第75話 友情エレジー
勝利に沸きたつ魔王軍爆走愚連隊の声がクロワツ山に響き渡る。
背後の歓声を聞きながら、私は皆の方へと身体を向けた。
するとだ。
「しっかり! しっかりしてくださいノゾッキー特攻隊長ぉおオオオッ」
歓声とは別の、魔王軍爆走愚連隊の者の声がした。
見ると、その声の主、ボッケルが倒れこんだノゾッキーを両手で抱きかかえている。ノゾッキーはぜえぜえと肩で息をしていて、その顔からは血の気が引いていた。
「ノゾッキー特攻隊長! あんなムチャな特攻をワイバーンに仕掛けるなんて……! いくら四天王とはいえ、無事に済まないことくらいわかってたはずじゃないですかぁっ!」
両目に涙を溜めてる男は魔王軍爆走愚連隊のボッケルだ。彼はノゾッキーに語りかけていた。
ところで、私は気がついていた。
このお涙ちょうだいのわけわからん三文芝居は、ノゾッキーの演出なのだと。
だってついさっき、ピンピンしながら私の足に縋りついていたじゃないか。
何をバカなことをやっているのか。
……そう思ってはいるが口にせず、私はノゾッキーとボッケルに近寄る。すると、ノゾッキーは細くなった目をうっすらと開けて言った。
「総長……魔王総長。良かった……無事でしたか。セッシャの命がけの特攻はムダじゃなかったんですね……ワイバーンを……倒せたのですね……?」
「いや、お前の特攻は何の効果も生んでない。めんどくさいヤツだな、さっさと起きろ」
私は冷ややかにノゾッキーを見下ろして言う。しかし、私の言葉をスルーして、ノゾッキーはバカみたいな演技を続けた。
「いいんです、セッシャは魔王総長のお力になれただけで本望です……思い残すことはありません……」
「もういい! ノゾッキー特攻隊長! もう喋らないでください!」
泣きながらボッケルは何度も首を横に振る。
ノゾッキーは震える手をゆっくりと持ち上げ、そして私を求めるかのように言った。
「魔王……ヨルケス……ブーゲンビリア……様……! セッシャ、もっとあなたと一緒に……魔王軍の行く末を……ゴフッ!」
最後に咳を一つして、手をダラリと地面に下ろし、ノゾッキーは両目を閉じた。
「隊長! ノゾッキー特攻隊長ぉおオオオオ!」
ボッケルが空に向かって大声で叫ぶ。いつしか私への歓声は止み、魔王軍爆走愚連隊たちは涙を浮かべて鼻をすすっている。
魔王軍爆走愚連隊の泣き声が、クロワツ山にこだましていた──。
って、バカか! なんとどーしよーもない茶番を繰り広げているんだどいつもこいつも!
あまりにひどい演技なので、私は呆れ果てる。
とはいえ、この茶番に乗ってやろう。殉職したノゾッキーに墓でも建ててやろうじゃないか。
私は右手をボッケルの肩に乗せて言う。
「ボッケルよ、ノゾッキーは勇敢だったな。彼の死をムダにするわけにもいかん、私たちは前に進まなければならない」
「魔王総長……」
「だが、その前にノゾッキーの墓を建ててやろう。『魔王軍四天王ノゾッキー、ここに眠る』と墓標を刻んでやろうじゃないか! おーい、お前たちノゾッキーの墓穴を掘れ!」
「え!? ま、魔王総長!?」
私の命令に、ボッケルが驚きの表情を私に向けていた。見渡すと、魔王軍爆走愚連隊全員もだ。
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいっス魔王総長! そ、そこは総長の蘇生魔法で、ノゾッキー特攻隊長を復活させていただく感動的な演出の出番では……!?」
慌てた声を出すボッケル。
何が感動的な演出なのか。
アホくさ。これはノゾッキーが自分の〝ドヤッター〟に投稿するためのネタなんだろう?
私の目はごまかせない。というのも魔導水晶板をこちらに向けて撮影しようとしている者の姿があるからだ。
それにだ。
なんで私が毎回ぬっころしてもゾンビのように復活してくるこのバカに蘇生魔法を使わなくてはならんのか。魔力のムダだし、この茶番もムダである。
私はボッケル含め、魔王軍爆走愚連隊たちに向けて言った。
「お前たち、どうした? 死者を丁重に弔うのは当たり前だろう? さっさとやれ早くやれ今すぐやれ!」
「「「いやぁ……その……魔王総長……」」」
特攻服にエプロンを掛けた謎集団が恐る恐る私に戸惑いの声をかける。
私は続けた。
「お前たち、私が何も気づかぬバカだと思っているのか? くだらぬ戯れに時間を費やすほど私はヒマではない。今ならまだ許してやる。このロクでもない茶番を指示した者は誰だ? 正直に答えろ、ウソついたらお前らまとめて灰にしてやる」
そう言うと、魔王軍爆走愚連隊たちは全員がおずおずと横たわるノゾッキーを指差していた。
そして、戸惑いの表情を浮かべたボッケルが言う。
「え、えっと……魔王総長。その、ノゾッキー特攻隊長が言うにはですね……『たまには感動的なドヤ呟きを投稿したい』ってことでして……」
「それで? 私を全員で騙そうとしたのか?」
すると、ボッケルは慌てながら首をぶんぶんと横に振り、こう答える。
「ち、ちがうんスよ! ノゾッキー特攻隊長が『従わないとお前らの恥ずかしい過去をドヤッターに投稿する』って脅しをかけてくるものですから……すいやせん! 悪気はないんス! 許してください魔王総長!」
「「「すいやせんっした!」」」
魔王軍爆走愚連隊の面々が深々と頭を下げる。そう……ただ一人を除いて。
そして私は足下を見下ろすと、恥ずかしそうに照れる、頬を赤らめたバカがまだ死んだふりをしていた。
「おい、ノゾッキー。聞こえてるんだろ?」
「…………」
「今なら許してやると私は言った。三秒以内に謝ったら許してやらんでもない。でなければ──」
そう言うと、ノゾッキーが飛び起きたと同時に私の足に縋りつく。そしてまた申し訳無さそうに。
「すいませんすいませんごめんなさい魔王総長! ほ、ほら、アレですよその……セッシャ、最近ドヤッターの投稿ネタが思い浮かばなくスランプで……」
「ほう? それで?」
私は指をポキポキと鳴らす。
「どっ、どどっどドラゴン討伐した画像の投稿をしようかなとも思ったんです! で、でもそんなことしたら勇者にもバレてしまうじゃないですか!? だからその……感動的なヤツでバズりを狙って……てへぺろっ」
申し訳なさそうに頭をポリポリかきながら、舌を出すノゾッキー。
私はそんなノゾッキーの胸ぐらを掴む。
「まったく! お前って奴は昔からそうだ! 誰かに迷惑かけないと気が済まないのか!」
「ご、ごめんなさいごめんなさい! で、でも魔王様? セッシャ三秒以内に謝ったから許してくれるんですよね? ねっね? ですよねっ?」
そんな、反省の色など微塵もないノゾッキーに向けて私は両手に魔力を込めて〝煉獄の炎〟を解き放つ。
そう、私は『許してやらんでもない』と言ったのだ。まったく、私はなぜこんなバカを頼ろうと思ったのか。自分が情けなくなる。
なんだかよく聞き慣れた悲鳴がクロワツ山に響き渡り──私たちは氷づけのワイバーンを手土産に、サンドリッチの街へと向かうのだった。




