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北宮誉という最強


「誉、やめて」


蜜映の言葉に誉の動きが止まった。その表情は信じられないとでもいいたげだ。


「自分の部屋で寝てよ」


「何のために蜜映のベッドをキングサイズにしたと思ってるの」


その言葉に蜜映はため息をこぼす。


「私はシングルでベッドを発注してもらったはずなんだけどね」


婚約してから一年、誉は宣言通り蜜映に執着的な愛を見せていた。


「蜜映」


簡単に手を伸ばし、頬に触れる。その手を蜜映が叩き落とすことなんてあり得ない。蜜映にとってこの男は人生の全てだ。この男が蜜映を捨てた時、蜜映の人生はどん底に落ちるのだから。番、なんて強固な絆がありそうな言葉を用いているが、何かあの時に強い心の繋がりを蜜映は感じてはいなかった。いつか捨てられるかもしれない、そんな不安がついて回っていた。誉は、最初の蜜映の制止の言葉など忘れたかのようにベッドに入った。


「蜜映」


甘ったるい響きに溶かされるように、蜜映は諦めて誉の腕の中に収まる。


「蜜映との時間が作りたくて帝承に来てもらったんだ、これくらい分かってただろう」


蜜映の顔中に啄むようにキスを落とす。


「誉」


「明日は早朝から仕事なんだ、朝起こしちゃったらごめんね」


尚更自分の部屋で寝てほしい、そんな言葉を飲み込み、リモコンで部屋の照明を落とした。


「おやすみ」


「おやすみなさい」


蜜映は誉の腕の中で目を閉じた。


アラームが鳴っている。電子時計の表示は5:45、 早すぎる。蜜映はアラームを止めて状態を起こす。


「誉、起きて」


隣で眠る誉の仕事のためのアラームのはずなので誉の肩をゆする。


「ん〜」


「5:45!早く起きないと朝ごはん食べれないよ」


「朝ごはんはいいから、あと5分…」


この人、全然起きない。蜜映は、誉を見下ろしながらため息をついた。私だってあなたが一緒に寝てなきゃ、あと1時間は寝れたんですけど。そんな心の声が漏れそうになりながら、誉を起こしていると


「キスしてくれたら起きる」


なんて言い出した。


「別に起きなくて困るの私じゃないわ」


思わず言葉になって口から出てしまった。


「蜜映〜」


「絶対起きてる」


そんな蜜映の言葉を聞き流しながら、誉は蜜映の腕を引き、蜜映を腕の中に収める。


「もう少し、寝よ」


「寝ないから!」


そう蜜映が返していると


「おい!!!誉!!お前また蜜映の部屋にいるんだろ!!!今日は地方の任務なんだよ!!!飛行機に遅れたらまずいだろ!!」


ドンドンドンと、扉を叩く音と、絶え間なく誉を呼ぶ昴の声がする。


「うるせぇ」


誉が、鬱陶しそうに眉を顰める。


「蜜映!お前起きてるだろ!開けろ!!」


昴に言われて、ベッドを出ようとすると


「起きるから、昴の相手なんかしなくていいよ」


スッと、誉が起きた。


「朝からうるさいよ、昴」


「まだパジャマかよ!!!」


「着替えるから、閉めるよ」


「さっさとしろよ」


そう言って、昴が廊下に出て待っている。誉は、さも当たり前のような顔で、蜜映のクローゼットを開けてその一角に当たり前のように置いている自分の制服を取り出して着替え始めた。私の部屋なんだけどなぁと、蜜映は微睡の中でそう思う。誉は当たり前のように蜜映の部屋に歯ブラシを置いているので、当然の顔をして歯磨きをして、冷蔵庫を開けて栄養剤のゼリーを取り出す。うつらうつらとしている蜜映の額にキスをして、


「行ってきます」


そう言って扉を開けた。


「おせぇよ!!送迎の人からめちゃくちゃ電話かかってきたわ!!!」


そんな昴の声に、悪い悪いと笑いながら寮を出た。


 コピーのギフトは、一度見たギフトをコピーすることができるギフトだ。しかし、そのギフトにとって1番難易度の高い魔術はコピー出来ない。ギフトは基本、魔力を有していないと機能しない。けれど、蜜映のギフトは特別なギフトで魔力を有していなくても機能する。人間に宿る魔力は基本正の魔力と呼ばれており、正の魔力を用いて機能するギフトは誉にとってコピー対象だが、負の感情や怨念が溜まり魔力になり形を成す魔物の用いる魔法攻撃はコピーの対象外になる。


「時空のギフトさえコピー出来れば瞬間移動出来るのにな」


飛行機に乗りながら、誉がぼやく。


「まだ現れてないんだろ、お前の相棒」


「本当に現れるかもわかんねぇけどな」


魔術界では最強は2人とされている。


魔術四大名家の中から、突然産まれるコピーのギフト持ちと、なんの関連もない一般人から産まれるといわれている時空のギフト持ち。魔術が世界の隅に追いやられている今、一般人の魔力持ちをこちらにスカウトするのすらカルト集団と間違われないようにと大変なのに、その中から時空のギフト持ちを探し出すなんて困難だ。


「ついたら起こして」


誉は、アイマスクをすると意識を手放した。昼前に、東北地方に着き、昼食を取る。


「東條家の本家はこの辺りだったか?」


「あー、東條家は東北の方だもんな」


「東條家の管轄なら、東條家でやれよ」


誉が文句を言いながら森の奥へ進んでいく。


「東條家の当主も、東條家所属の光の魔術師総出で一斉討伐をしたらしいけど」


「デカイの逃して俺に回すなよ」


最強のすぐ下は、四大名家の当主達だが、実力には大きな差がある。


「魔物って陰気くせぇ場所に多いよな」


なんて言いながら、出てくる下級の魔物に魔力を野球ボール大にしただけの魔力玉を当てる。


「雑魚くらいは完全に祓っていてくれよな」


「デケェのが残ってんなら、わらわら出てくんのも仕方ないだろ」


昴が土の魔術を唱えて、同じように下級の魔物を蹴散らす。


「この奥だな」


明らかに雰囲気の悪い洞窟を見つけて、誉が笑う。


「この洞窟って中ぐちゃぐちゃにしてもいいんだっけ」


「いいらしい、火でもぶっ放つか?」


「東條家の管轄だし、東條家のオハコの光の魔術で上からでけぇ雷落としてやる」


北宮誉が最強と呼ばれるのは、ギフトだけではない。


「お前、最大値出したらこの森全部焦げるぞ」


「俺が魔力量調整できないバカだと思ってる?」


魔力量測定器が壊れるほど膨大な魔力を有していることも最強と呼ばれる所以だ。


「光の魔術、落雷」


晴天の空に、一つの怪しげな雲が出来、ドンっと地響きするほどの落雷が一つ落ちる。その隣で、昴が魔力感知を行う。


「消えた、な。任務完了だ」


「やっぱ、お前ついてこなくてよかったな」


「どうせ俺はお前の力任せ魔術の被害を阻止するためのストッパーだからな」


膨大な魔力があるために、誉は基本一発の大きな魔術でカタをつけたがる。それにより周りに被害がいかないように、上級ランクの任務では基本当主達の次に魔術師としてランクの高い昴が見張りにつくことが多い。


「帰ったら、夕方か。蜜映にご飯いるって連絡しとこ」


誉がスマホを出して、蜜映に連絡を入れる。


「お前、毎日蜜映のとこで寝泊まりしてんの?」


蜜映の兄として苦々しい顔で、昴が聞く。


「まぁね、でもほら一線越えるなって誓約書書かされてるから、毎晩生殺し」


「逆によく泊まってるなお前」


昴が信じられないという顔をすると、誉が笑った。


「蜜映は感じてないみたいだけど、本当に俺の番なんだよあの子。だからこそ、歯止めが効かなくなる前にあの誓約書にもサインしたし」


「蜜映にお前の魔力注いでも、蜜映は酔わないもんな。なんとなく、相性がいいのは分かる」


誉は、マーキングをするように蜜映と一緒にいる間は蜜映は自分の魔力を制限なしに注いでいる。


「まぁ、俺の魔力を注いでも纏うだけで、魔物が見えたり魔術が使えたりするわけじゃないからね。蜜映は何も気付いてないよ」


蜜映は、魔力なし。魔力に関することは何しても感知できないし、分からない。


「お、今日は生姜焼きだって」


「いや、俺は食わないし」


嬉しそうな誉を見ながら、昴はため息をついた。



『もう1人の最強が現れた時、北宮誉との婚約を破棄して、もう1人と婚約を結ぶ』


四大名家は仲がいいわけではない。蜜映の大事なギフトをわざわざ北宮家にやる必要はない。西園寺家当主はそう考えているようだった。


「現れない方が、幸せなんだよな」


先を歩く誉には聞こえていないようだった。

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