表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/150

58 ハグと、感情コードのカッティング

読んでくださってありがとうございます。ブックマークしてくださってありがとうございます。

 守生が午前中に使った水薬の代金を聞くと、トリスタントートが手を振った。腕に付いた白い羽が一緒に揺れる。

 

「ああ! 【ホーリーウォーター】をいただいたので、不要ですよ! もう一瓶いただけるなら、以前使った分も不要です!」

「え!? ダメですって! 別にあれは売り物じゃないので!」

「……そうなのですか? 質も良く、かなり貴重なものだと思いますが」

「いや、それはそうですけど! 品質が悪いから売れないとかそういうことではなくて、僕の所属するミステリースクールはヒーリングには絶対にお金をもらうんですよ。等価交換でないと、エネルギーが動きませんから」

「つまり効果がないと?」

「そうですね。なんていうのかな、自分が変化することを受け入れるための儀式、その供物が施術代なんです。自分には変化変容するだけの価値があるって、無意識に認めるというか」

「なるほど? それと【ホーリーウォーター】が無料なのとどう繋がるんですか?」

 

 おもむろにトリスタントートは防音の魔道具を発動させた。


「サイラスにも、無料でやってくれましたよね? 【悪意を跳ね返す】とか【感情のコードを切る】とか」

「ええ。ヒーリングは、相手の許可がないとやりません。そのための許可証としてお金をいただきます。でも【ホーリーウォーター】や他のヒーリングではないワークに関しては、必要があれば相手の同意なしで行ないます。まあ、よほどのことがない限り、普通は声をかけてから行ないますけど」

「ほう。あなたの中では明確な境界線があるのですね?」

「ええ、そうです。僕というか、僕が所属するミステリースクールが決めたことですけどね」

「なるほど」

 

 トリスタントートがこめかみを抑えながら頷く。なんだか頭が痛そうに見える。


「あの、大丈夫ですか?」

「ええ、問題ありません。いつものこと……というか、あなたとこういう話をしていると『彼』が饒舌になるのでね! 仕方ないのですよ!」

「……彼?」

「呪いの仲間と言いましょうか。もう長い付き合いになりますねぇ……。いつかきっと、全員に会わせますからね! たとえあなたが嫌がったとしても!」

「分かりました。段取りはお任せします」

 

 嫌がっても会わせるという表現が気になるが、守生は話を進めた。そろそろ施術に入りたい。

 

「えーと、【ホーリーウォーター】に関しては、希望されるお客さんに渡したりしていますから。自分にスプレーしたり、拭き掃除に使われたりする方もいらっしゃいますよ」

「霧吹き! あれもおもしろいものでしたね!」

「ええと、スプレー瓶は貴重なので……」

「ああ、何でも欲しがったりしませんよ! 私はどこかの国王とは違いますからね! ですが、構造は気になります。私は【黒曜の頭脳】ですから!」

「それはまた、後でもいいですか?」

「ええ、もちろんです! 私も多少は緊張しているようで、饒舌になっていますね」

 

 ははははは! とトリスタントートが笑う。いつもと同じではないかと思ったが、守生は黙って頷いた。施術前に緊張することは、誰にでもある。変化が怖いと無意識に怯える人もいるくらいだ。

 

「では施術を始めていきますが……。サイラスのように思い出してモヤモヤしてしまう人や、悪意を感じる相手がいれば」

「お願いします! 【DNAアクティベーション】もですが、その二つにも大いに興味があるのです!」

「そうですか、分かりました。じゃあ、順番にやっていきますね」

 

 すでに光と繋がっている守生は、トリスタントートの勢いを受け止めて微笑む。

 まず椅子から立ち上がり、お互いに向かい合う。守生は力の言葉を唱えて、トリスタントートに【悪意を光に変えて相手に返すワーク】を施した。

 

「どうですか?」

「ええ! ええ! サイラスが言っていた意味が分かりましたよ! なんですかこの爽快感は! 何かが抜けていきましたよ!?」

「よかったですね。じゃあ、【感情コードのカッティング】はいらないかな……」

「いや! 一応やってください!」

「一応って。またいつでも受けられますよ? ……でもまぁ、切ることで悪いことにはならないはずだし、僕が拒否する必要はないな。よし、やりましょう!」

「ええ!」

 

 守生はお香に火を点け、手に持った。それからトリスタントートに指示を出す。

 

「もう会わないけれど、心のうちにモヤモヤと残っている人を一人、思い浮かべてください……」

「……はい」

「思い浮かべたら……」

 

 ワークを終えると、トリスタントートはほうっとため息を吐いた。

 

「どうですか?」

「ええ……、サイラスが言っていた意味が分かりましたよ……」

「えーと、ハグしましょうか」

 

 悪縁とは言え、縁を切ったのだ。ハグをすれば繋がる。

 守生はトリスタントートと軽くハグをすると、ぎゅっと力を込められた。同じだけぎゅっと力を込める。黒トキの頭をしたトリスタントートの背は高く、腕は白い羽だ。守生はしばし、大きなもふもふを楽しんだ。いや、これも施術の一環である。

 

 二分ほどハグをして、トリスタントートは守生を放した。

 

「【稀有なる光】、ありがとうございます」

「いえいえ」

 

 トリスタントートの穏やかな声音に、守生は微笑んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ