カールホルス父娘の瞑想会2
「ほう? なかなか美味ですね。誰の水魔法ですか?」
国王カールホルスがまるでテイスティングするように、銀のカップに入った水を味わう。
「ドムですね。護衛騎士のドムトート」
「ああ、賢者殿の弟子の。そのドムトートはどこに?」
「今夜は水薬を作りに行ってますよ」
「フン、私を強引に誘ったように、こちらに参加させなかったのですね?」
カールホルスがいつものように皮肉気に言った。守生はそれを笑って受け流す。
「あはは、まぁ瞑想は大勢でやった方が深く瞑想できるので、できればそうしたかったんですけど。ドム自身のスキルアップを優先してもらいました」
「フフン、分かっているじゃないですか。うちの調合師たちにも頑張ってもらわないと。まぁ、護衛に関しては私の近衛騎士たちがいますから、問題ないでしょう」
「ええ。アベルもいますしね」
「……アベルアヌビスですか……」
カールホルスが苦虫を嚙み潰したような顔をする。別に嫌いではないが、あの率直さは貴族受けしないのだ。
守生がぐるりと部屋を見渡せば、アベルアヌビスと数名の近衛騎士が窓や部屋の入り口を守っている。ある程度広さがあるので圧迫感はない。瞑想の邪魔になることはなさそうだった。
「さて、今から一時間半ほど瞑想をします。もしお手洗いに行きたい方は、今のうちに済ませてくださーい」
ウーナウヌトが慌てて立ち上がり、また座った。
「えーと、ウーナさん? 遠慮なく行ってもらっていいんですよ?」
「あの、はい、いえっ!」
「ウーナ……。私、お手洗いに行ってくるね?」
「え、あの、じゃあ、私も……」
「ウーナさん、レネーさん、そこのトイレを使ってください。二つあるし」
「はーい!」
「あの、はい、ありがとうございます……」
二人は恥ずかしそうにそそくさとお手洗い場に入って行く。暇になったのかアリーアヌビスが立ち上がり、テトテトとエリスイシスの前に歩いて行く。
「王女殿下はおしっこ、だいじょーぶ?」
「……アリーは大丈夫かしら?」
「んー、いく! 王女殿下はー?」
アリーアヌビスは「王女殿下」だけなめらかに発音するが、これはヘレナヘケトや義姉レネーレネネトの躾の賜物だ。実際のところアリーアヌビスは、「エリスイシス王女殿下」の愛称が「王女殿下」なのだと思っている。
「……行っておこうかしら……」
「わーい、じゃあ、いっしょに行こー!」
「そう、ですわね」
王女と一緒だと喜ぶ元奴隷の子どもと、羞恥心を堪えてうつむく十歳の王女。今度はヘレナヘケトが卒倒しそうになっている。
ウーナウヌトとレネーレネネトが部屋に隣接した手洗い場から戻ると、エリスイシスとアリーアヌビスが立ち上がり、手を繋いで向かう。
中はそれぞれ個室なので問題ないが、王女と元奴隷が手を繋いでいる姿に女性陣は青ざめた。護衛任務中のアベルアヌビスだけは冷静だ。
(遠慮しないでトイレを済ませてほしいから。問題なし!)
「まったく。全員、準備ができていませんね?」
「まぁ、みんなちょっと緊張気味のようですね」
「フン」
カールホルスは機嫌が悪いわけではないようだが、どうにも冷たい。国王の皮肉に、ウーナウヌトたちは縮み上がっている。
これが階級社会かそれともパワハラかと思いつつ、守生はカールホルスの隣の椅子に座る。
「王様、あなたが準備万端であることは素晴らしいことです。やる気があって、僕はとてもうれしく思います」
「フフン、そうでしょう、そうでしょう」
カールホルスが、金色の一番豪華な椅子に座ったまま胸を反らす。
「でも、あなたのそばにいるだけで緊張してしまう人もいるんです。それは分かってあげてください」
「フン、元奴隷を同席させるからですよ」
「エリス姫も緊張しているみたいですけど?」
「それは、あなたに緊張しているのでは?」
「そうなんでしょうか? お茶会では楽しそうでしたよ。久しぶりに父親と長時間過ごすことに緊張していたりして……」
「ま、まさか!」
カールホルスがくちばしを左右に振って、分かりやすく動揺する。いつもの眼力が弱まっている。
「冗談です、王様。たぶん初めてのことを上手くできるか不安なんですよ、きっと」
「でしょうね! あの子は私に似て努力家ですから!」
「そうですね。ああ、そうそう。ヘレナさんにも参加してもらいたいんですけど、構いませんよね?」
「元奴隷が参加するのに、あなたに貸し出した王族付きの侍女が参加できないなどありえませんよ! ヘレナヘケトも早くお座りなさい?」
「ははは、ありがとうございます、王様」
「かしこまりました、国王陛下」
守生がヘレナヘケトを見遣れば、一礼して空いた椅子に座る。少しフラフラしているが瞑想が始まれば大丈夫だろうと、守生は見て見ぬふりをした。
「あ、そうだ。アイシャさんをエリス姫のそばに置いたら喜ぶかな?」
守生はヘレナヘケトに適当な台を収納の魔道具から出してもらうと、台とアイシャアイシスの壺を輪の中央に置く。少しだけエリスイシスの椅子に寄せた位置だ。
壺の側面に描かれたアイシャアイシスが、興味深そうな顔で部屋を見渡している。だがカールホルスがいるせいか守生に話しかけることはしない。
「これでよし。瞑想の基本の一つ目は、リラックスですからね。これでエリス姫も落ち着くかと!」
「なるほど?」
カールホルスがわざとどうでもよさそうに相槌を打つ。天邪鬼なのはいつものことなので、守生は気にせず椅子に座り、ゆったりした気持ちでトイレ組を待つ。
(最初から完璧にできなくてもいい。少しだけでも瞑想の心地良さを知ってほしい。そうすればきっと、瞑想を好きになる。そして、瞑想を続けることは、その人のためになるはずだから……)
次の瞑想本番、エリス姫視点のお話です。それで100話目 36万文字超となります。
王道をすっかり外した長い話を、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!!




