第9話 勇者へ愛の告白を 二回目
ぶ……ブクマしてほしいの……
「ふむふむなるほどねー。つまりヨルケスは、生態系を狂わせてるモンスターの駆除を魔王軍で始めたってことね」
「そ、そうなんだよ! 増えすぎるモンスターは魔族にも人族にも被害を出すだけでしかないからな!」
生ビアーを飲みながら、私たちは会話を続けていた。
すると、ユーナは頷きながらニッコリと微笑んだ。
「あー良かった」
「え? な、何がだい」
「ヨルケスがあたしを足止めして、そのスキに侵略行為を進めてるんじゃなくて安心したん。ほら、その場合ユーナは勇者やろ? ユーナがレベル1でも、魔王の悪事は見逃せないし」
ユーナのセリフが、私のハートをザクザクと貫きまくる。
……何言ってるんだユーナ。
私の心は完膚なきまで君にぞっこんだってのに。
侵略行為をしたのはどっちだいユーナ。私の心をまるっと侵略したくせに……!
しかし、私は引き下がらん……! 何度でも立ち上がるのだヨルケス! 私はそう、魔王軍の頂点にして魔王ではないか!
この程度で私のハートは挫けやしないのだッ。
私は再び、愛の告白をユーナへ向けて言った。
「悪事だなんてそんなことするものか。それはそうとユーナ……この間も言ったんだが、ユーナ。私と結婚を前提としたお付き合いを」
「だから! ムリだよ? だってヨルケスは魔王やっとうやん」
「そ、そんな! 魔王と勇者の恋って、そんなにダメなのかい!?」
「ダメ。ぜったいぜーったい、ダメ」
ユーナはそう言うと、はぁ、とため息をつく。
「あんな? ユーナには使命があるの」
「し、使命?」
「そう。ユーナが勇者として選ばれた以上、魔族であるヨルケスや魔王軍を……倒すっていう使命があるの」
ユーナの言葉に……私は思った。
そんな使命はクソ喰らえだと。
どんな理由で、ユーナががんじがらめになってるか知らない。
それにだ、私たちは君に倒されないし、もちろん君を倒したりなどしない。
君をその使命から救い出し、運命から解き放ってやる!
しばらく会話を交わした後、私はユーナへプレゼントする魔導水晶板を取り出した。
リボンを巻き付け、可愛らしくラッピングした贈り物……女の子が喜ばないわけなどないはず!
っと、ユーナ。
魔導水晶板の待ち受け画像……まことに勝手ながら私にしておいた。くくく。
「とりあえずわかったよユーナ。私を倒す目的……か。なら敵を知るという意味で、君にコレをプレゼントしよう」
「なにコレ? 不思議やねー、なんか光っとるね」
「これは魔導水晶板といってな。魔力を使わずとも遠くの者と会話ができる。声も文章も、瞬時に相手に届く優れものさ」
「えぇーっ!? なあにそれすごいね! 魔王軍の技術って進んどるんやねー!」
そう言った刹那。
ユーナが興味しんしんで感心しながら見ていたというのに、なぜか画面を見た瞬間に眉をしかめる。
「え、なんでヨルケスの顔がでーんと貼られとるの……?」
「え? コレはね、御守りだよ。悪いモンスターが寄ってこない効果があるんだ。出演料はサービスしとく」
自信満々に答えると、ユーナから返ってきた言葉は……どんな最強の魔法よりも攻撃力のあるものだった。
「ねぇヨルケス……こういうのどうかと思うよ? ほんま昔から何考えよるのかわからんとこあっとうけど、そんなんじゃ彼女できんよ?」
ユーナから凍てつく言葉を波導のごとく私のハートに切り込まれる。
ユーナ……こんな場所で私に会心の一撃を与えないでくれ。君のそのセリフ、私には痛恨の一撃だよ……。
と、その時だ。
私の魔導水晶板に、DM【ダイレクトアタックメッセージ】の通知音が鳴った。
メッセージの相手は、空気の読めない四天王たちの一人で、私は嫌々ながら内容を確認する。
すると……。
【送信元】ビエル・フダンスィ
【メッセージ】
お疲れ、魔王様。
ご命令通り……始まりの街周辺のモンスターの駆逐完了、近隣のダンジョンも制圧したから、勇者がモンスターに遭遇することはない。
安心して食事を楽しむといいよ。maouttp.……
最後のセリフに何かリンクが貼られている。
おそらく結果を確認できる画像だろう。
さすがビエル。腐っても四天王と言え……
私はリンクをタップした瞬間、苛立ちと吐き気や怒りが込み上げてしまう──!!
私は心の中で叫んでいた。
『あんにゃろー、やっぱ腐ってやがったあああッ! 私とユーナの楽しい食事の時間になんて画像を見せてくれんだ! マジでぬっころしてやる!』
貼られた画像は、ビエルが私を誘惑するような目線とともに、胸元全開のビーティクポロリ、なんならビエルの股間もみえてしまいそうな、腐男子全開まっしぐらなヤツの姿がそこにはあった。
私はユーナと焼き肉を食べに来たのだ。
決して、ビエルの胸肉やらハラミやら、特大ウィンナーを食べに来たのではないのだ。
食事中になんてモノを……!
決めた。
帰ったらアイツ、消し炭にしてやる。
私は決意とともに、魔導水晶板をそっと閉じるのだった。
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