第22話 こ、このやろぉっ!
皆の視線がゴリラエツィーに集まると、奴が『ウッホン!』と野太い声で咳払いを一つする。
「えー、皆さん初めまして。ワガハイの名は【剣聖エツィー・ドゥガー】と申す。この度、突然ではありますが、ユーナ殿にお声がけをいただき、【天使の聖剣】で剣を振るうことになりもうした。ワガハイの力で必ずや、魔王軍を退治てくれよう……!」
エツィーから述べられる反逆の言葉に、私は怒りの感情がフツフツと芽生え始め、やがて噴き出していた。
四天王のお前がなに言ってんの?
てか、お前いつ剣聖になったの?
聞いてないんだけど。
……待て、待つのだ、落ちつくのだ。もしかしたら、それもエツィーなりの『ユーナのレベルを上げさせない作戦』の一つかもしれない。
ぜんぜん根拠はないが……!
それにだ。
たとえエツィーから反逆のセリフが出たとして、演技に決まっている。
私はエツィーが四天王最弱だとしても、割と目をかけてきたつもりだ。そんなヤツが私を裏切るなんてありえないのだ。
しっかし大根役者だなぁ、そんな演技では人間くらいしか騙せないぞ?
☆★
エツィーの自己紹介が続いていくと、いつしか会場に一瞬の沈黙が流れる。
ゴリラの熱弁にみんなぽかーん、と目を丸くして、口を開けている者すらいるほどだ。
しかし、だ。
ついに私を烈火の如く怒らせるセリフをエツィーは吐いた。
「にっくき魔王ヨルケス・ブーゲンビリアに永遠の死を、ワガハイの裁きの一閃にて与えてやるゴリ……与えてやらんッッ!」
「「「うぉおおおおおおおおおおおお!」」」
エツィーの言葉に、反応する冒険者たち。
やかましいほど大音量の歓声が会場内に響き渡り。
「やっちまえエツィー! 魔王なんてお前の剣の前じゃ屁みたいなもんだ!」
「あぁそうさ! 期待してるぜエツィー!」
「おうよ! 魔王を八つ裂きにしちまいな!」
冒険者たちが期待を込めて、エツィーに熱を込めた激励を飛ばし始めていた。
なんだろう、私は騒ぎを起こすつもりはないのだけど……どいつもこいつも、めっっっちゃ消し炭にしたい。
特にあのバカゴリラを小一時間ほど焼き尽くしたい。
と、私が怒りを押し殺して拳を強く握ったその時だった。
大歓声の中、ユーナがエツィーの前までトコトコ歩み寄り、頭を深々と下げる。
「エツィー、改めてよろしく。神託の勇者、ユーナ・ステラレコードです。このたびは突然の申し出を受けてもらって、ほんまにありがとう」
あぁ……ユーナよ、やめてくれ。君がそんなバカゴリラに頭を下げる必要などない。
くそ……! エツィーめ……ユーナにお辞儀をされるなど一千万年早いわ……!
あんにゃろーぬっころしてやる……!
私がそう考えていると、ユーナのお辞儀に対して、エツィーも深く頭を下げる。
「いいえ、勇者殿。感謝するのはワガハイゴリよ……じゃなくて、ワガハイです。勇者殿に見出されなければワガハイは毎日、パワハラ満載の、暴力的な上司の下で働き……絶望のまま死を迎えていたことでしょう」
こ、このやろう!
パワハラ満載の暴力的上司とは私のことか!?
くっ! さんざん目をかけてやったのに、恩知らずも甚だしい!
ていうか、お前は魔王軍の四天王ではないのか!? 調子のいいことをペラペラと吐かすなボケがッ!
私が黙っているのをいいことに、ずいぶんなことを言ってくれる……! いいぜ? やるなら殺ってやんよコラァ!
私は込み上げる怒りと殺意を乗せて、魔力を両手に集めようとした──その時。
ユーナが……泣いている!
「ど、どうしたんです勇者殿!? どこか痛むゴリ……痛むのですか?」
「うぅん……ちゃう、ちゃうの。話聞いとったらなんだか、泣けてきよるの……ずっとつらかったんだね。ひどい、とてもひどい上司の下でずっとガンバッてきよったんよね? 悲しかったね、エツィー……」
「くっ……! ゆ、勇者殿ぉおお!」
なんだこれ。なんなのこの茶葉。
感極まったのか、ユーナもゴリラもボロボロと泣きながら、ひし! と抱きしめ合っていた。
その姿を見て、会場にいる全ての者たちがもらい泣きを始める。
ズズー、と鼻をすする音。嗚咽を漏らし、涙を拭う人族の王や大教皇、冒険者……。
皆が涙する中、私だけが殺意の炎を纏うのだった。
エツィー、私のユーナに抱きついたな?
私のユーナの身体に勝手に触れたな?
貴様、よくもうらやまけしからんことをしてくれたな……!
いいだろう。お望みどおりその命、絶望とともに地獄へ送ってやる。
さーて次回の投稿は……?
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