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育ちの良さは下町でもすぐに分かる

原作の主人公は、悪役を理解できない。

すでに彼の理解を超え、どんどん成長しているのに……。


紫苑学園に戻った室矢重遠は、日常の中で次なる戦いに備える!

https://www.amazon.co.jp/dp/B0DHMQJXVL

 夕方の赤い光に変わった。


 古い木造二階建て。

 よく言えば、普通の住宅に泊める民宿だ。


 その二階の広い和室に陣取った俺と、槇島(まきしま)睦月(むつき)……。


 木の板を並べた天井には、同じく古い灯りが、ぼんやりした光を放っている。

 せまい路地をはさんで怪しい建物が向かいにあるから、窓を閉めたまま。


 お互いに、色あせた畳の上で座っている。


「で?」


「ちょうど、護衛の当番だったから! 霊体化したままで抱きついてた」


 目をそらしている睦月。


(こいつ、カレナの権能を借りて未来予知したな?)


 あまりにタイミングが良いことで怪しむも、助かることには違いない。


「お前がいてくれて、良かった! 他の夕花梨(ゆかり)シリーズは?」


 首を横に振った睦月は、肩をすくめた。


「いないよ! 今回は、元の世界に帰れるかが不明だから……」


「そもそも、お前らは夕花梨の式神だしな?」


 俺は、団体客に向いている和室をぐるりと見た。


 家主である西永(にしなが)和一(かずいち)はいない。

 俺の未来の娘となる二条(にじょう)(さえ)と共に、夕飯の買い出しだ。


 男子の一人暮らしで、冷蔵庫にまともな食材があるはずもない……。


 心配した睦月は、提案する。


「ねえ? 僕が護衛についたほうがいいんじゃない?」


「近所のスーパーに行くだけだ……。こっちの世界に異能はない。それより、あの男子がいないうちに話すぞ?」


 原作である【花月怪奇譚かげつかいきたん】のシナリオを書いた笹西(ささにし)新太(あらた)を見つけて――


「おそらく、始末する話だろうね……。でも、大丈夫? あのカレナが『自分と同格』と認めた相手だよ?」


 室矢(むろや)カレナと同格。


 その恐怖は、計り知れない。


 ため息をついた後で、ツッコミを入れる。


「俺の魂があのゲームで転移した以上、作った本人もいずれは俺たちの世界に来るだろう! 遅かれ早かれだ」


「そうだけどさ……」


 同じく息を吐いた睦月は、座ったままで後ろに両手を突いた。


 天井を見上げつつ、ポツリと呟く。


「冴は、どーするの? 昔の重遠よりも戦闘に向いていないし」


「あいつは、元の世界へ帰そう」


 俺の判断に、しばらく目を閉じた睦月は息を吐いた。


 改めて、琥珀(こはく)色の瞳でこちらを見据える。


「重遠、それで自分が大幅に弱くなることは分かってる?」


「覚えている! 正直なところ、迷っているんだ……」


 どちらを選んでも、メリットとデメリットがある。


 睦月が明るい声で、話題を変えてきた。


「あの2人が帰ってくるまで、何をしようか?」



 ◇



 西永和一は、隣を歩くセーラー服の二条冴を見た。


(改めて見ると、芸能人みたいだ……)


 けれど、芸能界に特有の「何でもやってやる!」というギラギラした感じはない。

 ちょっとした動きにも品を感じることから、間違いなく良い育ちだ。


「あのさ?」


「はい?」


 商店街で、左右の呼び込みがある生活道路。


 夕飯の時間が迫っており、実演販売などで総菜の良い香りが漂う。

 限られた道路は、前へ進む流れと、後ろへ向かう流れの2つ。


 人気の総菜やお値打ちな食材から、飛ぶように売れていく。


 冴の笑顔に見惚れた和一は、照れ隠しに言う。


「二階の窓から登場した槇島って女子だけど……」


「ああ! 睦月さんですか? びっくりしたけど、私がよく知っている人です! 心配いりません――」

「お前……二条さんは、どこから来たんだ? それぐらいは良いだろう?」


 しかし、後続がどんどん追い越していく。


 周りを見た冴は、手短に答える。


「(別の世界にある)東京の日本家屋に住んでいます。睦月さんは、東京と京都を往復している感じです……。すみません、ここだと他の方のご迷惑になるので! お夕飯をいただいたら、時間を取ります」


 目立っていることに気づいた和一は、慌てて応じる。


「わ、分かった!」


「えっと……。どうします? 私、料理をできますけど……」


 お金を持っていないことから、スポンサー次第だ。


 それを悟った和一は、キョロキョロと見回す。


 店の前にもテーブルを並べている男が、ニヤッと笑った。


「西永、ついに彼女ができたんか!? 初々しいねえ……」

「違うって!」


 どうやら、知り合いのようだ。


 そう思った冴は、人混みを避けるために移動する。


 彼女を見ていた和一も、仕方なく。


 総菜のパックを並べている親父は、愛想よく営業する。


「らっしゃい! どれも、出来立てだよ!」


 冴の視線を受けて、和一は観念した。


「4人分で……予算は500円」

「それだと、パック1つだぜ? 足りるのか?」

「いいんだよ! 米を炊いておけば、それで……」


 聞いている冴は、それなら自炊したほうが、と思うも、口に出せず。


 その間にも、店主と和一の掛け合い。


「4人だったら、1,500円は出せよ?」

「1,000円」


 話がまとまったようで、現金のやり取りから、パックをビニール袋に入れる流れ。


 見ていた和一は、思わず声を漏らす。


「あれ?」


「1つは、サービスだ! ようやく彼女ができたお祝いに」

「だから、違うと言ってるだろ!?」


「ありがとうございます」


 お礼を述べた冴は、上品に頭を下げる。


 付け焼刃ではない仕草。

 そもそものオーラが、下町とは違う。


 周りの視線が集まる。


 猫の手も借りたい繁忙期にも関わらず、その瞬間には彼女が主役だった。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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