表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/150

43 サイラスオサイリスからの対価

「それじゃあ【DNAアクティベーション】を始めようか」

「おう」

「始めはハグからね」

「はぁ!? お前、やっぱり俺とそういうことがしたいんだな? ……まぁ、別に抱いてやっても構わねぇが」

「いやいや、遠慮する! いや、断固拒否する! あー、もうマジでお前やだ。なんなのその俺様キャラ。俺が整えた波動を返せ! ……あのな、今からするのは神聖なハグ。これはお互いのハートチャクラとハートチャクラを合わせることでしか調整できない箇所があるからなんだよ。チャクラを合わせることが目的だから、エロい雰囲気は一切必要なし! 軽~くするだけだから!」

「そうかよ」

 

 サイラスオサイリスは戸惑いつつも、大人しくシューの指示に従う。【悪意を光にして返すワーク】と【感情コードのカッティング】を経て、シューの光魔法への信頼はある。

 

 軽くハグした後は椅子に座り、頭に触れられた。その後は触られることはなかったが、シューがサイラスオサイリスの体のまわりの何かを触っているという不思議な感覚があった。何もないはずなのに、なぜか温かさを感じるのだ。

 

「じゃ、また椅子に座ってくださーい。後ろにいるから、まっすぐ座っててー。羽だぁ」

「……お前にもあるじゃねーか。広げたほうがいいのか?」

「いや、そのままでいいよ。ちょっとネガティブクリスタルを取っていくねー」

 

 シューがよく分からないことを言うが、聞き流して目を瞑る。背中に縦に線が立って、それにそってシューが何かを取っているのがなんとなく分かった。

 

(なんなんだ、この光魔法……。つーか、クソムシが静かだな)

 

 サイラスオサイリスの行動に文句を言うようにギィギィとうるさいクソムシが、あの喜びの感情から一転、静かに息を殺している。泣いているような感覚があるような気もするが、施術が始まってから頭の中が静かだ。

 

「じゃ、いよいよ光の注入をします。この石を持ってくださーい」

「お前、そのしゃべり方はなんなんだ?」

「え? いつも通りだけど?」

「ふーん?」

「お前、いやサイラスと話すとつい言葉が荒れるからさ。他のお客さんと同じように話せば避けられるかなって」

「分かった。邪魔したな」

「いえいえ。じゃあ、右足を半歩前に出してー、目の前に……があるのをイメージしてください……」 


 シューの指示通りにイメージして、軽く目を瞑る。首筋から何か温かなものが流れるのを感じているうちに、眠ってしまったようだった。

 

「はい、では体を起こしてー。足を戻して、……から出るイメージをしてくださーい。もう少しだけじっとしててくださいねー」

 

 最後にまた頭を軽く触られて、なぜか首筋がぞわぞわした。ザワザワというか、変な感じだった。

 

「はい! 【DNAアクティベーション】完了です!」

 

 渡された石を返して、ほっと一息ついた。


「あ、お水飲む?」

「飲む。いやいい、持ってる」


 収納の魔道具である腕輪からカップを取り出し、水魔法で出した水を一気に飲んだ。毒を警戒するのは子どもの頃からの習慣だ。

 シューはそんなサイラスオサイリスを放って、片付けを始めた。頭がぼんやりしているので、沈黙が心地いい。

 しばらくして、シューが少し離れたところに椅子を持ってきて、座った。

 

「どうだった?」

「やっぱり、声が遠く聞こえるな」

「声?」

「何人かのヤツらの声が聞こえるんだよ。ずっとこっちを覗いてて、俺のやることなすこと文句を言いやがる。まぁ、お互い様だがな。……簡単に言えば、そういう呪いだ」 

「ふーん?」

 

 妹のアイシャアイシスがシューにどこまで話したのか分からないため、最低限の説明を済ませる。何度も期待して裏切られてきたのだ。情報は極力話さないほうがいい。そう思った。

 

「そういや、お前にいくら払えばいいんだ?」

「あー、値段はまだ決めてないんだよね。そもそも盗賊からお金をもらうのもなぁ。……お金じゃなくて僕が欲しいもの……あ、そうだ! その服ってどこで手に入るの?」

「服だぁ?」

「そう! そのシャツ!」


 サイラスオサイリスはシャツの裾を摘まんで自分の服を見た。蛮族の着るシャツとズボンだ。襟元は革ひもを編むことで締めている。アテナイュヌでは珍しい服装が、他の地域ではごくありふれたものだった。

 このシャツは魔獣狩りをした時に、近くに住んでいた蛮族の村で魔獣の肉と交換した。村の女たちが血みどろになった服を脱がせてくれ、水浴びの場所へ案内してもらい、衣服や食事、休む場所などいろいろと世話を焼いてくれた。

 

「肉と交換した」

「肉か~! ちなみに交換した場所は?」

「ここから東に行った村だったか?  忘れた」

「忘れるなよー!」

 

 大事なところだろ、とシューが口を尖らせる。

 

「なんだ欲しいのか? 俺と同じ服が?」 

「お前とペアルックとか興味ないけど、俺は自分で脱ぎ着できる服がほしい!」


 シューが今着ている服は、布を巻いてピンで留めただけのものだ。別に一人で着ようと思えばできる。ただしそれは最低限の話で、ドレープの形や全体的な配色を考えれば、侍従か侍女に任せた方がいいのは確かだった。


「ほしいならやってもいいが、蛮族の服だぞ? 王城で着ていいのか?」

「蛮族の服……縫製は甘いけど、レトロお洒落なシャツなのに。そういう偏見はいけないと思います!」

「俺に言うなや」

「ですよねー」

 

 

「で? 他に欲しいモンはねーのか?」

「あー、じゃあハピ兄弟のこと、何か知ってる?」


「ハピ? そうだな……。兄のほうはよく奴隷を買ってきて、痛めつけてるらしいぞ。あと、よく宴会を開いてる。派閥の人間の中でも舌が肥えたやつらを集めて、美食の会だとかなんとか」 

「へー。美食倶楽部みたいなのって、ここでもあるんだ」

「クラブってのがよくわかんねーが、思い当たることがあんのか?」

「え、まぁなんとなくイメージできるよ」

「そうか。弟のほうは服飾関係に目がないな。よく布を買ってる。自分だけじゃなく、嫁や愛人を着飾らせたりしてるらしい。その分そいつらの容姿や体型にうるさいって、シェリカ方面の商品を売りに行った商人が言ってたぜ」


 そのガレー船を奪ったのは、サイラスオサイリスと手下たちだ。そして賢者トリスタントートの高級水薬を手形代わりに、貴族の屋敷に入る許可を得て奪った商品を売り捌かせた。


「シェリカ?」

「ずっと東にある、スパイスと絹の国だ。国というか、そっち方面をまとめてシェリカとって呼んでるな」

「つまりインド、東南アジア、中国方面の国々? てことは日本にも行ける? いや、パラレル時空の地球だし、僕が知ってる国じゃないよな……醤油と米ってあるのかな……」

「おい、何をブツブツ言ってんだ?」


「あ、ごめん。それで?」

「ハピ兄弟は、兄貴が厄介だぞ。長年大臣をやっていただけに、国王が簡単に無視できねぇほど影響力が大きい。旧体制の生き残りとどう繋がってるかも不明だ」

「じゃあ、弟のほうが与しやすい?」

「まあ、お前次第だろ。屋敷に忍び込むなら手伝ってやってもいいが」

「いやー、うん。ありがとう」


煮え切らない返事。困ったような顔。まあこいつはひ弱そうだしな、と納得する。


「また何かあったら教えてやるよ。それ以外にも何かあったら呼べ」

「分かった、ありがとう。連絡先はトリスタントートさんに言えばいいのかな」

「おう、そうだな。 ……は?」

 

「あ、やっぱりトリスタンさんってサイラスの仲間なんだ」

「っ! ひっかけやがったな!?」

 

「王城で初めて会ったトリスタンさんが、キャリーケースを収納の魔道具に入れると魔力がどう作用するか分からないからやめたって言ってたんだよね。サイラスの指示なのか、魔力に詳しそうなトリスタンさんが気遣ってくれたのか分からなかったから鎌をかけてみた」

「くそっ!」

 

『サイラス、あなた馬鹿なんですか? ええ、馬鹿ですよね、知ってました! でも気を抜きすぎですよ! 口封じもできない相手に何をやってるんですか! こうなったら記憶を消すしかありませんね! でも下手にいじって光魔法のことまで忘れられても困りますし……』

 

「うっせえ! 黙ってろ!」

「あ、ごめん、ちょっと調子に乗った。別に誰にも言わないよ?」

「……お前に怒鳴ったわけじゃねえ」

「え? そうなの?」

 

「それより! 呪いが解けたわけじゃねーぞ。他になんかないのか?」

「うーん、DNAアクティベーションは何度か受けるといいんだけど、次は最短でも三週間後だね。それまでは受ける必要がないから。だから次は、エンソフィック・レイかなぁ」

「エンソなんとかは、あの白いのを助ける時に使ったやつか」

「白いの? ああ、ドムか。そうそう。トリスタンさんにも【DNAアクティベーション】を受けて欲しいし」

「だな。受けさせたいやつは他にもいるしよ」 


「分かった。次は昼間か、せめて事前報告よろしく。今回は夜中までソワソワして待つ必要がなくて良かったけどね。じゃなかったら絶対みんなにバレてた」

「いきなり悪かったよ、許せ。連絡はトリン……賢者サマにさせる」

「了解。あ! あと、二十四時間お酒禁止ね」

「はぁ!?」

 

 サイラスオサイリスは今日一番の大声を上げた。自由な時間の少ないサイラスオサイリスにとって、二十四時間は何カ月にも匹敵する。これは仲間と相談しなければ、と強く思った。

 

「その代わり、いっぱいお水を飲んで。いつもより多めに」

「おいおいおい、酒禁止って」

「お酒ってオーラに影響するんだよね。極端な話、中毒になるほど飲んでる人のオーラには黒いゴミがいっぱい付いてる」

「マジかよ。って、そこまで飲まねぇわ!」

「ともかく二十四時間禁止。飲みたいなら自己責任で」

「くそっ! 分かったよ!」

 

 

次回からはシュー視点に戻ります。ここからガンガン動いていきます。


サイラスたちの関係や呪いについて、読み手にどこまでご理解いただいたか、どう予想したのか知りたいので、よかったらコメントかメッセージで教えてください。今後の描写の参考にさせていただきます。お時間ありましたら、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ