第72話 気合いだぜ!
魔王城からバイコーンを走らせ小一時間。サンドリッチの街の北にそびえる、ドラゴンが住むクロワツ山のふもとへとあっという間に辿り着く。
バイコーンの馬力はさすがと言わざるをえない。魔王城から歩くならまず三日はかかると思う。トゥースの街から出発したユーナの足ならおそらく……一週間ほどは要するはず。
……それまでに全てを解決し、ユーナに笑顔をプレゼントしてやるのだ!
そんなことを思った時だ。
「グォルルルル…………!」
遠くでドラゴンのこもった鳴き声が聞こえてくる。
ところで、ドラゴンとは様々な種が存在する。
どれも非常に攻撃的で、鋭い牙、獰猛な爪と大きな翼を持ち、毒や炎のブレスを吐くなどタチが悪いモンスターだ。
スキル持ちの高ランク冒険者が束になっても討伐するのは難しい。そんなドラゴンは、冒険者たちの間ではこう言われている。
──まともに戦うな。挑めば即死確実、遭遇したら必ず逃げろと。
とはいえ、それは人族の話であって、私からしたらドラゴンなどそこらのモンスターと何ら変わらない。
私は魔王軍の頂点にして魔王……なんだけど、今は魔王軍爆走愚連隊総長として、ノゾッキーたちにこう言った。
「これからドラゴンをブッ飛ばす! いいかお前ら、根性見せろよ?! 全開バリバリ、ビッと気合い入れるぞ!」
「「「押忍ッッ!」」」
すると、ノゾッキーが私の後に続けて大声を出す。
「よっしゃ、てめぇら! 魔王総長に続けぇ!」
「「「ウォオオオオッッッ!」」」
魔王軍爆走愚連隊のメンバーが雄々しく声を張り上げ、私たちはバイコーンでクロワツ山を駆け上るのだった。
☆★
深い木々の隙間をくぐり、道なき道を進むとクロワツ山の山頂が見えてくる。そこには狩りの対象であるドラゴンが翼を休めている。
すると、私たちの気配を感じとったドラゴンが「グォルルルル……ゴァアアア!」とけたたましく咆哮をあげた。
常人なら間違いなく耳を塞ぐほどの大音量。その声は衝撃波を発生させ、周囲の草木が大きく揺れる。
鎌首をもたげてこちらを睨み見据えるのは、ドラゴン種に分類されるワイバーン。しかもかなり大型だ。
しかし私たちは微動だにせず、全員腕を組んでワイバーンを睨み上げている。ついでにだが、魔王軍爆走愚連隊のメンバーもヘアスタイルのリーゼントはガチっと固まっていて、ビクともしていなかった。
1ミリも臆してる者は一人たりとていない。
そう、私たちはビッと気合いが入っているのだ。
その時だった。
「おぅコラ! てめーなぁにガンくれてんだゴラァッ!」
「どこのドラゴンだおめーよぉ! 舐めてんじゃねぇぞオラッ! ヤキいれんぞ!? あぁ!?」
「シメるぞてめー!」
「ちょっとデケーからって調子くれてっと挽き肉ミンチにしちまうぞ!」
特攻服にエプロン姿という、もはや何をしに来たのかわからない魔王軍爆走愚連隊の者たちが、ワイバーンに向けてメンチを切りながら口々に汚い罵声を浴びせる。
誰が言ったかわからんが、どこのドラゴンとか言っちゃってるよ……バカ丸出しだよもう! モンスターに言葉なんか理解できるか! バカッ!
それにしても、なんて汚い言葉なのか。
私はこいつらを見て思う。どこの世界の不良なのかと。
品がない、なさすぎる……!
いや、ノゾッキーやこいつらの性格は長い付き合いで知っているけどさ……。




