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第80話 ノアマリーVSルシアス

「じゃあ、早速始めましょうか?」

「おう」


 獰猛な笑みのルシアスと、不敵な笑みのノア様が相対する。


「あらあら~、これは何事です?」

「ルクシア様。丁度良かった、許可を貰いに行こうと思っていたところです」

「許可?」

「はい、実はかくかくしかじかであの二人が一騎打ちをすることになったので、この庭を貸していただけないかと」

「ええ、いいですよ」

「いいんですか」


 言っておいてなんだが、随分と軽い。

 ごねられれば場所を変えるくらいしたのに。


「お庭はあとで再生できますから。ここはノアさんの好きなようにやらせてあげますよ、将来の妻として」

「それ、オトハの前で言ったら喧嘩売られたとあの馬鹿は思うので、言わないでくださいね」

「大丈夫です、わきまえていますから」


 妻として、という言葉にどこかもやっと感じたが、その感情の正体を知る暇も無く、背後から反射的に振り向いてしまうほどの圧力を感じた。

 圧力の正体はルシアス。たった一人の、しかも魔法が使えない人間が出せているとはとても思えないほどの闘気が彼から発せられていた。


「こ、これは………」

「すごい」


 初見のオウランとステアも目を丸くするほどの力。

『殺し合い』なら多分わたしの方が強いが、『試合』ならルシアスはわたしよりはるかに強い。

 それに対してノア様は。


「うーん、寝起きに朝日が染みるわね」


 吞気に伸びをして、日光浴にしけこんでいた。

 いくらなんでも油断しすぎじゃなかろうか。


「どうしたの?もうかかってきていいわよ?」

「おいおい、いいのか?緊張感もあったもんじゃないが」

「ええ、どうぞ?」

「後悔するなよ」


 ルシアスが手に持った木刀を構える。

 バレンタイン邸のいたるところに護身用としておいてあるもので、武器として使うにはいささか心もとない。

 だが『弘法筆を選ばず』と前世では言った。ルシアスほどの戦士になれば、どんな武器でも戦えるということなのかもしれない。


「いくぞ」


 そう言った瞬間、ルシアスのいた場所から爆発にも似た音がして、次の瞬間にはノア様に木刀を振り下ろそうとしていた。


「は、はやっ………!」

「お嬢!」


 さっきの音は、ルシアスが地面を蹴っただけ。

 それだけでそれなりの範囲で地面が抉れ、土煙が舞っている。

 どんな脚力をしているんだあの男。


「おらっ………」

「へぇ、結構速いのね」

「っ!?」


 そしてノア様は感心したような声を上げ、しかしその場から動かなかった。

 振り下ろされた木刀は寸止めされている。ルシアスが当てたらまずいと思って止めた。


「当てないの?別に自分で治せるし、ちょっと痛いくらいなら我慢するから別にいいわよ?」

「無茶言うなよ、俺は女は極力殴らない主義なんだ」

「あら紳士。でも寸止め続けてたら、負けず嫌いな私は永遠に降参しないわよ」


 それを聞いて、ルシアスは本気の目になった。

 今避けなかったのはわざとか。


「………わかったよ、次からは当てるぞ。パパに言いつけたりしないでくれよな」

「ふふっ、しないしない」

「そりゃ助かる、なっ!」


 一度後方に下がったルシアスが再度仕掛けた。

 すさまじいスピードでノア様に迫り、突きを繰り出す。


「ふぅん、やっぱり素晴らしいスピードね。人類が素で出せるレベルなら最高速じゃないかしら?」

「なにっ………!?」


 ノア様はそれに当たった、と思いきや、いつの間にか僅かに横にずれて避けていた。

 さっき刺されたように見えたのは残像か?人間の大きさの残像なんて初めて見た。

 全魔法最速、光魔法の使い手であるノア様にしかできない芸当だ。


「やるなぁ!」


 ルシアスは楽しそうに、ノア様を遠慮なく攻撃していく。

 その攻撃は秒間で平均三回の攻撃という恐ろしい速度だが、ノア様はそれをすべて余裕で躱した。


「ははっ、やべぇな光魔法。ならこれでどうだっ!」


 ルシアスが何を思ったか、思いっきり地面を踏み込んだ。

 するとまるでガスが噴出するように、土煙が周囲を覆う。

 なるほど、こうして周囲を視界不良にして不意打ちする作戦。


「甘いわね」

「うおっ!?」


 しかし、それはノア様に対しては悪手だ。


「悪いけど、光魔術師に視界妨害は通用しないの。いかなる場合でも僅かな光で辺りを見渡せるから」

「マジかよ、何でもありか!」


 闇属性の生体感知で、ノア様とルシアスが戦っているのは分かる。

 だが、どんな状況なのかはさすがにわからないので、音で察するしかない。


「ごふっ………!?」

「あら、それで本気?連邦最強の傭兵ってその程度?」

「舐める、なっ!」

「遅いわよ」

「おぐっ!?」


 ………うん、心配なさそうだ。


「さっきあなたを速いって褒めたけど、あくまでそれは普通の人間が才能と努力で得られる結果の話よ」

「ぐっ………!」

「いかに人間が努力しようが、体つきに恵まれようが、なんならあなたみたいないわゆる超人体質だろうが。一秒で惑星を何周もする『光』の速度には絶対に敵わない」


 土煙が次第に晴れていく。

 するとそこには、地面に膝をつくルシアスと、それを見下ろすノア様の姿があった。


「あなたは強いわ。並の魔術師じゃ勝てないだろうし、わたしの従者たちですら一対一なら負けるかもね。だけど私には勝てないわ」

「なんでそう、言い切れる!」

「だってあなた、私より弱いもの。簡単でしょう?」


 単純に、至って簡単な話。

 絶対的な実力差だと、ノア様は暗に言った。


「ついでに言えば、私は貴方相手に一切油断してないわ。あなたがどう動くか、どう攻撃するか、すべて予測して動き、僅かにでも予想が外れたら次には修正して魔法を叩き込んでいる」

「………!」

「魔法を使えないから私が油断するとでも思った?甘いわよ、私はどんなときにも油断なんかしないわ。常に最悪を想定して行動する。自分より強い人間が、自分より自分を強く見積もって攻撃してるって思いなさい」


 ルシアスは立ち上がろうとしたが、フラフラとした足取りで再び尻もちをついた。

 土煙の中でノア様が何かをしたようだ。


「光の速度、とまではいかないけど。超高速で軽く触れられただけでも、体中に衝撃波が走ったみたいでしょう?多分肋骨折れてるから、動かない方がいいわよ」

「くそっ………バカな、俺が………!」

「悪いけど、潜ってきた修羅場の数が違うのよ。この平和な世界でたかだか数年才能を開花させた程度じゃ、この私は倒せない」


 ………強いんだろうとは思っていた。わたしなんかよりよっぽど凄まじい力を持っているんだろうとも感じていた。

 だけど、ここまでとは思っていなかった。

 ルシアスは強い。わたしたちだったら同じ条件の試合で勝てる確率は五分五分以下だろう。

 そのルシアスを軽くあしらうノア様が強すぎるんだ。

 しかも高速で動く魔法以外を一切使っていない。

 太陽光を収束させる光線の魔法も、光の屈折を操って虚像を作る魔法も、光で剣を作る魔法も、相手から光を奪う魔法も、光の矢で敵を射抜く魔法も、回復魔法も、なにも使っていない。

 ただ最小限の動きで、最低限の魔力で、的確にルシアスに素手で攻撃を加えただけ。

 それだけなのに。


「ああ、そうね。相手を降参させなきゃならないんだったわね」

「ごはっ………!」


 ノア様の姿が掻き消えたかと思うと、次の瞬間にはルシアスが吹き飛んでいる。

 さっきのルシアス同様、秒間三発程度の攻撃。だけど、ルシアスは抵抗できない。

 光魔法による桁違いの速度から繰り出される攻撃が、ルシアスに一切の防御をさせない。


「弱い者いじめって思うかもしれないけど、仕掛けてきたのはあなたよ。光魔術師と戦うことを望んだのもあなた、私に勝てるって絶対の自信で挑んできたのもあなた。でもルシアス、あなたは大前提を間違えてるわ」

「かはっ………大前提、だと?」

「あんなに強いクロたちを従える私が、あの子たちより圧倒的に強くなくてどうするのよ。時には武力を用いて世界を征服しようと考えているこの私が、従者より弱いだなんて恥ずかしいじゃない。うちの従者とほぼ互角のあなたじゃあ、生憎私には届かないのよ」


 わたしたちをちらりと見てノア様はそう言う。

 別にわたしはノア様がか弱くても一生ついて行く気なのだが、ノア様のプライドがわたしたちより弱いことを許さないらしい。

 千年前、最強と呼ばれていたことによる影響だろうか。


「まだやるかしら?これ以上戦うというなら、私ももう少し本気を出すわよ」

「まだ、本気じゃないっ、てのか………!」

「当然。ただ超スピードで移動するだけが光魔法なら、最強の魔法なんて呼ばれるわけないじゃない」


 それを聞いてルシアスは、その場に大の字になって倒れた。


「………くそっ。降参だ」

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