原作にはなかった開門搏撃拳の来日
明らかになった、召喚儀式の実行犯。
今日、ベル女で召喚された存在によって世界が終わる。
4巻目は、ついにバトルへ!
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とある道場の中。
木の格子から差し込む光で、ぼんやりと照らされる板張りの床。
そこに、若い男が動きやすい服装のまま、座っていた。
普段ならば、多くの門弟がズラリと並び、上座に立つ師範代なりの模範演舞に従っての稽古だろうが――
今は早朝で、その男だけ。
「いよいよか……」
黒髪を後ろにまとめて縛っている男は、端正だが気難しそうな顔で、その黒目によって周りを見る。
スッと立ち上がり、ストレッチのように、ゆっくりと手足を伸ばしていく。
一見すると子供の遊びだが、その状態を保つには相当な修練が必要。
いかにも大陸風で、道場の内装や、彼の服装もそうだ。
動物の動きを参考にした象形拳にしては、そっけない。
南北で大きく分かれるものの、それらは指を重視した技が多く、相手の急所をつかみ、そのまま握りつぶすか突く。
彼の動きは、どちらかといえば、体の全体を重視したもの。
ダイナミックで、悪く言えば、素朴だ。
しかしながら、それを侮った相手は、すぐに後悔するだろう。
この拳法は、相手に触れた時点で壊す。
威力だけを追求して、門弟を集めるための見せ技をあまり考えない。
その在り様は、多くの拳法の中でも特異。
徐々に上がるスピード。
風切り音が響き始めて――
「ここにいたのか、飛龍!」
30代の後半ぐらいの男が、叫んだ。
永 飛龍は、片足を上げたまま動きを止め、顔だけ向ける。
全く揺らがない姿勢が、彼の努力を物語っていた。
「まだ時間はあるだろう、親父?」
長い黒髪を後ろで縛った、薄い青の瞳をした永 俊熙は、笑った。
「国際線だぞ? すぐに移動しないと、空港で日をまたぐぜ!」
「分かった……。今、行く」
――国際空港
「はー、間に合った! お前のワガママに付き合っているんだから――」
「元はと言えば、親父のせいだ」
旅客機のファーストクラスに入った親子は、言葉のドッジボール。
言い捨てた永 飛龍は、席に座る。
息を吐いた永 俊熙も、自分のシートへ。
別々の席で、間隔が空いているため、会話もない。
飛龍は、せまい窓から大空を眺めつつ、思う。
(日本……。俺の母親をコケにした女の子供がいる国か)
小袋から取り出したナッツを握りしめながら、決意を新たにする。
(我が開門搏撃拳の柔拳において印可を授けられ、親父の子供ができたうえ、正妻として迎えたというのに!)
握っている拳の中で、ナッツが砕けた。
(何が不満だ!? こちらの秘奥を2つも抱えて、日本へ逃げ帰るとは……)
チラッと、父親である俊熙のほうを見た。
個別のシェルの中で、暢気にくつろいでいるようだ。
ため息を吐いた飛龍はシートを後ろに倒し、自分のスマホ――機内モード――を利用者向けの無線LANに繋ぐ。
イヤホンで音楽を聴きながら、取り留めもなく、ニュースを見る。
表示している画像には、女子高生ぐらいの女子が1人。
ストレートで長い黒髪と、紫の瞳。
日本の着物で、撮影者に微笑む。
童顔だが、思わず見惚れるほどの美貌。
しかし、それを見る飛龍の顔は険しい。
まるで、親の仇を見るような目つき。
(確か、板村迦具夜と言ったな?)
大陸の東アジア連合から日本へ向かう国際線。
そこにいた乗客の親子は、誰あろう、時翼月乃に因縁が深い人物だった。
原作【花月怪奇譚】のヒロインである彼女は、どのルートでも非業の死を遂げる。
その運命は室矢重遠の手で打ち砕かれたが、月乃にまつわるエピソードはまだ終わらない。
死ななかったからこそ、だ。
(板村の返答によっては……。門派を守るため、母子ともに殺すしかない)
飛龍は、開門搏撃拳の次期宗家の候補者として、当然の考え。
むしろ、今まで泳がせていたのが、異常すぎたのだ。
その理由は――
(老師も老師だ! この悪女の肩を持ち、門派での将来と国を捨てるとは……)
全ては、板村迦具夜が原因だ。
そう考えるのも、無理はない。
何にせよ、過去からの使者たちは、日本の大地を踏みしめた。
――東京の国際空港
「おー! 大陸より湿気がすげーな?」
「早く行くぞ、親父」
スーツ男たちに荷物を預けた飛龍は、そっけない。
肩をすくめた俊熙も、それに続く。
高級車の後部座席に乗り込んだ2人は、横浜の大陸街へ向かいながら、話し合う。
「季 一诺は、もう長くないらしい……。大陸に残っていれば間違いなく高弟として、あるいは1つの流派を築いただろう。残念だよ」
「老師が半生を棒に振った原因の親父が言うか!?」
しょげた俊熙は、言い訳をする。
「分かってる……。だが、最後に顔を見て話したい。それすら、ダメだと?」
「……そこまでは言わん」
しかし、飛龍は向き直った。
「親父? 俺は、まだ納得していない! 日本にいるはずの板村迦具夜とその子供が分かれば、話をするぞ? ……子供について、本当に知らないのだな?」
まっすぐ見た俊熙は、首肯した。
「ああ……。先祖と開門搏撃拳の宗家の座に誓って! 少なくとも、迦具夜の行方を知らないし、子供は名前すら不明さ」
「なら、いい」
1つだけ言えるのは、室矢重遠くんに死亡フラグがまた増えたことだけ。
強く生きろ。
過去作は、こちらです!
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