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32話 腐敗のデート


「好きなものを買え。しかし、私はBLに興味はない。つまりだ、私とシャンプルは感性も合わぬということ。お前とは理解し合うことはないだろうな」


「そんなことないですわ! BL作品には純愛がふんだんに盛り込まれてますの! 魔王さんも、騙されたと思って読んでみてください! ピュアピュアな男同士の恋愛、時にはえちいけどほんとうに愛が溢れてるんです! きっと何度読んでも飽きないと思うんですの!」


 両の手を握り、胸に当てるシャンプルはBL愛を私に熱く語り出す。


 ちなみにシャンプルが手にした男同士の恋愛小説は、最近人間の女性たちの人気ジャンルとなっているらしい。


 どうでもいいけど、『俺のアレが巨根(ドラゴン)みたい! と言うアイツの股間が気になって夜も眠れない』は、最近では舞台化されるほど大人気らしい。


 通称、略して『俺巨根(オレドラ)』って言うんだそうだ。


 へぇ〜……そうなんだぁ。


 ふーん……どうでもいいんだけど、マジで。


 と、私が無関心を示すように冷ややかな目をしていると、シャンプルが口を開く。


「……わたくしのお勧めの本、そんなにダメですか?」


「いや、ダメとは言わないが、やはり私の趣味じゃない。つまり、お前と私では価値観が違うということ……残念だがお前とはここまでのようだな」


「それとこれとは話しが別ですからっ! っと、飲み物買ってきますので、どこか席で座って待っててくださいね♡」


「ま、待て! 別も何も、私はその話をお前にするために……! って、行ってしまったか……」


 話しを聞かず、カフェカウンターへ注文をしに行く彼女の後ろ姿を見て、私は思った。


 

 彼女は大聖女ではない、ヤンデレ気質のどこまでも腐っている腐女子なのだと。 



 ☆★


 その後、私はカフェでどーにかシャンプルからの好意をやんわりとお断り……できず。


 今、私と彼女は繁華街を歩いてまわっていた。


 だってこの大聖女……違う、大腐女ってば私が何度も『性格と価値観が不一致すぐる』と伝えても、ぜんぜん聞いてくれないんだもの。


 もうイヤんなっちゃうよ……。


 と、そんな状態で、ウィンドウショッピングをしていた。


 するとだ。とあるメンズセレクトショップ前に差し掛かるとシャンプルが嬉しそうな声を出す。


「わぁ! 魔王さん、見てください! 『俺巨根(オレドラ)』のコラボ服を販売してますよ? ちょっとわたくし、これは見逃せないですのー!」


 と、シャンプルは掴んでいた私の腕から離れ、キャッキャしながら光の速さで店の中へと入っていく。


「ふむ……帰るとするか」


 これはシャンプルから逃げるチャンスと思い、私はメンズセレクトショップからくるりと背を向けて、歩き出す。


「しかし……なんというか……大聖女の中身があんなに腐りきっているのを誰も気がつかんとは。普段はどれほど清らかな女性を演じてるかは知らんが、今の彼女には禍々しさしかないではないか。人間の目は節穴だらけ、ということか……」


 残念としか言えない。


 なぜなら、シャンプルは普通にしていたら誰もがふり返るほど美しい容姿をしているというのに。


 大聖女という職業も、勇者パーティーであるということも気にしないプライベート。


 良い意味で普通の女の子なんだが趣味がめっちゃ腐ってるし、DMが怖いほど病みまくってるし……。


 と、これからどうやってシャンプルへの対応をするか考えているとだ。


「びゃああああああん! ママぁあああああああ! どこぉ!? どこにいるのぉおおおおお! びぇええええ!」


 小さな男の子が、大粒の涙をこぼしながら泣きじゃくっている。


 ……私は、この少年を見て昔の思い出がフラッシュバックしてしまう。


 燃え盛る炎の中、どこをどう逃げたらいいのかわからなかった。


 父も、母も、友人も隣人も失った戦火の中で私とユーナが出会ったあの日……ユーナもこの少年のように涙をこぼしながら母の名を叫んでいたっけ。



「びゃあああああ、みゃあああああ! ママぁあ、ママぁあ!」


 私は少年の前にしゃがみ込み、声をかける。


 私は魔王軍の頂点にして魔王……泣いている者を放っておくわけにはいかないのだ。


「少年、泣くな。男は簡単に泣いてはいけない」


 ……私は昔の自分と、ユーナを少年に重ね見ていた。


 少年の涙を私の手で拭いて、優しく声をかける。


「……グスッ、グスッ! ……だって、ママがいないんだもん……グスッ」


「少年、泣いていたら全てが解決できると思うなよ? 立ち上がれ、気持ちを奮い立たせろ。いいか? そうしたら少年よ……お前に幸運の女神が必ず微笑んでくれる」


 …………不思議なものだな。


 私は人間たちの大敵であり、魔王だというのに。お忍びで誰にもバレてはならないのに、戸惑うことなく人間を助けようとしている。


 泣いている子供を励まし、涙を止める……ただそれだけのために。


 

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