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第83話 空間魔法

「うおお………」


 ルシアスが呆気にとられたような声を上げた。

 数日かけてフィーラ共和国連邦から帰ってきたわたしたちは、ノア様の御父上に報告をした後、早速この大書庫にルシアスを連れてきた。

 途中、御父上が何かぎゃあぎゃあ騒いでた気がするけど、どうでもいいから覚えてない。

 どうせルシアスに関する何かだろう。


「こいつは凄いな。前に貴重な魔導書を護送する任務を受けたことがあったが、あれ以上に分厚い本がごろごろとある」

「世界中の魔法に関する魔導書が集まっているからね。その指輪手放しちゃだめよ、十回使い切る前にクロに言いなさい」


 ノア様はそれだけ言って、左側の本棚の奥の方にいったかと思うと、数冊の魔導書を持って戻ってきた。


「それで、あなたが才能を持つ希少魔法についてなんだけど」

「おう、なんだ?」

「あなたの体に眠っている希少魔法は、『空間魔法』よ」

「空間魔法?」

「空間を操れるってことですか?」

「ええ。とても有用で攻撃にも転じられる強力な魔法だわ」

「どんなことが出来るんですの?」

「現在の座標から知っている座標に即座にワープしたり、空間を断裂させて攻撃を防いだり。極めれば、空間ごと物質を切り裂くなんてことも出来るかしら」

「すごいな!?」

「全魔法の中でも屈指の万能型魔法よ。まあ最初は長距離転移なんか無理だろうから、部分転移とか短距離転移が戦いの主軸になるでしょうけど」


 光、闇、精神、毒劇、耐性ときて、今度は空間か。

 そんな凄まじい魔法をこの男が使ったら、普通に最強になるんじゃないだろうか。


「あなた、もしかして不意打ちとかされたことないんじゃない?」

「ん?よくわかったな。昔からこう、気配を感じる力が強いらしくてな。後ろから奇襲されても事前に察知できる」

「それ、空間魔法の力よ。空間魔術師が生まれつき持つ力は『空間知覚』だから、狭い範囲の動く物体とかが分かるの。クロの生体感知と似て非なるって感じね」

「はー、そうだったのか」


 動く物質を知覚出来る、確かに便利だ。

 それがあれば、わたしたちがノア様を守るのもいくらか楽になるだろう。

 わたしの生体感知は、遠距離から飛来する非生物、魔法や矢などは感知できないから助かる。


「じゃあ、さっさと魔力測定をしちゃいましょうか」


 次にノア様が懐から取り出したのは、例によって体温計―――じゃなくて魔力測定器。


「なんだこりゃ」

「千年前の数字魔術師が作った、魔力を数値化する魔道具。一般的な四大属性使い魔術師が平均35、希少魔術師で150くらいよ」


 今のところ、わたしたちの魔力量は確か。


 ステアが『290/1450』。

 ノア様が『280/620』。

 わたしが『260/400』。

 オトハが『85/210』。

 オウランが『75/180』。


 魔法を習得して間もないけど、成長期で一気に魔力を引き上げているオトハとオウラン。

 同様に成長期と、加えて十年近く魔法を研鑽し続けているわたしとノア様。

 普通に素でめっちゃ上がっていくステア。

 いやまあ、魔力の成長スピードはある程度最大魔力量に比例するから、早く上がるのは当たり前なんだけど。

 なんというかこう、成長期もまだなのにこの成長速度は、年長者としてちょっとへこむ。


「どう使うんだよこれ?」

「脇に挟んで」


 言われた通りにルシアスが脇に計測器を挟み、ピピッと音が鳴って取り出す。


『1/130』


「おいおい、平均より下かよ」

「まあ武力オンリーであそこまで強くて、魔力量も高いってのは高望みしすぎだよな」

「ん。二兎を追う者は、一兎をも得ず」

「ちょっと違う気もしますけど、まあ妥当なところでしょう」

「そうね。これだって並の魔術師の三倍以上は魔力があるし、悪くないわ。ただ、あなたは成長期がもうすぐ終わるはずだから、超特急で魔法を覚えてもらうわよ。今を逃したら使用可能の魔力量が上がりにくくなってしまうわ」

「おう、了解だ。まず何をすればいいんだ?」

「じゃあこの魔導書全部覚えて」

「おう。………ん?」


 ………?

 どうかしたんだろうか、ルシアスが困惑の顔をしている。


「この分厚いのを覚えるのか?」

「そうよ」

「それで魔法が使えるようになるんだな?」

「そんなわけないじゃない、覚えたことを実践しないとダメよ。一ヶ月、いえ三週間で記憶を終わらせなさい」

「おいおい!?」

「まさかとは思うけど、魔法が一朝一夕で身につくとでも?魔法に必要なのは一に根気、二に才能、三と四が努力で五が記憶よ」

「い、いや!前に魔導書を見たことあるが、こんなに分厚くはなかったぞ!?」

「それ、四大属性の魔導書だよ。四大属性は希少魔法に比べて習得難易度も低いし、ほとんどが基礎の魔法の応用で片付くから魔導書が薄くて済むんだ。だけど僕ら希少魔術師は高い魔力を利用して色々と汎用性が高いことが出来るから、自然と本も分厚くなる」


 ルシアスはなんだか、見たことのないような顔をした。

 まるでこの世の終わりを見るような顔だ。


「お、お前ら、同じことやったのか………?」

「ステア以外はね」

「あの子、文字を覚えてからは五分で魔導書の内容全部覚えちゃいましたもんね」

「僕たち従者の中で一番頭がいいからなあ」

「まあ私たちもさすがに三週間は無理でしたわよ?二か月かけてようやく丸暗記しましたわ」

「その半分以下の時間で俺に覚えろってのか!?」

「だって時間がないんだもの」


 ノア様は青い顔をしているルシアスの肩をポンと叩いて。


「でも、嫌よね?あなた勉強とか嫌いそうだもの」

「あ、ああ」

「安心しなさい、そんな面倒な作業を一瞬で終わらせる方法が一つあるわ」

「ほ、本当か!?」

「ええ。ただちょっとだけ苦しい思いをするかもしれないけど」

「そんなもんどうだっていい!三週間の地獄をカットできるなら安いもんだぜ!」

「はい、言質とったわよ」


 とても悪いお顔をされたノア様だったが、ルシアスはそれに気づかない。

 まさか、あれをやるつもりか。


「クロ、オウラン、オトハ。彼を拘束しなさい」


 言われた通り、わたしが左腕、オウランが右腕、オトハが胴体をがっちりと掴む。


「へ?お、おい、何をする気だ?」

「ステア」

「ん?」


 そしてノア様はゴラスケを抱えながらお菓子をパクパク食べていたステアを呼び、空間魔法の魔導書を渡した。


「二分で覚えなさい」

「わかった」


 ステアは魔導書を受け取り、パラパラとめくっていく。

 一見テキトーに見えるが、完全記憶を持つステアにとってはこれだけで全内容を記憶できるらしい。


「お嬢、覚えた」

「は?今のでか!?」

「一分十五秒。さすがね」

「えっへん」

「念のためにテストするわよ。五十四ページの三行目から六行目までを暗唱しなさい」

「『空間魔法に必要な重要要素の一つは、その場の風景を目に焼き付けることを習慣化することである。風景とは空間とほぼ同義であり、そうやって空間を常時把握することによって、長距離転移などの高位魔法も習得が』で、終わってた」

「一言一句違わないわね、素晴らしいわ」

「どやっ」


 呆気にとられるルシアスと、無表情でピースするステア。


「じゃあステア、覚えた魔導書の記憶を全部ルシアスに注入しなさい」

「いいの?」

「ええ」

「でも、情報量、大すぎ。多分すごく痛い」

「!?」


 オトハとオウランの時は時間に余裕があったし、何より当時は精神状態が少し不安定だったので使えなかった手段だが、ルシアスなら大丈夫だろう。


「おい、どういうことだ!」

「ステアの魔法は精神を操る。記憶を改竄したり消すだけじゃなく、自分の記憶を相手に伝えることも出来るわ。ただ問題は、完全記憶で防御できる精神魔術師本人と違って、常人は完璧に記憶させようとすると情報量の多さによっては頭痛を伴うのよね」

「お、おい………。魔導書一冊分の記憶くらいなら、大丈夫なんだよな?ちょっとって言ったもんな!?」


 ノア様は盛大に引きつった顔をしているルシアスにニコッとその可愛らしい顔を笑ませて。


「この量なら、『もう殺してくれ』って思った瞬間くらいに注入が完了すると思うわ。頑張ってね」

「お前ら離せー!!」


 必死にわたしたちを振りほどこうとするルシアスだが、オウランの魔法で『捕縛耐性』を下げられている今、いくら彼の膂力をもってしてもわたしたちを振りほどくことはできない。


「ステア、やっちゃっていいわよ」

「ん」

「おおおい!マジでやるのか?俺が壊れたらどうするんだ!待ってくれ本気で分かった話し合おうおおおおおぎゃあああああああ!!」


 その日、彼の絶叫で本棚がいくつか倒れた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 記憶を操る異能力定番の拷問だ…将来的に一生分の記憶とかで人殺せるやつだ…
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