表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/150

3 豆料理と生活魔法

 日の出前に、守生(しゅう)は目覚めた。時計は転移した時の時差でずれてしまっているようで、時刻は分からない。

 五時くらいだろうかと適当に見当をつける。

 

 サイラスオサイリスはまだ眠っている。

 昨夜の施術のあと、サイラスオサイリスは何かを確認するように、黙り込んでいた。

 サイラスオサイリスの反応を待っているうちに眠くなったので、そのまま寝てしまったのだ。何か文句があれば、殴りつけてでも起こすだろうという、妙な信頼があったので。

 机の上の水差しから直接水を飲み、水瓶の水でタオルを湿らせて顔をぬぐう。サイラスオサイリスは水魔法を使えるので、これは守生のために用意されたものだ。コップがなかったが、それがここの流儀なのだろう。

 

 守生はサイラスオサイリスが寝ていることをもう一度確認してから、自分自身の波動を上げ始める。

 まず、ハンモック近くの空間だけを神聖な空間にする。ごく簡単に言えばパワースポット化だ。次に天と宇宙の波動を呼び込み、自分自身を満たす。

 防御の陣を張ってから、瞑想をする。


「んー」

 

 しばらくするとサイラスオサイリスが寝返りを打ったので、ここまでとした。

 体の感覚を取り戻しゆっくりと目を開けると、壁の隙間からうっすらと日の光が入りこんでいた。

 朝食になりそうなものを探すため、ボディバッグだけ持ってそっと小屋を出る。

 少し歩くと家畜小屋があり、ウシ頭の男が動物に餌をやっている。家畜は、ブタというよりイノシシに近い。小型だが、牙だけでなく角もある動物だった。

 

「おはよう」

「おう。お頭はどうなすった?」

「まだ寝てるよ」

「そうか。アンタは何しに来たんだ?」

「豆とか葉野菜とかを食べたくて、探してるんた」

「豆ならそこにあるが、本当に喰うのか?」

 

 ウシも大豆を食べるはずだが、このウシ男は食べないらしい。

 訝し気な視線を向けられたが気にせず、積まれた干し草の隣に置いてある飼料袋を覗く。グリーンピースくらいの大きさで、表面がでこぼこしたベージュ色の豆が入っていた。守生は知らなかったが、元の地球でヒヨコ豆と呼ばれているものだ。

 

「豆だ! 少しもらってもいいかな!?」

「おう、それくらい勝手に持ってけ。アンタには好きにさせろって、お頭に言われてるしな」

「ありがとう!」

 

 大きい小屋の外にある炊事場に行くと、サイラスオサイリスがニヤニヤした顔で待っていた。手にはワインの入ったカップを持っている。

 

「よう」

「おはよう。調子はどう?」

「悪くはねぇな」

「それは良かった」

 

 サイラスオサイリスの機嫌はかなり良い。呪いが解けたわけではなさそうだが、何かしらいい変化があったのだろう。他の人もいるので、詳しく聞くことは控える。

 水場に行こうとすると、サイラスオサイリスが手元から水を出してくれた。水魔法というものらしい。

 

「さっすが異世界!」

「お前が言うな、異世界人。つーか、なんで光魔法を扱えるのに、水も出せねぇんだ」

「水道とかペットボトル飲料とかがあるから、あんまり困らないなぁ。そもそも僕が扱う『水』って物質的な水じゃないし。光魔法っていうかな? ライトワーク……、うーん、この話、あとでいい?」

「おう、さっさとメシ作れや」


 サイラスオサイリスの火魔法で、かまどに火を熾してもらう。

 鉄の鍋で水と一緒に豆を煮る。味付けは魚醤だ。ここでの塩味は魚醤で付けるらしく、守生は初めて使った。醤油だと思うと違和感のある臭いだが、魚を使った塩味の調味料と考えれば問題ない。入れすぎないように少なめに使った。

 そうしていると、牛男がやわらかい野草を探して持ってきてくれた。


「わ! ありがとう!」

 

 少しかじってみると、あくが強い。水で洗って別の鍋でゆでることにした。

 豆を入れた鍋が沸騰してしばらくしてから、味見をする。

 

「硬っ!」

 

 豆が石のように硬い。思わず手に吐き出すと、サイラスオサイリスが馬鹿にするように笑った。どうやら失敗するのが見たくて手伝っていたらしい。


(暇人め! ……まぁ、ガスも水道もない環境でここまで苦もなく作れたわけだし、この性格の悪さには目を瞑るか……くそ!)

 

「乾燥してんだから硬ぇに決まってんだろ、お坊ちゃん」

「あー、そうか。保存のためにそうしてるのか。大豆もそら豆も、家で使おうとしたらそうなる、のかな? なるほどねぇ」

「呑気なやつだな」

「知らなかったんだよ。普段は納豆とか豆腐がメインで、たまに冷凍とか作ってもらった煮豆を食べてたから」

「ナットー? トーフ? レイトー? お前、トーばっかり喰ってたのか」

「ともかく! これはしばらく水に浸けておいて、昼前に煮よう。うん、そうしよう」

 

 その後はサイラスオサイリスの小屋に移動し、椅子に座ってうまく調理できたものを食べた。サイラスオサイリスは机に座り、肉と無発酵パンとワインだ。

 ゆでた野草をバターで炒めて魚醤で味付けしたものと、パンとチーズだ。バターと魚醤の味付けは初めてだったが、異国らしい風味が気に入った。皿に残ったバター魚醤をパンでさらうと、これも美味しい。おそらく夏のビアガーデンでも受ける味だ。守生はアルコールを飲まないが。

 カップにお湯を注いで乾燥わかめと乾燥しじみを入れて、スープも作った。出張先の土産物屋で買った物だ。キャリーケースを放り投げられた衝撃でパッケージの一部が破裂していたが、店のビニール袋に入れてもらっていたので被害は少ない。バター魚醤が少し塩辛かったので、いつもより薄めに作る。

 

「サイラスもどう?」

「そんな黒くて形の変わるモンは、喰いもんじゃねぇ」

「……美味しいのに」

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ