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29 異世界うどんと不吉の花

前話、騎士コンビの夜勤のシフトを間違えたので、7/23 23:33に修正しました。ドムトートが、ちゃんといます!

(あらすじは同じですが、内容の雰囲気がちょっと変わりました)


 カールホルスの執務室から戻った守生は、見取り図を思い出してメモを取った。それを参考にして王城全体をパワースポット化する。

 昼食の準備を待つ間に、ドムトートが守生に尋ねた。

 

「シュー、頼みがあンだけどォ。アベルと俺に時間もらってもいいかァ?」

「いいけど、何するの?」

 

 ドムトートはアベルアヌビスを親指でくいっと指差し、言った。

 

「説教ォ」

「えーっ、なんでっすかぁ!?」


 心外だと抵抗するアベルアヌビスを無視して、ドムトートは外の騎士たちに声をかけて一人を中に入れた。その騎士に守生の護衛任務を任せる。

 そしてドムトートはアベルアヌビスに向き直った瞬間、その腹に向って頭から飛んで行った。


「ごふっ!」

 

 アベルアヌビスが床に転がる。一緒に転がったドムトートがいち早く立ち上がり、アベルアヌビスのマウントを取る。

 

「ドム!? 何をするんだ!?」


 人外の動きとその行動に守生は焦った。そんなことを許可したつもりはない。

 

「風魔法です、シュー様」

「解説してる場合じゃないでしょう! アベル、大丈夫か!?」


 ドムトートは顔を顰めながら、アベルアヌビスを見下ろす。ヤンキーのガン付けである。

 

「シュー様に気遣ってもらって、いいご身分だなァ?」

「げほっ」

「ったく、勘違いしてんじゃねーぞォ、クソアベル」

 

 ドムトートを止めようとした守生を、ヘレナヘケトが押し留める。ドムトートは仰向けに倒れているアベルアヌビスの首元を掴んで、言った。

 

「いーかァ? この部屋で、ある程度の勝手はいい。シューが決めたことだァ、俺もフォローしてやる。だがなァ、さっきの相手は国王陛下だ。下手を打ったら、その場でブッ殺されても文句は言えねェ。……シューが助けてくれるから大丈夫だとかと思うなよォ? お前ェのせいでシューの立場が悪くなったら、どう落とし前付けるつもりだ、あ゛ァ?」

 

 ドスの効いた声が、静かな部屋に響く。昼食の配膳をしている侍女たちも空気を読んで静かにしている。

 

「ごめんなさいっす……」

「分かりゃあ、いい」

 

 ドムトートはアベルアヌビスの首元から手を離した。それから守生に向き直って敬礼した。直立したまま右拳を左胸に付ける、騎士の敬礼だ。

 

「お騒がせして、申し訳ありませェん!」

「いや、あの……体罰はダメだけど、ドムの心配は分かったよ。ありがとう」

「シューさぁん、すみませんでしたぁ~っ!」

「シャキッとしろ、シャキッとォ!」

「すみません、でしたっ!」

 

 アベルアヌビスもドムトートの隣に立って騎士の敬礼をした。背の高いアベルアヌビスと背の低いドムトートの凸凹騎士コンビだが、いいチームワークだなと守生は思った。

 

「まぁ、王様も怒ってなかったし今回は気にしないでいいよ。次から気をつけたらいいけど……でも実際、アベルが率直に話してくれるは、すごく助かるんだけどな」

「こいつはどこででもペラペラしゃべるからァ」

「あー、騎士食堂で僕のことしゃべってたって言ってたもんね」

「だって、だってぇ~!」

「だってもクソもねェんだ、よッ!」

「痛いっすー!」

 

 ドムトートに殴られたアベルアヌビスが叫ぶ中、ヘレナヘケトが守生に願い出る。

 

「あの、シュー様」

「何ですか、ヘレナさん」

「午後のお勉強の時間ですが、ぜひわたくしも教師役をしとう存じます。アリーアヌビスだけでなく、アベルアヌビスとドムトートにも指導させていただきたく」

「ありがとうございます。何を教えてくださるんですか?」

「行儀作法でございます」

 

 ヘレナヘケトのカエルの口元が、過去最大急に横に広がる。あまりの黒い笑みに、守生は騎士コンビの無事を祈るのだった。

 

 


 予定外のことはあったが、昼食を頂くことにする。

 守生は肉を食べないため野菜中心のメニューだが、昨日リクエストしたものを料理人が早速完成させたと魚人のハンナハトメヒトが説明する。

 

「こちらが料理人の自信作、ウ・ドンでございます」

 

 供されたのは、黄色と緑の麺に、東南アジアの香り漂うスープだった。

 

「これが、うどん……」

「黄色の麺はサフランで色付けし、緑の麺はバジル入りだそうです」

 

 スープは魚醤とコリアンダー(パクチー)、塩と胡椒、シトロン果汁の入ったスープに、オリーブオイルが散らされている。

 具材はセロリ、玉ねぎ、にんじんで、全体的に黄色、緑、白、オレンジと華やかな見た目だ。

 

(異世界うどん……! ゴマ油でもラー油でもなくて、オリーブオイルかぁ!)


 驚きながらも食べてみれば、普通に美味しくて守生はすぐに平らげた。九月下旬の今、乾燥して気温の高い気候にも合う料理だった。

 

 

 

 入浴と水泳を終えて部屋に戻ってくると、部屋に新しい花が飾られていた。

 薄い紫と白のその花には、濃い紫の花弁がついている。全体的に薄い色の花なのにそこだけ毒々しいほどに黒っぽい。

 

「そら豆の花がなぜここに……!」

 

 ヘレナヘケトはそう言うと、花瓶を片付けるよう侍女に命じた。

 

「シュー、大丈夫かァ? いやショックだよな、そら豆なんてよォ」

「ありがとうドム。全然大丈夫だよ。えっと、確かに毒々しい色の花だったけど、不吉なの?」

「俺も詳しくは知らねェけど、葬式で使ったりすんなァ」

「シューさん、そら豆の花びらの黒いところが冥界に通じてるって言われるっす」

 

 アベルアヌビスが孤児院で習ったっすよーと得意げに笑う。その様子に緊迫した空気が和らいだ。実害がないとはいえ、不吉だとされる花をわざわざ飾るのは、何者かによる悪意を示すものだ。気分がいいわけがない。

 それに、悪意を持った人間が花を飾ることができるということは、花以外の物も持ち込めるということだ。


(この世界に爆弾があるのか知らないけど、そういうのを設置することができるぞって脅しの意味もあるんだよなぁ……)

 

 ドムトートが部屋の外の騎士に報告し、応援を呼ぶ。

 騎士団第五部隊の副部隊長ネイサンネイトがやってきて、別室で侍女たちを事情聴取することになった。 

 

「お待たせしました。さぁ、シュー様。午後のお勉強をいたしましょう」

 

 事情聴取からヘレナヘケトが真っ先に戻って来た。彼女は守生たちと浴場におり、そのまま待機していた。少なくとも実行犯ではないとして、解放されたのだ。

 

 守生たちが午後の勉強に取り組んでいる間に事情聴取は進み、魚頭の配膳係、ハンナハトメヒトが自供した。

 ハピ兄弟の派閥の中級貴族が恋人で、頼まれて行なったらしい。

 

 

「シュー様、踊り子たちにはくれぐれも注意してください。彼らはハピ様ご兄弟から贈られたのですから」




  ◆

 

 

 午後のお稽古の前半はアベルアヌビスとアリーアヌビスが並んで書き取りの練習をする。ローテーブルに並んで座るわけだが、アリーアヌビスがアベルアヌビスに怯えて勉強どころではない。

 そのため守生も向かいに座り、一緒にドライフルーツのおやつを食べる。

 

「おいしー」

「おいしいっすー!」

 

 距離は離れているが同じ長椅子に座った砂色わんこのアリーアヌビスと黒色わんこのアベルアヌビスが、ドライフルーツの盛り合わせをうれしげに食べる。

 守生は護衛をしているドムトートの分を取り分けておき、付添いの姉レネーレネネトと踊り子のウーラウヌトにもフルーツを勧める。贈り物の一人掛け椅子に座って、二人は恐縮しながら受け取った。甘味は奴隷が食べることは滅多にない貴重な品だ。

 

(アリーくんとアベルってどっちもイヌ科だから、兄弟っぽいんだよな。砂色と黒で色は真逆だけど)

 

 古代エジプト神アヌビスは狼やジャッカルと言われているが、アベルアヌビスの頭部はイタリアン・グレーハウンドに似ている。耳が長く短毛で、マズルが細長い。アベルアヌビスが十八歳だからか、体には少年らしい細さに引き締まった筋肉がついている。

 アリーアヌビスの頭部は垂れ耳で短毛だ。アベルアヌビスほどマズルが長くはない。だが二人して耳を動かし、うれしそうにしている姿が守生には微笑ましく映った。

 

 甘い物を食べて幸せホルモンを出したところで、三人で書き取りの練習を始めた。

 ヘレナヘケトの書いた手本を一緒に見て、それぞれの木片に木のペンで書く。この三人の中で書き取りをできるのはアベルアヌビスだけなので、自然と間違いを指摘する役になった。

 

「あ、シューさんそこ間違いっすー」

「えっ」

「ほんとだ。しゅーさま、まちがい」

「えええ、どこか分からない……」

 

 守生は自分で書いた文字を一文字一文字確認していき、ようやく間違いを見つけた。

 

「これかぁ。英語のアルファベットが頭にチラつくんだよねぇ」

「いいわけ?」

「シューさん、言い訳って言われてるっすよー!」

 

 わははっとアベルアヌビスが笑い、アリーアヌビスもつられて笑う。

 守生が頬を掻く後ろで、ヘレナヘケトが眉をひそめ、付添いの楽士と踊り子は貧血で倒れそうになっていた。

 

  

 多少仲良くなったところで、後半はヘレナヘケトの行儀作法の講座だ。筆記用具を片付け、ヘレナヘケトを囲んで立つ。

 これにはドムトートと付添いの二人も参加する。

 

「今回は、貴人の方のおそばに仕える者としての心構えについてお話しします」

「お願いしまァすッ!」

「はいっす!」

「はぁーい!」

「あの、はい……」

「よろしく」

 

 一番熱心なのはドムトートだ。気だるげな態度は封印し、シャキッと立って真面目に話を聞いている。アリーアヌビスの怯えも取れ、難しい話もおとなしく聞いている。彼らに感化されたのか、アベルアヌビスもじっとしている。耳はよく動いているので、集中できていないかもしれなかった。

 守生はしばらく様子を見ていたが、後はヘレナヘケトに任せて料理人コンビとの面会をするのだった。 

 




コリアンダーとパクチーって、どちらがメジャーな表現なんでしょうね。パクチー? 私は一時期、香菜シャンツァイ派でしたが、パクチーの方が言いやすいですよね。


次回はクリームシチューのレシピ回です。

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