表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星空を呑む  作者: 柚里カオリ
2章 天姿国色
4/34

第4話 天体研究部

 星守(ほしもり)高等学校。特筆すべき点が、星が綺麗なこと、ぐらいしかない田舎町、星守町に立つ、なんの変哲もない高校だ。すべてにおいて普遍的で、部活動も大して目立つことはないこの高校には、天体研究部という文化部が存在する。なぜいままで廃部にならなかったのかはわからないが、この高校が設立されたころから存在するらしいこの部は、いまや部員数一人で廃部の危機に瀕している。


 その最後の一人が玉野夜太郎。この俺というわけだ。


 二つ上の代の先輩が四人いたのだが、その先輩たちも冬休み前に受験勉強の関係で部を引退してしまったため、学校の奥の角部屋に位置する小さな部室に赴く生徒は俺一人となってしまった。


 その部室にいま、とんでもない美少女がたたずんでいる。


 全体的に埃を被った本や望遠鏡が乱雑に放置され、先輩たちが面白半分で天井に張り付けた星図盤はいつ剥がれ落ちるかわからない。ヨナはそんな狭い部屋の中をキョロキョロと見回していた。埃臭さが鼻をつく狭い部屋の中にも関わらず、絵になってしまうのは、やはり顔がいいからなのか。


「……えっと……」


 沈黙に耐え切れずに口を開くと、部屋を見回していたヨナが俺を見た。その瞳にドキリとして言葉の続きが出てこない。ヨナは俺をじっと見つめたまま、ゆっくりと俺に向かって歩いて来て、思わず身構える。


 その時、俺の胸元が光り始めた。


「え⁈」


 驚いてヨナを見ると、ヨナがなにかを手に握っていた。それは石の欠片のようで、夜空のような深い青色の中に、星屑のような光が散りばめられた、不思議な光を放つ石だ。ヨナがそれを取り出した瞬間、俺の身体が光った。


「やはり、欠片同士は共鳴するようね」


 ヨナが俺に近づいてきて、壁際に追い詰められた。なにをされるのだろうと怯える。まさか、本当に腹を掻っ切って欠片を取り出そうとはしないよな?


「ぶっ⁈」


 唐突にヨナが手にしていた欠片を俺の口にねじ込んだ。そのまま口を塞がれ、思わず口の中に入った欠片を呑み込む。呆然とヨナを見つめていると、満足したのか、ヨナが俺から離れた。


「……え?」


「欠片同士が共鳴するのなら、欠片探しも捗るかしら。その欠片一つを見つけるのに、どれほど苦労したか」


「ちょ、ちょっと待て⁈ お、俺、いま欠片食わされたよな⁈」


「ええ。その方が安全だもの」


 ヨナがサラリと答える。安全? 安全とは?


「説明をしてくれ‼ 俺はいまどうなってるんだ⁈」


「どうもこうも、あなたは聖星石の欠片を呑み込んで、その聖星石があなたの中に根付いてしまったのよ」


「ね、根付いた?」


「拠り所にされた、と言った方がいいかしら。力を失い、砕け散った聖星石が自分の身を守るためにあなたの中に隠れたのよ」


「な……」


 なんてはた迷惑な。勝手に拠り所にされ、俺の身体に入り込まれたとでもいうのか。


「あなた、欠片を呑み込んでから夜に外出しなかったの?」


「え? あ、ああ。夜どころか、冬休みの間家から出てないよ」


「そう。命拾いしたわね」


「命拾い……?」


 まるで俺が生命の危機に瀕しているかのような言い方だ。いや、体内に得体の知れない石がある、という状況が命の危機に繋がらないとは言い切れないが、それでも身体に異常はなかったはず。


「今夜、面白いものを見せてあげるわ」


 そう言うとヨナは俺の後ろの扉を開け、教室から出た。去り際に振り返り、俺を見る。


「学校から少し離れた場所に廃ビルがある。そこに来て。日が完全に沈む前に来なければ、命の保証はないわ」


 そして、ヨナは長い髪をなびかせ「じゃあね」と言って歩き去っていった。部室に残された俺は呆然と歩いていくヨナの背中を見つめる。


「ええ……?」


 漏れ出た声は酷く情けない声だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ