第44話 伝説の剣が抜けません!?
「キノコ、そしてシャンプル。お前たちはわざわざケンカするために遠路はるばる魔王城まで来たのか? 私に話しがあるのではなかったのか?」
「あっ……うん。ごめんねヨルケスおにいさん」
「わたくしもついカッとなって……申し訳ありません、ダールン」
キノコとシャンプルの返答に、私は深くはぁ……とため息をつく。私は部屋にあるブラウン色で艶びた木製の椅子に腰掛け二人を見やる。
「わかった、もういい……それで? わざわざユーナを抜きにして私に会いに来たのはなぜだ? まさかユーナ抜きにして私を倒そうと?」
「ち、ちがうよ! 実は……ユーナちゃんのレベルが上げられなくて困ってるんだ。だってボクら今までモンスターに一匹も遭遇しないんだ」
「そうなんですの。勇者様は自らの能力向上を図ろうにも、どうしようもできないことを悩んでおいでで……」
キノコとシャンプルが互いに肩をすくませて言った。
そう、そうなのだ。
我が魔王軍全勢力を持ってして、人族の街周辺のモンスターの排除はもちろん、遺跡や迷宮、神殿などさまざまな場所のモンスターを駆逐しているからだ。
てゆーか。
だいたいからして、女の子に剣を持たせて凶悪なモンスターと戦わせるだなんて人族の神も王も、頭がおかしいと言わざるを得なくないか?
私はユーナに危ない目に合ってほしくないのだ。
それにしても……くくく。我が魔王軍も頑張っているようだな。今年のボーナスは色をつけてやろうじゃないか。
私はキノコとシャンプルの話に口元を緩ませ、頷いていると。
「……ヨルケスおにいさん、何かおかしいの?」
「……くくく。おまえたちの困る理由が滑稽でな。安心して冒険の旅ができるなんて良いことではないか、おかしなことを言う」
「そうなんですけど……」
釈然としてないのか、キノコとシャンプルが小首をかしげる。
そしてそのまま、キノコはうつむき気味に話し始めた。
「おかげでユーナちゃん、『レベルが上げられないなら、伝説の剣を抜けばいい!』『剣の力でレベルの低さをカバーする!』って言い始めたんだ。でも……いくらユーナちゃんが選ばれし勇者でも、レベル1で引き抜けるほど伝説の剣は甘くなくて……」
「ほう……? 神託の勇者なら、そんな剣などいとも容易く抜けそうなものだが?」
私がそう言うと、キノコとシャンプルはぶんぶんと首を強く振る。
「そんなことないよ! そりゃあ勇者であるユーナちゃんしか伝説の剣の力を引き出せないのだけど……というかそもそもレベル1じゃ絶対に抜けないようにガッチリと固定さるやてるんだよ」
「そ、そうなのか……」
「そうですの。だから……このままですと勇者様は、伝説の剣が抜けなくてガッカリしてしまいそうで……」
シャンプルが悲しげに言う。
なるほど、二人の言いたいことは理解した。
つまりこういうことだ。レベルも上がらず伝説の剣も抜けないとなれば、ユーナはもちろん世間もガッカリするのではないか? と。
たしかにユーナは神に選ばれし勇者だ。
にもかかわらず、伝説の剣が抜けない勇者としてユーナがトラウマを背負い込みかねない、ということを私に言っているのだ。
「……ですので、勇者様をレベルアップさせるために……魔王であるダールンから人族の街へと、モンスターを解き放ってもらえないものかしらとわたくしたち相談に来たのです」
「ふむ……なるほどそういうことか。だが、その頼みは聞けんな」
「「そ、そんな……」」
そんな、じゃない。アホか。
この二人はやはり頭がイカれている。
ユーナのレベルを上げさせたいという気持ちはわかるが、わざわざ人族を危険にさらす必要などない。
そんなことをしたらたしかに、ユーナはモンスターを倒して経験値を積んで、あっという間にレベルアップしてしまうだろう。
だが、街に住まう罪なき者たちはどうなる? 幼な子たちはどうなる? モンスターに襲われて無残な死をとげるだろう。
しかし、かつて阿鼻叫喚の地獄を味わったことのある私は……いや、ユーナでさえそれを望むまい。
そんなふうに考えたそのときである。
私の頭脳に電流走る。
ユーナを喜ばせるグッドアイデアが浮かんだのだ。
「モンスターを放つことはしない、絶対にだ。しかし、ユーナが伝説の剣を引き抜くための協力は惜しまん。二人とも安心しろ、近いうちにユーナは伝説の剣を手にするだろう」
私は二人に向けてそう言うと、椅子のもたれに背をあずけてこう考えるのだった。
『……新たな作戦を魔王軍に通達する必要があるな』
【伝説の剣の周りをほじくり、ゆるませとけ! 物理的にいともたやすく抜けられるようにだ! さっさとやれ! 今すぐ!】
よし、これ魔王軍への新しい命令。
決定だ、異論は認めない。
あるヤツいたら消し炭にしてやる。




