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第91話 死の種子

「会合を始める前に聞いておきたい。ここにいるのは我々で手を組み、時が来れば帝国の方へ完全に着くということに同意した者、ということでよろしいですかな?」

「当たり前のことを聞くな。集まっている時点でそれは決まってだろう」

「いやはや失礼。どうも疑り深い性格でしてな」


 翌日、街の大図書館の中心を貸し切った貴族や商人たちの会合の場に、わたしは存在感を消す魔法で潜入していた。

 上っ面だけの笑顔で、次々に話が進められていくのを、わたしは本棚にあった一冊のファンタジー小説を読みながらボーっと聞いていた。

 別に今すぐ殺してもいいんだけど、わたしがティアライト家の名を借りて予約している馬車の時間は午後三時、つまり今から三時間後。

 何が言いたいかというと、ぶっちゃけそれまで暇なのだ。

 だから時間ぎりぎりまで皆殺しは待って、二時くらいになったら殺し始めようかな、と考えている。

 その点、読書は暇つぶしにはもってこいだ。

 雑音(無駄な会議の声)が聞こえてくるのが面倒だが、どんな情報が役に立つかわからないのである程度は聞いておく必要がある。

 幸い、二つのことを同時に出来るように訓練しているので、物語と会議を並行して頭に入れていた。


 しかしまあ、近年稀に見る無駄な会議だ。

 ものすごく回りくどい言い方をしているが、つまり。

『もう王国に未来はなさそうだしはやいとこ帝国に寝返っとこうぜ、でもその時に発生する利益は俺がたくさんもらうから』、というのをほぼ全員が超遠回しに言っているだけだった。

 なるほど、これほどのド無能がこれだけの人数王国の内政を執っていたというんだから、確かに王国は終わりかもしれない。

 それもわたしの主人、ノア様がいなければの話なんだけど。

 いや、どうせ近いうちにノア様が王国を乗っ取るだろうし、どのみちこの国は終わりか。

 そうなると、国王とか王族とかを殺すのはわたしなんだろうな。

 考えるだけで面倒で、ため息が出てくる。


「いや、だからそれはこっちのものだろう。だってな―――」

「いやいやいや、時には遠慮が美徳になることも―――」


 どうしよう、この無駄な会議、このままやってたらいつ終わるかわからない。

 話が半分も進まないまま二時間が経ち、一冊読み終えてしまった。

 わたしは小説を棚に戻し、その愚鈍な会議を一瞬で終わらせてやろうと思い、円卓上になっている席の中心に立ち、魔法を解いた。


「まったく、このままでは日が暮れ―――な、なんだ!?」

「黒髪………?貴様、どこから!?」


 この場にいるのは、まずアウルム子爵を含めたこの国の貴族や商人、総勢十七人。

 加えてその護衛が二十三人。

 総勢四十人。

 一度にこれだけの人数を殺すのはさすがに初めてだけど、まあ一瞬だ。


「ク、クロ殿!」

「ご苦労様でした、子爵。さて、後始末の時間を考えればもう馬車の時間まですぐなので、さっさと終わらせましょう」


 わたしは魔力を練り、高位魔法の準備をする。


「答えよ!劣等髪ごときが我らの目を欺き、どのようにここに潜入した?」

「いや、返答を待つ必要も無かろう。どうせ劣等髪、死んで困る者もおるまい。もう殺してしまってよいのでは?」

「いや待て、もしかするとどこかの組織の捨て駒やもしれぬ。なんとかしてその情報を―――」


 耳に雑音が届くが、どうでもいいので聞き流す。

 そうしている間に、魔法の構築が完了した。


 わたしの周囲に、黒くて丸い、直径五ミリほどの球が四十ほど浮かんだ。

 一つ一つに込められている魔力でも相当なもので、これを一度発動するだけで私の魔力が一割近く持っていかれる。

 燃費が悪い闇魔法といえど、この程度の球の量でそこまで減るということは、まだ完全な習得に至っていないということ。

 わたしも研鑽の余地はまだまだ残っている。


「な、なんだあれは………?」

「落ち着け、はったりだ。おい何をしているお前たち、さっさとあの無礼な劣等髪を切り捨て」

「《蒔かれる終わり(デッドシード)》」


 黒い球が全方位に、銃弾のような速度で飛んでいく。


「ひいっ!?ふ、伏せろお!」


 わたしの魔法のことを唯一知っているアウルム子爵は、魔法を発射する直前に用心棒の服の裾を引っ張りながら倒れ込み、わたしの魔法を避けてみせた。

 用心棒を助けようとするとは、昔では考えられない行動だ。心境の変化でもあったのだろうか。


「なんだこ………」

「おい、なにがおこっ」


 言葉を最後まで紡ぐことなく、黒球に当たった者がバタバタと死んでいく。

『デッドシード』は、その名の通り『死の種子』。

 生物の体に浸食し、その瞬間に種を急速に芽吹かせ、寿命を消しつくす。

 弱点は《(デス)》と比べて死の魔力が少ないため、使用可能魔力量が70を超える者には抵抗されることだけど、生憎この世界の平均最大魔力量は35。

 70を超えるような四大魔術師は滅多にいない。


「な、な、なんっ!?なんだこれ!?」


 魔法を発動して二秒で、三十八人が死んだ。

 改めてわたしの魔法が、やばい魔法なのだということを再認識する。


「さ、さささささすがクロ殿ですな!何度見ても恐ろし、いや素晴らしい魔法でございます!」


 生き残ったのは子爵と、その用心棒の男のみ。


「だから言ったであろう、この御方には逆らうなと!その気になれば我々の命など簡単に踏みつぶせる凄まじい存在なのだ!わかったらさっさと昨日の無礼を謝罪せぬか!」

「は、ははははい!」


 ようやく状況を理解したのか、用心棒はガタガタ震えながらわたしの元に歩いてきた。

 目の前で起きた光景に恐怖しているのか、本能でわたしには絶対に勝てないと悟っているのか。

 まあどっちでもいい。


「こ、この度はっ、数々のご無礼、お許しくださ」

「《(デス)》」


 なぜなら、死ねばもう全部どうでもいいことだから。

 個人に対してならば、わたしの使える魔法の中でもダントツ最強の魔法が男に飛び、その場で泣き顔のまま息絶えた。


「はえ?………ひいいい!?」

「目撃者を生かしておくわけにはいかないので」

「そ、そそそ、そうですな!確かにあの男も部外者と言えば部外者ですし!?生かしておくメリットはないでしょうな、うん!」


 子爵は前世で言うところの、スマホのバイブレーションの如く小刻みに揺れて怯えながらも、必死にわたしに同意している。


「で、では後始末はこの私にお任せください!クロ殿はゆっくり御帰還を!」

「いえ、それには及びません。それはあなたでは出来ないことですから」

「へ?………そ、そうですな!私などでは考えようもない深謀が、ノアマリー様には」

「いえそういうことではなく」


 わたしは汗と涙で水浸しになった子爵に指を向けた。


「こういうことです」

「………へう?」


 子爵はしばらく状況が呑み込めず、数秒その場で固まった。

 そしてその直後、恐怖のあまり失禁しながらわたしに背を向け、一歩踏み出したところで滑って転んだ。


「ひ、ひいいっ、ひいいいいい!?まままま待ってくだされクロ殿!私は今まで、あの御方のために尽くしてきたつもりでございます!」

「そうですね」

「あの御方の言う通り、友を裏切りました!商談の話もうまく運びました!滅私奉公の精神で、ノアマリー様にすべてを捧げてきたつもりでございます!」

「はい、ノア様も大変ご満悦でした」

「では何故!?私は裏切ってなどおりませぬ!た、たしかに最初はステア殿を亡き者にしようなどと愚行を働きましたが、今は猛烈な反省をしております!」

「何故と言われましても………。あの御方の御命令だからとしか言いようが」


 子爵はもう全身の穴と言う穴から水分を噴き出し、青を通り越した真っ白な顔でわたしを見た。

 わたしがノア様にすべてを捧げていることを知っている彼は、自分がいかなる言い訳をしても、ノア様の命令を最優先するわたしがその手を緩めることは無いと察したんだろう。


「それにあなたさっき、ステアを殺そうとしたことを反省していると言いましたが」

「は、はひ………」


「何故あの子を―――わたしの仲間を、ノア様のものを、殺そうとしたことが反省程度で許されると思っていたんですか?」


 それを聞いた瞬間。

 子爵は可哀想になってくるほどに悲鳴を上げ、床を這うようにして逃げ出した。


「い、い、嫌だああああ!死にたくない!死にたくない!たす、助けてくれっ、誰かあ!」


 いくらノア様でも、自分の行動を反省し、その後は自分に尽くしてくれようとする人間をむやみやたらに殺そうとはしない。

 しかし、自分のものを傷つけようとした人間であれば話は別だ。

 善人でも悪人でも関係ない。

 ただ、あの御方の領域をこの男は一度汚した。

 ステアを殺そうとした。それだけで、捨てるには十分な理由だ。


「今までノア様のお役に立ったことを評価し、言い残す言葉くらいは聞いて差し上げますが―――」

「おねがいじまず、たずけでくだざいっ!なんでもじまず!ぜっだいにうらぎりばぜん!だがらっ」

「なさそうですね。では、先ほども申し上げましたが―――ご苦労様でした」

「いやだああっ、やめ」

「《(デス)》」

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― 新着の感想 ―
[一言] さすがは味方に関わった事なら、どこまでも無慈悲になるクロやん。。。
[良い点] うーん無慈悲! [一言] 更新お疲れ様です。いつも楽しんで読ませて頂いてます。これからもほどほどに頑張ってください!
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