7話 融合
カイトはかろうじて動く左腕を使ってズルズルと這いながら、使えそうなものがある場所へ移動する。
金属で出来た太い枝
白銀色の鱗のついた大きな肉片
金色に輝く毛皮
高価なガラス瓶に入っている赤い液体
同じく意匠の凝らしたガラス瓶に入ったカラフルな液体
カイトは意を決して自身の力を発動させた。
まずカイトは【分離】を使い炭化した自身の肉体を取り除いた。
「ぐわぁああああ!!!」
あまりの激痛に意識を失いかけるがマナを救いたい一心でそれに耐える。
さらに【融合】を使い失った肉体を白銀色の鱗のついた肉片を使い自身へと融合させる。
ここでも感じたことのないような激痛が襲う。
その後も折れた骨や砕けてしまった骨は金属で出来た枝を融合させ修復し、
失った皮膚や髪の毛の代わりに金色に輝く毛皮を自身に融合させた。
激痛に耐えられず何度も叫び声を上げたがなんとか持ち堪えた。
だが精神ではどうにも出来ないほど意識が朦朧としてきた。
『マズイ!血が足りない』
カイトはガラス瓶に入っている赤い液体と虹色の液体を使おうと手を掛けるが封が開けられず液体を取り出すことが出来ない。
割ろうと地面に叩きつけるがびくともしなかった。
ハッ!とカイトは自身の力で開けられると気付き【分離】を発動させる。
するとガラスと封を簡単に分けることに成功する。
薄れゆく意識の中で自身の血液に2つの液体を融合させた。
ここで急激な変化が起こった。
先程までツギハギだらけのカイトの身体がみるみる元に戻り始めたのだ。
元に戻るかと思われたカイトの身体だったが次に起こったのは指先からどんどん土気色になり少しづつ身体が砕け始めた。
身体の中で回復と破壊が繰り返され、崩れては元に戻るというのを繰り返していた。
どちらも激痛を伴っていたが今のカイトには関係がなかった。
「よし!これでなんとか動けるぞ」
すぐさまマナへと駆け出そうと一歩踏み出すと
(ブワッ!)と空気を割るかのように有り得ないほど前に進んだ。
「おっ!っと」
うまくバランスを取り転倒するのは防ぐことができた。
自身に何かが起きたのはわかったが今のカイトにはそんなことはどうでも良かった。
かなり距離があると思われたがすぐにマナの元へと辿り着く。
「マナ!大丈夫かマナ!」
倒れているマナを抱きかかえたカイトは信じられないことに気付く。
なんとマナは息をしていなかった。
恐る恐る胸に手を当てると鼓動は完全に止まっていた。
「嘘だ!嘘だ!嘘だ!頼むよマナ!起きてくれ」
すぐさまカイトは心臓マッサージを始めマナに話しかけ続ける。
しかしどんどんマナの身体は冷たくなっていく…
「なんでだよ…なんでマナが死ななきゃなんないんだよ!…いくらでもバナウイ作るからさぁ…ずっと一緒にいるからさぁ。マナのためならどんなことでもするから起きてくれよぉ…それに俺、まだマナに好きだって伝えてないんだぜ…」
ふとマイクさんに言われたことを思い出す。
『マイクさんの言う通り後悔する前に伝えておけば良かった』
カイトはマナを抱きしめて涙を流すしか出来なかった。
崩れていく第三実験室の中で音も聞こえずただ冷たくなっていくマナを抱きしめていた。
『ほぅ!私の為ならなんでもするんじゃな』
ハッと顔をあげマナを見つめる。
そこには綺麗な顔をしているがすでに息を引き取っているマナがいた。
「遂に幻聴まで聴こえてきたのか」
死んだ人間が生き返るもんかと天を仰ぐ。
『幻聴ではないわい。下を見ろカイト』
カイトはマナの声に似た何かに言われた通り下を向く。
そこには瑠璃色の万華鏡のような模様の宝石から青い光が浮かんでいた。
カイトはその宝石を手に取り持ち上げた。
『こんな時に愛の告白とはカイトも余裕じゃのう』
それは間違いなくマナの声だった。
「いや…?えっ?マナなのか?」
馬鹿馬鹿しいと思いつつも手に持つ瑠璃色の宝石に話しかける。
『そうじゃ!さっきからそう言っておろうに」
カイトは枯れた筈の涙が更に溢れてきた。
「う…うぅ…」
言葉が出てこず涙を流すカイトに
『すまんのじゃ、すぐに話しかけようと思ったんじゃが私もこの状態でうまく力が使えなくてのぅ。思い掛けずカイトの告白を聞いてしまったのじゃ』
カイトはそこまで言われ急に恥ずかしさに襲われる。
「ふざけるなよ。こっちは死んだと思って…」
カイトが文句を言おうと声を荒げようとすると
『私も好きじゃよ、いつもそばにいてくれたカイトのことが大好きじゃ」
カイトは理解が追いつかず言葉を失う。
『もっと早く伝えれば良かったのぅ。』
マナの言葉にカイトは笑みが戻ってきた。
「俺もさっき同じことを思ったよ、てかなんで宝石なんかになったんだ??」
カイトは先程から思っていた疑問を投げかける。
『グラント所長のギフトじゃよ。一度だけ自分の意識を他に移す力を【完全再現】で使ったんじゃよ。これは大きな賭けだったが鉱石に意思があると言っておったからそこそこ成功する確率はあると踏んだんじゃ。それにその肉体は限界を迎えていたしのぅ」
そうなのだ。グラントが異世界の神にその力を発動するのを見ていたマナはその力を使い目の前にあった宝石に自身の意識を移したのだ。
『嬉しいことにこの状態でもギフトの力は使えたのでこれもグラント所長の力でカイトに話しかけておる、そういうカイトも何やらすごい姿をしているのぅ』
カイトはそう言われ自身を見てみる。
確かになんとか動けるようにと近くにあるものを自身の力で融合させたのだからまともな姿ではないだろうと思っていたが、肌に薄らと鱗が見えたり。
髪の毛の一部が金色だったり。
何故か犬歯が伸びていたりしているが人間の形はしていた。
カイトは気付いていないが残っている左側の目は綺麗な朱色になっていた。
だが肉体の崩壊と回復は止まっておらずどちらかと言うと崩壊の方が早くなってきている気がしていた。
「こっちにも色々あったんだよ」
カイトは照れ臭くなり横を向く。
『カイト、上を見るのじゃ。』
急に真剣な声色でマナが話しかける。
「ん?上か?…なっ!?」
そこには当初の2倍以上の大きさになったゲートがあった。
ブックマークや感想等いただけますと嬉しいです。
よろしくお願いします。