」
「さっき白ちゃんは『こはく』って呼んでたねぇ。」
「モーラさんはもうその名前捨てたって言ってたけどね。」
「『琥珀』はもうこの世にいないってそういう……。」
「名前も雰囲気も白ちゃんと違うのはそれでか。」
「……で?」
「な、なに……?」
「あさぎちゃん、随分と仲良しに見えたけど……もしかしてお付き合いしてたり?」
「やったのか……!?」
「違う!?ないないないない!?いくら部屋が隣だからって、白ちゃんに限ってそんなこと!///」
「だよねぇ。」
「そうなのか……。」
「ひいろはどうして欲しかったんだよ……!?」
情報共有が済んで、3人で暇を潰していると、リビングにいた白久姉妹があさぎの部屋に入ってきた。
「ちょっとモーラ!ノックしないで入るのは
「いいのいいの♪私とあさぎの仲だから。合鍵だって渡してるし。」
「し……モーラさん。話、まとまったんだね。」
「まあね?お陰様で、すみ姉にも名前で呼んでもらえるようになってハッピーよ♪」
「みんなごめんね?騒がしくしちゃって。」
「別に構わないぞ。」
「なんか奢って貰える約束だしねぇ?」
「マジで?サンキューすみ姉♪焼肉いこ!」
「行かないから。」
「はあっ!?そりゃないでしょ〜……。」
「ま、せいぜいファミレスがいいとこね。」
「すみ姉大好き♪」
2人の調子から見て、とりあえずわだかまりはいったん落ち着いたようだ。
「良かったね、し……モーラさん。」
「あさぎもな。」
「へ……?私は出すよ。奢りは2人の約束でしょ?」
「ひいろちゃんに感謝だねぇ。」
「白ちゃん先生にじゃなくて?」
「……それでいいさ。」
「?」
「じゃあこのまま行っちゃいましょうか。」
5人は最寄りのファミレスへと入り席についた。
「いっやぁ〜、お腹空いちゃうね!」
「諭吉1人に収めなさいよ?」
「わーってるって♪」
「ここ、ファミレスなんだが……。」
「1人2000円超えは逆に難しいよぉ。」
「いや、し……モーラさんなら……。」
「そーいえば、あさぎはいつもみたいに呼んでくれないの?」
「えっ!?///」
「「ん?」」
「や、やだなぁいつもどおりじゃん!?」
「あさぎちゃんも観念して呼んじゃえばいいのにねぇ、『白ちゃん』って。」
「「え?」」
「おお?」
「……なっ、何言ってるのやだなぁ!?きはだったら。モーラさんといるとこ見たの今日が初めてなのに……!///」
「お部屋のときからちょいちょい呼んでたよ?」
「なっ……!?///」
「ああ、それでところどころ文脈がおかしかったのか。」
「へ〜え?やるねぇ、きはだちゃん。」
「あさぎちゃんがチョロいだけですぜ。」
「ちょっ……、ちょっと、どういうことなのよあさぎちゃん!?」
「あ……いや、その……
「『白ちゃん』は私でしょう!?っていうか今までずっと先生呼びでちょっと距離感じてたってのに!?」
「ええ……っと……
「やだなぁ、あさぎが自分からそんなことする訳ないじゃん?」
「モーラあんた、まさか……!」
「まさかも何も、私が頼んだんだよ〜♪」
「これがNTR……!?初めて生で見た……。」
「あさぎちゃんは誰とも付き合ってないよぉ?」
「あんた、人の教え子に手ぇだすなんて……!」
「出されてませんっ!///」
「何か問題?」
「モーラさんも否定してよ!?」
あらぬ誤解をかけられテンパるあさぎをよそに、モーラは愉しそうに口角をあげて続けた。
「白ちゃん『先生』が教え子に手ぇ出したら違法だけどさ?」
「そうよ!」
「『白ちゃん』が先生の教え子に手ぇ出したって、法には触れないよね。」
「う"っ……!?」
「おお〜」
「一理あるな。」
「つまり合法なんだよ。」
「くぅ……っ!」
「いや『くぅ……っ!』じゃないんですよ、皆して私に手ぇ出そうとしてるみたいな雰囲気にしないでくれます!?」
「つ、ま、り?」
「なによ……、」
「赤の他人である私があさぎちゃんに『白ちゃん』呼びさせることで、安全に教師×生徒を擬似体験できるってわけよ!」
モーラは高笑いして勝ち誇った。
「「「「うわぁ……。」」」」
「禁じられた関係……ああ、なんて背徳的なの……♡」
「やっぱり白ちゃんの姉妹なんだな。」
「血は争えないねぇ。」
「そこで確信するのやめて!?」
「悔しかったらすみ姉も……おおっとごめん、『先生』は違法だったわねぇ♪♪」
「くぅぅぅ……!!」
「煽りよる。」
「さあさああさぎちゃん、『白ちゃん先生』の前で、いつもみたいに私を呼んでちょうだ
「やっぱモーラさんで。」
「 」
「振られてやんのwww」
こんどは白ちゃんがモーラを煽り返した。
「笑うなっ!?///すみ姉だっていまだに先生呼びのくせに!」
「……!///」
お顔が大火災のあさぎは、木槌で場を鎮める裁判官の如く、テーブルを両手で叩き2人を諌めた。
「公共の場ですよモーラ・コロル氏、白久澄河養護教諭。」
「「 」」
姉妹はしばらくの間フルネームで呼ばれることになったとか。