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1話

私は15年しか生きてないけど、そこそこは満足してる気がする。コンビニまで歩いて50分、学校までも1時間15分。お陰様で足はダイコンのように太くなりそうな事以外満足していると言い聞かせている。


「起きろー、学校遅れるわよ」


「遅れるぐらいの時間で、パンを咥えたままイケメンとぶつかるのが夢だから」


「ぶつかるのはハエとじゃない?」


私の夢を語ってもいつもお母さんに否定されるのはなんでかな……。やっぱり王子様は来なさそう。


でも私はおとぎ話でも現実で起こしてみせる。布団を蹴り飛ばし、部屋の扉を勢いよく開けて、支度をする。


「行ってきます」


「パン焼いたから食べてから行ってきなさいね」


「ありがとう、これで今日もドキドキチャンス出来る!」


「食べてから行きなさ——」


お母さんがなんか言ってたけど〝ドキドキ〟チャンスは私の青春には必要不可欠。だから私の空腹は仕方ない犠牲になる。


 飛び出してみてはいいものの目の前には小さい虫の集合体、田舎の田んぼの近くに出没する特徴がある。でも私のレッドカーペットの進行を邪魔している。でも、降りかかる火の粉は払うだけよね!


「どらぁ!」


私の手のひらに恐れたのか1匹も残らずに消え失せた。


「こらこらー、女子がそんな物騒な顔つきで暴力を振るったらダメよ」


振り向くと、小学校の頃からここ一帯の生態系の頂点に君臨している。何故か趣味は筋トレのめろんちゃんだ。


「めろんちゃん、おはようー。虫どもに私のレールを踏み荒らされたくなかったんだぁー」


私のレールを邪魔する田舎の敵は、少し顔が整っててぶりっ子するヤツとさっきの虫は全員敵。駄目だ駄目、日々の憎悪に押しつぶされてしまう。


 やっとのことで辿り着いた教室の扉を開けると今日はいつもと違い人が少なかった。まぁみんなお寝坊さんなんだろう。私の席は漫画とかでよくある主人公席ではなく、成績順で席が決まるから毎回問答無用で特等席だ。


「いちごちゃん、今日もなんか怒ってない?」


「朝から虫もいるしイケメンにも出会わないし、さっき壁殴ったけど全然怒ってないよ!」


「絶対怒ってるじゃん!王子様との出会いは必然の上に成り立つ偶然だから、気長にまとうね」


「なに悠長に考えてるの?もう15だよ四捨五入してみ。……20だよ」


20歳はもう焼き肉でカルビがちょっと厳しくなるし、今の体を大切にしないと。


めろんちゃんは現時点で全てが完成してるから、多分こんなに余裕があるんだと思う。そこは見習わなきゃ。


 朝のホームルームが始まっても教室はガラガラだった。クラスの委員長の川口君がみんなに「休みが多いけど知ってる人いたら教えてくれないかな?」と聞くも数人の生徒は首を横に振るだけだった。


「まぁ、いない方が静かで良いんじゃね」


はい出ました。一旦自分を見つめなおすべき第1位。多分これはどこの世界も共通なのかもね。


「そんなこと言わないであげて、なにか事情があって来れてないのかもしれない」


川口君がすかさずフォローを入れてあげてる。来れてない人の気配りが出来るなんて優しいじゃん。勝手に私の中で川口君の評価が上がったところで、登校していない生徒がいるのは分からずじまいだった。


 2時間目の終わりに担任の先生がやって来て全員を集めて話し始めた。


「今日は学校全体で人も少ないので、今から下校してもらいます。保護者の迎えが必要な人は連絡するように」


全体ってことは先生も来ていないんだ。なんかちょっと不穏だけど、この時が2番ワクワクするんだよね。


「めろんちゃん、帰ろー」


「ごめんねー、お母さんに迎えに来てもらうんだぁ。乗ってくかい?」


これはありがたい提案だけど、いつもいつもめろんちゃんのお母さん普通の道で100キロだすから怖すぎるんだよね。


「今日は歩いて帰ろうかな、前乗せてもらったし――」


「あら、そうなのね。ではでは」


手を振る彼女の姿は一瞬のうちにして見えなくなった。さて私も帰ろうかな。


 なんか今日人居ない気がする、元々多くもないけど今日は特段少ないかも。


昼過ぎぐらいに家に辿り着いた。まぁなんかテレビ見るか――。


番組何もないんだった。ひたすらにリモコンを押しまくっていると超ローカルテレビ局の良く分からない番組が映った。風景的に私の登校ルートのどこかの畑だろうか。


「今日はこの苦くないピーマンで話題の川口健次郎さんにお話をお伺いします。どうも今日はよろしくお願いします」


何気ない挨拶が終わり、本題に行こうとしている。昼過ぎの番組にしては興味深いと思った。


「このピーマンの秘訣はどういった取り組みをしているのでしょうか?」


「遺伝子組み換えですよ。どんな努力をしたってピーマンは苦いもんですよ」


「そ、そうですか」


これって田舎の農家さんがどんな手入れしているかを見るものじゃないの。めっちゃリポーター困ってるじゃん。


「実際に食べたいと思います」


「……ピーマンの苦みがなく食べやすいです」


ちょっと気になるな。今度スーパー行ったら見てみよう。


「以上でコーナーを終わります。来週も楽しみに!」


「次は苦くないゴーヤのコーナーで――」


もういいです。2連続で苦い野菜のコーナーは重い……重すぎる。


気づいたらこんな時間だ。もう夜ご飯の時間だしなんか損した気分。


 今日の晩ご飯は――。


ピーマンの肉詰めだった。でも件のピーマンならなんとかなるし、折角作ってくれたしここで引くわけいかない。恐る恐る口に運ぶと――。


「ニッガ!」


ちょっとした期待もあってか普段の数倍も苦く感じた。もう水で流しこむしかない。


「好き嫌いせずにちゃんと食べなさい。最近だと〝食品ロス〟だったかしらそれになるそうじゃない」


「これはそんな単純な話ではないのだよ。本能的な防衛本能であり、〝正当防衛〟なんだよ」


「馬鹿なこと言ってないで、ちゃちゃと食べちゃいなさい」


 四苦八苦しつつも長い戦いの上に私の勝利で終わった。もう次は他の野菜に詰めて欲しい。


「ちょっと近くの八百屋までタンネギとニンジン買ってきてくれない?」


「えー」


これは迷う、片道20分なのが欠点だけど、今日は疲れてないし行ってもいいかな。


「いいよ、行ってくる」


もらった500円をしっかり握りしめ。7時過ぎだけどまだ全然暗くないし少しほっとした。


 八百屋の前は明るいし、多分空いてるだろう。店の前まで行って覗き込んでも誰も居ない。めっちゃ困った。


ふと来た道を振り返ると遠くて鮮明には見えないけど、私に腰ぐらいの大きさのピーマンが二足歩行で走って来るように見えた。私遂に幻覚見ちゃう不思議ちゃん枠に昇進しちゃうのかも。


何度目を擦っても見える光景は変わらなかった。ここいたら結構やばいかもしんないし逃げなきゃ駄目なヤツだよね……これ。


 30秒ほど走っただろうか、一旦後ろを確認するとさっき私のいた店の前をピーマンの怪物は走ってきてる。満足した一生ではなかったけど、私の人生はもうエンディングなのかも。


「困っているようだね。朕なら君のことを助けてあげられるよ」

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