初陣
今回は初めて戦闘シーンの描写をしてみました。
アドバイス等ありましたらよろしくお願いします
…そういえば、適正役職を聞いていなかったが、適正属性が回復魔術だと書かれていたから、どうせろくな役職を勧められないなどと考え、ジョブセンターに戻る事はやめにした。
実際のところ、魔術が使えなくとも自分には充分な剣術が備わっているので魔術は扱えなくてもよかったのだが、それでも使ってみたいっていう男のロマンがありましてですね…
…そんな事よりも、まずは生計を立てる事を考えなくては。
まだ一回しか食べた事がないけど、モンスターの肉(スライムは食べられないが)を食べて生き延びるっておじさんは言ってたな…
ひとまず今日はおじさんからもらった銀貨を使えば宿に泊まれるけど…明日からは街に張り出されてる依頼を受けてお金を稼がないと宿にも泊まれない…
勇者って意外と大変なんだなと思いつつも、依頼が張り出されている掲示板に足を進めた。
◎薬草を採ってきて!
◎ゴブリンの群れを倒して!
◎実験台になってください
ありきたりな依頼からあからさまに怪しいものまで、ざっと見た感じだと五十枚以上の紙が並んでいた。
時計を見ると丁度昼頃だったので、(昼飯用の)ゴブリンの群れを倒す依頼を受ける事にした。
___王都から西に約一キロ、かつては農業で栄えていた(と聞いている)町、スライド。依頼主は開拓班の人たちだった。
ゴブリンの数はおよそ三千。他の勇者との合同で討伐が行われる。
他の勇者はほとんどが魔術を扱う杖だの回復用ポーションだのを持ってきているが、勿論こちらはほぼ無一文状態。魔術も使えない俺の武器は、もちろん刀だ。
「日ノ國」伝統の武器、刀。
王都の剣とは違い、滑らかな曲線を描く様な刀身が特徴の武器だ。
…まぁ、いつもは、って言うか今は「不殺」の概念が付与されていてただの木刀に過ぎないのだが。
それでも、ゴブリンの数はたったの三千。
「アイツら」に比べたらどうって事は無い。
「あ、ちょっと君、カード見せてー」
俺より少し年上のお兄さんが近寄って来た。グイグイ来られるのは苦手だな…
「…やっぱり。装備も付けてないと思ったら新人じゃないか?初めての戦場がこんな所で大丈夫かい?」
「あ、はい。大丈夫です。刀の扱いには、自信があるので」
「刀…刀か…中々お目にかかれない武器だなぁ…いくら木刀とは言え…ん?」
「あ、あんまりジロジロ見ないでくださいっ」
つい刀を取り上げてしまった。
「あっ…すいません…急に取り上げてしまって」
「い、いいよいいよ、大丈夫。それよりも…」
そう言うとお兄さんは森の方角を指差し、
「見えた。ゴブリンの群れだ。ここ数日間、開拓班が餌付けしてくれたおかげで、今日もここに来てくれた」
ゴブリンの群れが、餌目がけ我先にと走って来る。と、ゴブリンの足音しか聞こえなかった開拓地に、力強い声が鳴り響いた。
<ファイアストーム!>
「あれは…風と炎属性の混合魔術だね」
「カッコいい…」
俺はただその場に留まってるだけだったが、他の冒険者はその魔術を開戦の合図として受け取った様で、剣や杖片手に一目散に突撃していった。
「それじゃあ、僕も行ってくるね。君はここに留まっておくかい?」
「あ…もう少しだけ…初めて間近で魔術を見れて嬉しいんです」
「そうかい。健闘を祈るよ」
そう告げるとそのお兄さんは俺たちが立っていた崖をまるで行き慣れたかの様に飛び降りていった。
それからしばらくの間は傍観の時間が続いたが、あるタイミングで戦況に変化が生じた。
ズドオオォォォオン。
地を揺らす足音。
他のゴブリンよりも一回り大きいそれは、現れた瞬間に場の者を敵味方問わず圧倒した。
キングゴブリン。そう名付けるのが妥当なくらいの威圧感だった。
「こんな重量級のやつがいるなんて聞いてないぞ!」
「待って待って待って!今足挫いてるから、ほんとに待っ__」
踏み潰されたり、棍棒で上半身を吹き飛ばされる勇者たち。
上がる血飛沫。飛び散る肉片。
それらを見て、俺は___
「…そろそろ、やるか」
戦場に赴く事を、決めた。
別に逃げれないから気が狂った訳じゃない。
逃げようと思えばここからならいくらでも逃げられる。
ただ、食料が欲しかっただけ。それと___
「やっぱり嫌だな。ヒトの血は」
ただ、そんな、他のニンゲンたちにはどうでもいい理由だった。
「概念武装、解除」
木でできた部分が割れ、中から銀色の刀身が姿を現す。
そこから、まず崖下に降り、棍棒を振り回すキングの隙を見極める。
「グッ」
殺気に勘付かれた。キングはそのままこちらへ走って来る。
しかし俺にとっては好都合だ。
構えを取る。腰を一段低く、足に力を入れる。
当然ながら、走って来る間は相手は無防備。
棍棒を振るスピードは速いが、その動作に移行するまでが長過ぎる。
ズドン。ズドン。
一歩、一歩と近づいて来る。しかし___
スッ。
一閃。
勝負はたったの一撃でカタがついた。
上がる血飛沫。飛び散る肉片。
それが自分のものになるとは、キングは思いもしなかったであろう。
「なんだあれ…」
「すげえ!」
戦地では歓喜の声が上がっていた。
残されたゴブリンも走ってどこかへ消えていき、ようやく戦いは終わりを迎えた。
…さて、それじゃあ一番の目的を達するか。
俺はキングの巨大な肉を指差し、崖から観察しに来た依頼主に向かって、
「この肉、持って帰ってもいいですかー?」
夕暮れと血に染まった荒れ地の下で、ありったけの力を込めて叫んだ。
_____依頼主から小刻みに分けてもらったキングの肉と金貨三枚(一番の活躍を果たしたため)、そして依頼を終えた証としてバッジを貰い、犠牲になった勇者の埋葬をした後、王都へと戻った。
今日はそのまま風呂にも入らずご飯も食べず、ベッドへと一直線。そのまま深い眠りについた。
あのお兄さんは大丈夫だったかな、なんて事を思いながら。
…夢の中で、師匠の姿を見た。
…上半身が切断され、目は虚、赤く染まった床に倒れ込んでいる、もう二度と思い出したくもなかった姿を。