アベルアヌビスのやり方
サブタイ「騎士道精神」から「やり方」に変更しました。(9/27)
「あ、叫び声がするっすー」
「えっ! 誰の?」
「たぶん、フィリップハピ様っすねー」
しばらくすると、失神したフィリップハピが板に乗って運ばれてきた。
「お風呂に行ったはずですよね? 足を滑らせたとか?」
「いいえ。風呂係によると、大浴場の微温浴室で、前触れもなく失神されたそうです」
「前触れもなく?」
守生はヘレナヘケトをジトッと見る。
「フィリップハピ様はシュー様の派閥の一員であり、国王陛下もお認めになられたお客人でございます。大浴場へ通すべき方だと判断いたしました」
ヘレナヘケトが平然と答えた。
確かに道理は通っている。守生も大浴場を勧められたが、今は簡易浴場を使っている。
(でもそれは、微温浴室の床が昆虫族と呼ばれるヒトの皮膚を使ったものだと知ったからで!)
「フィリップハピ様は一時的に昆虫族化しただけでございますし、元々昆虫族の調度品を大変好んでおられました。喜んでいただけると思ってのことでしたが……」
ヘレナヘケトは残念そうに首を振るが、守生にはどうにも芝居がかっているように見えた。ヘレナヘケトがフィリップハピに好意的であったことなどなかったからだ。
(でもまあ、仕返しってほどのことでもないんだよねぇ。フィリップハピが微温浴室のキラキラを美しいって思う可能性だってあったわけだし)
守生はフィリップハピを適当な部屋でもてなすように指示する。
一緒に食事する義理はないし、できれば守生の視界に入ってほしくなかった。【ホーリーウォーター】だけは大量に作ったので、それを浴びさせてから、施術するしかない。
(考えただけで金玉が縮み上がる……)
守生は盛大にため息を吐いた。
「シュー、大丈夫か? 宰相様に言って、担当者から解毒剤をもらうこともできるんだぞ?」
「でもそれって上からの圧力にならないのかな? 担当者の権限や判断は王様も認めてるわけだし……何が正しいんだろう」
法律は普遍的なものではない。時代や国によって違うものだ。だからそれを理由に、守生がヒーリング、つまり【光の奉仕】をしないというのは合っていない。
守生が従うべきは法律ではなく、【宇宙の法則】だ。
(だからフィリップハピに【DNAアクティベーション】をする。この抵抗感こそ、今の僕が乗り越えるべき壁なんだろうなぁ……)
瞑想しようと守生が立ち上がると、アベルアヌビスが両手を挙げた。
「あ、シャンバラ・アクティベーション?」
「はいっす! 元気ない時にすると、いいんですよねっ!?」
「だね」
パシンと乾いた音を立てて、ハイタッチする。アベルアヌビスは守生と似たような目線だが、その手は守生より少し小さかった。
そのままギュッとハグされた。驚いているうちに腋に手を入れられて、くるくる回転させられる。
「えええ!? アベル!?」
「楽しくなりません? オレ、孤児院で初めてやってもらった時、カンドーしたんすけど!]
[ありがとう。えーと、じゃあ右回りでお願いします」
「あ、そっか! シューさん右回りが大好きですもんねっ! ドムさんにも言ってたし!」
「うん、大好きなんだ」
アベルアヌビスは一度止まって守生を降ろすと、またすぐ持ち上げてクルクルと回り出す。慣れた回転とこのおかしな状況に、守生はケラケラと笑い出した。
二人の様子にヘレナヘケトは頭を押さえ、ドムトートは笑いを堪えるようなしかめっ面で護衛任務をこなす。
「あ、ドムさんにも後でやってあげますねーっ!」
「いらねーよ、バァカ!」
「照れなくてもいいのにーっ!」
「照れてねェ! アリーにでもやってやれ!」
「はーいっ!」
しばらくクルクルと回り続けてから、アベルアヌビスがゆっくりと回転速度を落とす。
「アベル」
「シューさん、酔っちゃいました?」
アベルアヌビスが完全に静止し、守生は大理石の床に足を付ける。
「ううん、おかげで元気出たよ、ありがと」
「ふふふーっ、オレはシューさんの護衛騎士ですからねっ」
まるで心まで守るのが仕事だとでも言うように、アベルアヌビスは口元を押えて笑うのだった。
今日はいっぱい読んでくださってうれしかったです。
明日月曜日、夜22時頃に更新します。




