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第88話 オウランの才能

「はあっ!とうっ!ふっ!」


 帝国との戦争がすぐ近くに迫っているとはいえ、ずっと根を詰めているようでは能率も落ちる。

 なのでわたしはステアと一緒にちょっとした休憩に、書庫から出て屋敷の中庭の噴水のところに座り、おやつを食べていた。


「モグモグ」

「美味しいですかステア」

「美味」

「それはよかったです」

「はぁっー!てりゃあっ!」


 わたしはバナナ数本だけに対し、ステアはホットケーキ六段重ねをぱくぱくとたいらげている。

 普通は夕食が入らなくなる量だと思うんだけど、ステアはこれで常人以上に食べるのでむしろ丁度いいくらいだ。


「ほら、生クリーム付いてますよ」

「ん、どこ?」

「ほらここです」

「はー、はー………」

「よし、ちょっと休憩だ」

「ふーっ………クロさん、僕にもなんかないか」

「イチゴならありますが」

「じゃあほしい」


 わたしは掛け声を上げて木刀を振っていたオウランに箱を渡す。

 ルシアスとオウランはわたしとステアがここに来る前からずっと訓練していて、さっきから聞こえてきた荒い掛け声は全部オウランのものだ。

 ノア様がルシアスに、オウランの手ほどきをしてあげてほしいという話をしたため、ルシアスは休憩中にオウランを見てくれている。


「ふぅ、疲れた時は甘いものって本当だな」

「それは何よりです。上達はしましたか?」

「ああ、ここ数日でメキメキ力が上がってる気がする。ルシアスは教え方が上手いよ」

「へぇ、こう言っては何ですが意外ですね。ルシアス、オウランは今どの程度なんですか?」

「………………」

「ルシアス?」


 指導者としての意見が欲しいと思ってルシアスに聞いてみたのだが。

 ルシアスは何かを思案するような顔をしていて、わたしの話を聞いてなかった。


「何か悩みでしょうか」

「ししゅんきとくゆーの、気分?」

「ステア、どこでそんな言葉を覚えてきたんですか」

「オトハ」

「あの阿呆、あとでひっぱたく必要がありますね」


 今のところステアの教育に悪影響しか与えないあの馬鹿を後で折檻してやろうと心に決めていると。

 唐突にルシアスが頷き、オウランの肩に手を置いた。


「なあ、オウラン」

「なんだ?」

「ここ数日、俺はお前の剣を見続けた。それで出た結論を言おうと思う」

「なんだよ改まって」

「お前、剣向いてねえわ」

「ぶふっ!?」


 唐突にルシアスから飛び出た爆弾発言にオウランがイチゴを口からはるか遠くに飛ばし、むせた。


「ごほっ、ごほっ………なんだって?」

「お前は剣、てよりはそもそも敵と近くで戦うことに向いてねえ。悪いことは言わねえから、もうやめた方がいい」

「んなっ!?」

「ルシアス、どういうことですか?」

「オウランは二年くらい前からずっと剣の訓練してんだろ?なのにあの程度ってのは、ぶっちゃけ才能がない。より正確に言えば人並み以上にはあるんだが、その程度だ。このまま剣を極めたいっていうなら止めねえが、一生かかっても俺に勝てんぞ多分」

「ぐっ………」


 オウランはいろいろ言われて悔しがっているが、わたしは第三者として冷静に考える。

 ルシアスは、魔法を使わない物理戦ならわたしたち五人の側近、なんならノア様を含めてもダントツで強い。

 なにせ超大型の魔物を膂力だけでふっとばすだけでなく、普段の動きや時折見せる俊敏さからも、彼が武闘家としても非常に優れていることが分かる。

 さらに武器を持たせれば腕利きの傭兵が束になっても敵わない、恐ろしい男だ。

 それほどの実力を持つ彼が「才能がない」と言うなら、それは事実なのかもしれない。


「だ、だけど!僕はっ」

「おいおい落ち着け。俺は剣の才能がないって言っただけで、お前の才能すべてを否定したわけではねえよ」

「へ?」

「ちょっと腕見せてみろ」


 言われた通りにオウランが腕を見せると、ルシアスが腕を揉み始めた。

 ウンウンと頷きながら一通り調べ終えたように手を離し、


「オウラン、お前手先に自信はあるか?」

「手先?」

「オウランは器用ですよ。料理はわたしに次いで上手ですし、裁縫に関してはわたしより上手いです」

「ん、ゴラスケのほつれ、直してもらった」

「い、いや。それは昔、やることがなかった時に見つけた針で色々縫って遊んでたからで」


 オウランはオトハよりも女子力が高い。

 オトハに関しては不器用なわけではないんだけど、料理をやらせると高確率でノア様のものにだけなにかを混ぜようとするのでやめさせた。


「それなら行けるかもな」

「なにをです?」

「なあクロ。この屋敷に弓ってあるか?」

「弓ですか?武器庫があるのでそこにならたくさんあると思いますけど」

「悪いんだが、場所が分からねえから一式持ってきてくれねえか?ちょっと試してみたくてよ」

「はあ、構いませんが」


 わたしは小走りで屋敷の武器庫に向かい、弓と矢を十本ほど、それに的を取り出し、庭に戻った。


「助かったぜ。じゃあ的はこの辺りにと………よし。じゃあほれ」

「え、ほれって」

「射ってみろ」

「は?いや僕、弓矢なんて使ったことないんだけど」

「じゃあ構えはこう。そうだ、少し腰を落として。で、抑え方はこうだ。よし、完璧だな。やってみろ」

「まあ、当たらないとは思うけど………」


 ルシアスに手ほどきを受けて弓を構えるオウラン。

 しかし、いくらなんでも無理ではないだろうか。

 そもそも弓は、射ること自体が難しいのだ。

 それに加えて風向きや地形、飛距離、描く弧なんかも考慮しないといけないから、集団で射って矢の雨を降らせるときはともかく、一人一人狙うのは非常に難しい。


「よっと」


 ―――ヒュッ。

 ズドンッ。


 そう、思っていたのだが。


「え?」

「おおお」

「すごい」

「これはこれは」


 なんと、矢は寸分違わず、的のど真ん中に当たっていた。


「ま、まぐれだよ。ビギナーズラックってやつさ」

「じゃあもう一本やってみろ」

「ああ」


 オウランはもう一本矢を取り、弓を引き絞る。


 ズドンッ。


「………マジ?」

「へえ、すすめといてなんだが、ここまでとはな」

「オウラン、すごい」

「才能開花ですね」


 なんと、二発目も中心に命中。

 微妙にさっきの矢から離れた場所に命中する、見事な一矢だった。

 思わずルシアスとステアと共に拍手を送ってしまった。


「ぼ、僕にこんな才能が………」

「こりゃすげえ、初めてでこれかよ。お前傭兵になったら儲かってたと思うぞ」

「オウラン、さすが」


 これは嬉しい誤算だ。

 オウランに耐性魔法以外にもこんなすごい才能があるとは。


「しかもオウラン、あなたの場合耐性魔法を生物以外にも付与できるので、矢に風耐性や物理耐性を付与すれば、絶対に真っ直ぐ飛んでしかも人体を貫通しても勢いがある程度までは衰えないすさまじい威力の矢を量産できるのでは?」

「おいおいすさまじいな。そんな悪夢みてえなことされたら俺だって近づけるかわからねえぞ」


 ノア様の側近の中では最も攻撃力に劣る魔術師だと思っていたけど、そうでもなかったようだ。

 風魔術師が逸らすことも出来ず、一人貫通しても後ろの人間にそのまま刺さる矢なんて考えただけで恐ろしい。


「これは早速、ノア様にご報告しましょう。喜びますよ」

「そうだな、よし!ところでノアマリー様はどこだ?」

「あなたの姉を大書庫で折檻してますが」

「今度は何したんだアイツ」

「ノア様の洗濯物にダイビングして恍惚としていたところを見つかったようですね」

「あの馬鹿………」


 ため息をつきながらオウランは大書庫の方に向かった。

 彼も大変だな。

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