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19 貢ぎ物の誤解1

ご要望があったので、前ページにて登場人物の紹介をしています。

(このページでまた新キャラ登場するのですが!)


 場は混乱を極めていた。貢ぎ物としてやって来た奴隷たちは怯え、土下座したまま震えている。ヘレナヘケトはそんな奴隷たちの態度を不敬だと責め立てた。

 護衛のアベルアヌビスは守生を睨み、説明を求める守生の要請を無視する。


 守生は目を白黒させつつ、もう一人の護衛騎士ドムトートに助けを求めた。

 夜勤明けなのに守生の貢ぎ物を見たいと駄々をこねていたのを、なんとか説得して守生のベッドで仮眠を取らせていたのだ。

 本来なら朝食後に夜勤を終えるはずのドムトートは、マリアマァト部隊長からの報告にも同席している。これ以上は上司としても友人としても看過できないと、守生は判断したのだが。

 

「ドム、ドム! 悪いんだけど起きて! 助けて!」

 

 衝立越しに寝ているドムトートへ必死で呼びかける。

 

「んあ? 騒がしいなァ。なんかあったか?」

 

 爆睡していたドムトートだったが、身だしなみをさっと整えて守生の前に現れた。

 

「うん、なんだかよく分からないから説明してほしいんだ。アベルまで怒ってるし」

「はァ!? クソアベルめェ」

 

 騎士が警護対象に怒るとは何事かと、ドムトートが聞き取りに乗り出す。まるで日頃の気だるげな態度が嘘のようで、守生は大いに頼もしく感じた。

 ドムトートは一同を一喝して騒ぎを静めると、ヘレナヘケトから聞き取りを始めた。次に奴隷たちの話を聞き、最後にアベルアヌビスの横に立つと、その引き締まった臀部に回し蹴りをした。パンッと良い音が部屋に響く。

 

「何するんすか!」

「ったく、お前ェは満足に護衛もできねーのかよォ」

「だって……」

「とっとと話せ。俺が判断してやるからァ」

 

 

 

「あー、シュー、様。分かったぜェ」

「何が起こってるの!?」

 

「まずこいつらァ。鱗持ちと耳持ちの小僧は姉弟だ。で、長耳の女と合わせて三人、奴隷だなァ。ハピって大貴族のところから贈られたらしい」

「うん、奴隷をもらっても困るんだけど、返すわけにもいかないみたいだね」

「何であれ、貢ぎ物を返したら相手にシツレーだと思うぜェ。解放しても生きるのは難しいんじゃねーか? 家とかァ仕事とかァ。下手したら贈り主が怒ってころ……危害を加えるかも知れねェ」

「なるほど、そうだね」

「んでェ、なんで怯えまくってるのかっていうと、俺らが問題ィ」

「俺らって?」

「俺とシューだなァ」

「なんで!? 僕はともかく、ドムはあの子たちと顔を合わせてないよね?」

  

 ドムトートが仮眠を取りに行った後で、下男たちが貢ぎ物を部屋に運び入れた。


 高価なスパイス、この国周辺に自生するが珍しいハーブ、動物の毛皮や剝製、未使用の羊皮紙とパピルス、魔獣の珍しい素材、軽くて硬く美しい鎧と盾、魔石のついた強力で豪華な青銅の剣、煌びやかな宝石のついた装飾品。宝石の大きな原石。どこから聞きつけたのか、守生の欲しがっていた形かつ美しい装飾の施された椅子が何脚か。

 そしてここにはないが、魔獣や動物の新鮮な肉が贈られた。

 

 それら貢ぎ物を、目録のパピルスを片手にヘレナヘケトが送り主と品物について説明してくれたのだ。

 そして最後に奴隷たちが部屋に入って来て、同じように説明がされた。

 

「けど、こいつらが部屋に入る前、俺がシューに『ベッドで寝ていいから』って言われたのをォ、この耳持ちたちに聞かれてたんだよ。アベルにも言えるが、めちゃくちゃ耳が良いからなァ」

「なるほど、それで?」

「俺がシューの夜伽の相手でェ、夜休めなかったから昼寝してるって思われた」

「……それで?」

「女たちは夜伽の相手する覚悟を決めて来たけどォ、男が好みなら弟が危ないってんで、泣いて頼んでるわけェ」

「なるほど。すっごく誤解されてるねぇ」

 

 守生は脱力して、もともと座っていた金色の椅子にドサリと腰を下ろした。

 

「それで、ヘレナさんはなんで怒ってるの?」

「貴人に対して嘆願するなど言語道断、奴隷の身分を弁えろーってガチギレしてる」

「OH......。アベルは?」

「あー……自分が夜伽に選ばれてないのに、夜伽候補の奴隷が来たからって拗ねてんだよ。隊長には『自分はシューの騎士だ』って言ってたくせによォ」

「ち、違うっす! 拗ねてないっす! オレは護衛するなら人数少ない方が安全だし、この人たちがシューさんに危害を加えないか警戒してるだけでっ!」

「僕、アベルにずっと睨まれてたんだけど?」

「お前、主人を睨んでどうするよォ」

「ごめんなさいっすー!」

 

 やれやれと守生はため息を吐いた。価値観や常識を教えてくれる二人を頼りにしているため、それがないと非常に困惑する。

 

「シュー、騎士の情けだ。これで勘弁してやってくれ」

「僕、ヒーラーなんだけど。じゃあ、ヒーラーの情けで許そうかな」

「よっ、シュー様やっさしィ!」

  

 大げさな態度で場を和ませようとするドムトートと、平静になったアベルアヌビスに守生は苦笑する。

 

「ヘレナヘケトさん」

「はい、シュー様」

「だいたい事情は分かりました。誤解があるようなので、叱る必要はありません」 

「はい、失礼いたしました」

 

 丁寧に会釈するヘレナヘケトに、守生はハーブティーを人数分持ってくるように頼んだ。守生自身も疲れたし、ヘレナヘケトにも気分転換が必要だと思ったのだ。

 それから三人の奴隷を椅子の前に呼び寄せた。

 

「えっと、こんにちは。僕は菅見守生です。シューって呼んでください」

「はい、シュー様」


 三人が膝をついて頭を下げる。

 

「最後までよく聞いてほしいんだけど、僕は夜のお相手を探していません」


 うさぎ頭とコブラ頭の女性二人が、驚いている。その間に座るイヌ頭の男の子は分かっていないのか姉たちの顔を見上げ、キョロキョロしている。

 

「女性も少年も、成人男性もいりません。さっきのドムトートは僕の騎士で、昨日は徹夜で仕事をしていました」


 話を理解しほっとしたコブラ頭の女性が、イヌ頭の少年の肩をこっそりと撫でる。

 

「その上で質問なんだけど、君たちに何かできることはありますか?」

「わたしは、踊り子です……」

 

 うさぎ頭の女性がオドオドしたまま、小さな声で答えた。顔を覆うその毛皮は白ではなく、イギリスの有名なうさぎに近い。踊り子だけあって、顔も体も引き締まっている。

 

「私は楽士(がくし)です」

「ボクは、アリーアヌビスです!」

 

「ありがとう。アリーくんは元気があっていいね。楽士さん、楽器は?」

「アウロスが弾けます。太鼓も少し」

「アウロス?」

 

 聞きなれない単語だ。守生が首を傾げると、コブラ頭の楽士が後ろ手に持っていた長い笛を取り出し、恭しく捧げ持った。身を乗り出して見てみれば、Vの字になった細い管楽器だ。

 

「なるほど。順番が逆になったけど、お二人のお名前は?」


「レネーレネネトと申します」

「ウーナウヌトと申します」

「アリーアヌビスですっ!」

「レネーさんと、その弟のアリーくんと、ウーナさんだね」

 

 女性二人が頷き、アリーアヌビスがはいと返事をした。イヌ科の頭といい、元気の良さといい、アベルアヌビスと似ている。もっともアベルアヌビスは今も、アリーアヌビスをライバル視しているようだが。

 

 (鱗持ちと耳持ちが姉弟っていうのは一般的なのかなぁ。でも、王様とお姫様もハヤブサ頭と人の頭だし、普通のことなのかな)

 

 咳払いして、守生は話を進める。

 

「えーと、ウーナさん」

「はい」

「踊りを見せてもらっても構いませんか? レネーさん、踊り用の演奏をお願いできますか?」


「はい」

「分かりました」


 ウーナウヌトが上擦った声で短く返事をし、レネーレネネトが覚悟の籠った声で答えた。

 踊り子としてだけ、楽士としてだけ雇うと言っても緊張感のある二人に、守生はまたも首を傾げる。

 

 準備をする二人を眺めながら、ドムトートに尋ねる。

 

「ドム、僕はどうしてまだ怯えられてるんだか分かる?」

「まあ、踊り子と楽士はァ、(うたげ)で気に入られたらそのまま寝所に連れて行かれるってのが普通だからじゃねーのォ?」

「何その普通……」

 

 プロの演奏家やダンサーが怒りそうな話だと思ったが、奴隷である以上、各個人のパフォーマンスよりも顔や体つきを重要視するのかもしれなかった。


(そんなんじゃ、腕を磨こうって気にもならないんじゃないのか? いや、寵愛を得て優雅に暮らしたいって人もいるだろうし、個人の価値観なのかなぁ)

 

 そんなことを考えていると、ドムトートがパンと手を叩いて注目を集め、奴隷たちに言った。

 

「お前ら安心しろォ。こちらの【大いなる幸いを運ぶ】シュー様はァ、はっきり言って普通じゃねェ。言ってることに裏もねェ」

「ドム、バカにしてるよね?」

「してねェ、してねェ」

 

 その気軽なやり取りに、アベルアヌビスはくすっと笑い、奴隷たちはやはりドムトートは寵愛を得ているのだと確信したのだった。

 

 ヘレナヘケトの用意したハーブティーは、爽やかな味のするお茶だった。それを飲みつつ、即席の舞台を見守る。

 レネーレネネトの演奏に合わせて、ウーラウヌトの踊りが始まった。

 長い耳の動きすらも踊りの一部にして、しなやかに踊っている。先ほどまでのオドオドした態度は影も形もない。指先、足運び、視線、はためく薄布。守生が夜の相手は不要と言ったせいか、妖艶さよりも華麗さをアピールした踊りだった。

 

(うわー、さすがプロだね。体が柔らかい! レネーさんの演奏も、一人で吹いてるなんて思えないよなぁ)

 

 ダブルリードのアウロスは、一本の管で主旋律が、もう一本の管で低音が出る。低音は夏夜の虫たちが協力してくれているようにも聞こえる。不思議な音だ。

 バグパイプの元祖とも言われるアウロスに聞き惚れながら、守生はだんだんもどかしくなってきた。思い出せそうで思い出せないのだ。

 

(なんだっけ、この主旋律のノスタルジックな音色は……)


「あ、そうか!」


 演奏が止み、ウーラウヌトの踊りも止まる。

 困惑した一同の口火を切ったのは、ヘレナヘケトだ。


「どうなさいましたか、シュー様?」

「あー、いや。故郷の味を思い出しまして。驚かせてすみません。二人ともごめんなさい。素敵な演奏と踊りでした。ハーブティーを用意してもらったので、長椅子で休んでください」

 

 寝椅子とは言わず長椅子と言って、ヘレナヘケトの部下である侍女たちに世話を任せる。

 

「……故郷の、味でございますか?」

「いやー、ははは。ラーメンが食べたくなりました」


 まったく違うメロディにも関わらず、屋台のラッパの音を思い出す守生だった。


(ピラリーララ、ピラリララーってね。卵を食べるのは禁忌らしいけど、うどんなら作れるかなぁ)


 初お披露目に緊張する奴隷たちを余所に、呑気な守生だった。

 アベルアヌビスは美味しそうな気配を察知し、ウキウキしながら立っている。

 ヘレナヘケトは国王に報告する案件が出そうだとさらに注意深く守生を観察する。

 そんな三人を、ドムトートは胡乱な目で見る。それから彼はひとつため息を吐くと、いつものように気だるげな姿勢に戻った。

 


ウーナウヌト  :踊り子。うさぎ頭。

レネーレネネト:楽士。アウロス奏者。コブラ頭。

アリーアヌビス:レネーの弟。犬頭。

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