深夜のNTRじゃないビデオレター
原作の主人公は、悪役を理解できない。
すでに彼の理解を超え、どんどん成長しているのに……。
紫苑学園に戻った室矢重遠は、日常の中で次なる戦いに備える!
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どこかの建物にある屋上。
空調のファンや貯水タンクの他に、洗濯物を干すロープも。
夜空からの月光と、周りの人工的な灯りが、セーラー服の女子を照らし出す。
未来の娘である女子高生の二条冴は、ぺこりと頭を下げた。
『このような形になってしまい、大変申し訳ありません……』
俺のスマホにいる冴は、自分が平行世界にある東京に住んでおり、異能者と呼ばれる超常的な力を持つ人間もいることを告げた。
『本当は、西永くんに謝ってから話すつもりでした』
俺が未来の父親で、その平行世界の過去で会ったものの、巻き添えの形でこの世界へ。
『室矢重遠さんは、私のお父さんです! どう見ても兄妹にしか見えないため、余計なトラブルを避けるために『お兄ちゃん』と呼んでいたんですけど……。私が持っていた【花月怪奇譚】は、お父さんの前世……。ええっと……。どうも、この世界で生きていた男子のようですけど。そのゲームが原因で、私の住んでいる世界へ来たようです』
言葉を切った冴は、悩ましい表情に。
『いきなり言われても、困りますよね? だけど、そういった事情で【花月怪奇譚】を開発した会社に手掛かりがないかと……』
スマホのカメラを見つめた冴は、最後に告げる。
『お父さんと睦月さんが言うには、これ以上は危険だそうです……。なので、お父さん達の力で先に自分の世界へ戻ります。お夕飯をいただき、本当にありがとうございました! 最後の会話であのようになってしまい、重ねてお詫び申し上げます。……さようなら。どうか、お元気で』
深々と頭を下げた冴は、元の姿勢へ。
少し迷ったあとで、お願いする。
『あの……。自分勝手ですみませんが……。お父さんと睦月さんを助けてくれませんか? ご無理がない範囲で……。お、お願いします!』
何度も頭を下げた冴は、手を振り、改めて別れを告げる。
スマホで撮影した動画が終わった。
シークバーは最後まで辿り着き、動きを止めた冴が映ったまま。
ダイニングテーブルに置かれたスマホを見つめたままの、西永和一。
場所は、一階が店舗だった民宿のような木造。
外に面した側に古い給湯機が目立つ台所がある狭いダイニングで、俺と槇島睦月は対面に座っている。
沈黙が続く中で、睦月の声。
「で、どうするの? 今すぐに出ていけと言うのなら、従うけど」
「……二条さんは」
和一の絞り出すような声に、睦月は黙った。
「彼女は、どこで見つかったんですか?」
「治安が悪そうな場所! 外は暗いし、僕は周りを知らないから、聞かれても困るけどね?」
地元のヤーさんだか、半グレを始末したことを言わないか。
知らないほうがいいからな……。
そう思っていたら、和一が俺を見た。
「二条さんは、家に帰ったんですね?」
首肯したあとで、相手を見ながら答える。
「ああ……。疑うのなら、警察でも何でも呼んでくれ」
わずかに逡巡した和一は、ため息をついた。
「二条さんはあなた達を信用していたし、本当にやましいことがあったら俺に事情を話さないでしょう? 逃げますよ、普通」
睦月がいなかったら、通報ラインだったかな?
和一の反応を見ながら、ふと思った。
いっぽう、その睦月が尋ねる。
「今は……深夜の2時か! ね、どうする? 僕たちも眠いから、早く決めて欲しい」
「明日の朝に、話し合いましょう……。約束通り、2階の和室で寝てください。布団は、押し入れにあるものを適当に」
「ありがとう!」
ダイニングテーブルの上を気にしている和一に、声をかける。
「そのスマホは、明日の朝に返してくれ。……その平たい端末のことだ」
この世界ではまだ普及していないことから、言い直した。
和一は、俺のほうを見たまま、頷く。
「分かりました……。おやすみなさい」
「おやすみ」
「またね」
俺と睦月は、泣いている和一に気づかない振りをして、急角度の階段を上っていった。
――二階の和室
襖で区切られているだけの構造で、今は深夜だ。
飲み屋は騒がしいだろうが、意外にも静か。
睦月が小声で、囁いてくる。
「下町で、これだけの狭さ……。夜に五月蠅くしたら、袋叩きか村八分になるんでしょ?」
遠くから車のエンジン音、近くの路地からは人の足音。
安い蛍光灯に照らされつつ、俺たちは布団を敷いた。
もうお互いを意識するレベルではないため、普通に並べてのポジション。
明日は朝から忙しいだろうし――
『本当は、西永くんに~』
冴の声が聞こえてきたが、俺は歯磨きなどを済ませて、すぐに戻った。
睦月も、同じく。
◇
慣れている感触に包まれたまま、目覚めた。
「おはよう、重遠……」
「おはよう……。お前は、ガンギマリの目で直視するのをやめろ」
添い寝というか、健全に抱きついている槇島睦月が、ジーッと見ていた。
「僕、ずっと起きていたよ?」
「怖いから、やめろ」
「たまに目を閉じると、感覚が鋭敏になっていいんだ」
「もう、黙ってろ」
手足で大好きホールドの睦月を引き剝がし、朝の身支度。
パジャマはないため、前日から着たままだ。
過去作は、こちらです!
https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31




