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10話.[自分のスタンス]

「ただいまー」

「おかえり」


 静枝に呼ばれて出ていってから三十分ぐらいで千が戻ってきた。

 いまここには僕しかいないわけだからただいまでもおかしくはない。

 というか、なんか同棲しているみたいでいいなと思ってしまった。


「静枝が服を選んでほしいって言ってきたからうんと似合って可愛いやつを選んできたよ」

「それを静枝は買ったの?」

「うん、大人買いしてた」


 それはまた素敵な財力だ。

 こちらは服にお金をかけたりしないからそういうのにお金をかける人はすごいと思う。

 昔に買ってもらった服を着られるからという理由でずっと着続けているからなあ。


「千も可愛いやつを買ってくればよかったのに」

「それが今月はお菓子にいっぱい使っちゃって……」

「おぅ、まあでもお菓子は美味しいからね」


 服と比べれば安価だし、なにより美味しい。

 服の利点は残ることと、着ようと思えばいつまでも着られることだ。

 そこに力を入れている人達からすれば理解できないレベルになるのかもだけどね。


「それに自分で選ぶといつもと似たような感じになっちゃうからね」

「じゃあいまから行く? 服、僕が選んであげるよ」

「お金がないんだって……」

「一着ぐらいなら買えるよ?」

「申し訳ないからいいよ」


 そういうものか。

 二千円から三千円レベルのものでも多分可愛いのはあるだろうからたまにはいいかもと考えたんだけど……。


「それにこの服も気に入っているし、壮だってさっき……可愛いって言ってくれたし」

「うん、凄く似合ってるよ」

「……うん、だからいいんだよ」


 面倒くさいからということであのとき終わらせようとしたのは事実だ。

 千ももういいと言って離れていったことだし、そのまま綺麗に消滅すると思ってた。

 それが何故か千から戻ってくるという不思議さを見せつけられたわけだ。


「だって私から離れようとはしていなかったしね」


 口にしてみたらもっともなことを言われて黙る羽目に。

 確かにそうだ、こちらが我慢できなくなっただけだった。

 自分だけが我慢していると思いこんでいただけ。


「……あのときは本当に焦ったんだから」

「静枝を執拗に連れ戻そうとしたよね」

「うん、だって複雑だったし。静枝もまた壮のことを気に入っていて何回も行っていたわけだからさ」

「そうだね、千にああ言われても変えていなかったしね」


 自分のスタンスを守れる強さがある。

 こちらからすれば眩しい存在でしかない。


「あとは前にも言ったように自分が調子に乗っていたことをやっと気づけたからだよ」

「でも、指摘してきていたことは間違ってないんだよね」

「ううん、例えそれでも駄目だったんだ」


 彼女はこちらの両手を握ってきて「ごめんね?」と。

 こちらも我慢させ続けてしまったからごめんと謝っておいた。


「ありがとう、ずっと一緒にいてくれて」

「ううん、壮のおかげで絶望から自暴自棄にならずに済んだから」

「そっか、じゃあそういうことで」

「うん、ありがと!」


 すっかり退屈な毎日ではなくなっている単純さに気づいた。

 ただ、こうして毎日を楽しめていればそれでいいんじゃないかと片付けられたのだった。

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