第73話 到着
すみません、今日短めです!
その後もわたしたちは山を越え、蔓延る魔物を協力して倒しつつ、スイッタの街へと向かった。
アンデッド系魔物を倒した翌日からはわたしも協力し、襲い掛かってくる魔物たちをなぎ倒しながら、どんどん山の中を進んでいった。
そして二日後、ついにスイッタの街にたどり着いた。
オトハは歓喜し、わたしもほっとし、意気揚々と街の中に入った。
わたしたちの目的は、この街に来ているはずであるルシアスと言う希少魔術師候補を探し出すこと。
それには彼の所属先である傭兵組合を訪ねるのが一番早いと思った。
の、だが。
「ルシアスさんなら、一週間ほど前に街を去っておりますが?」
帰ってきた返答がこれである。
横でオトハが崩れ落ちる音が聞こえた。
「え?もしや、まだクアドラブルに戻っていないんですか?」
「少なくとも、三日前には戻ってませんでしたね」
「ええ?あの方なら一日あればそちらに戻れるはずなのですが」
時間軸を少し整理してみよう。
まず、わたしが連邦国首都、クアドラブルでローガーからルシアスについて聞いたのが十日前。
その日のうちに傭兵組合に行き、ルシアスが昨日出立した、と言う旨を聞いた。
その後一週間、わたしたちはノア様たちとルシアスを待ち、帰ってこなかったのでわたしたちとオトハがこちらまで来た。
これがわたしたちのスケジュール。
一方ルシアスは、十日前にクアドラブルを出た。
おそらく、並みはずれた身体能力でわたしたちの数倍速く進み、たった一日で街と街を往復している。
つまり彼がここに着いたのは、おそらく九日前。
一週間ほど前に街を去ったということは、ここで二日間傭兵として働いていたということ。
そこから帰ったということは、すなわち六日前に、わたしたちがまだクアドラブルにいた頃には帰ってきていないと数字が合わない。
これはつまり。
「どこかで油を売っているのか、山ですれ違って既に戻っているか、あるいは魔物に襲われて敗れて」
「あ、あの恐怖のアンデッド軍団の仲間入りをしているとか?」
「となると、オトハがルシアスを倒してしまったということに?」
「いやああああ!!お嬢様に怒られる!!あ、でもそれはそれで………」
何にせよ、この街にはもういないらしい。
さてどうしたものか。
「あのう、口を挟むようで申し訳ないのですが、多分死んでいるということは無いと思いますよ?あのルシアスさんが負けるところ、想像できないですし」
受付のお姉さんがそう言うと、周りに至傭兵たちも口々にそれに同意し始めた。
「そうだな、あのルシアスさんだもんな」
「魔法使えないのになんだろうね、あの強さ。反則だよ」
「あれでまだ十六だろ?あそこから成長するかもしれないと思うと、おっと身震いが」
どんだけ強いんだ、そのルシアスって男。
「具体的に言うとどれくらい強いんですか?」
「この傭兵ギルドに集まってる全員で飛び掛かっても勝てないんじゃないかってくらいには強いな、うん」
化け物じゃないか。
ざっと数えただけでも五十人はいる、ここの熟練の傭兵たちを一人で倒しきれるくらいの実力者。
正直、希少魔法を覚えてもらわなくてもいいんじゃないかと思えるほどだ。
「そういうわけで、ルシアスさんは死んではいないと思います。殺しても死なないを地でいくような人ですから」
「お、恐ろしい人ですわね」
「なにより、ノア様が気に入りそうな人ですね」
だがなんにせよ、手掛かりが無くなってしまった以上、この辺りを探していなければ戻るしかない。
「仕方がありません。オトハ、今日はこの街に宿を取って、数日ほどルシアスの足跡を追いましょう。それで見つからなければノア様たちの元に帰ります」
「あの山をまた登り降りしないといけないと思うと憂鬱ですわ………」
「我慢してください、馬車だと大回りになって歩きより時間かかるんですよ」
とりあえずわたしたちは傭兵組合から聞いた場所で宿を取り、少し聞き込みをして回った。
しかし収穫は無し。止む無く宿に戻り、ベッドに寝っ転がった。
「収穫なしですわねー。ここに来た意味とは」
「仕方がありません、こうなることも一応考慮はしていましたから。あと二日だけ捜索しましょう、それでダメだったら戻ります」
「ああ、早くお嬢様に会いたいですわ!」
手を広げて禁断症状が出るかのようにバタバタし始めたオトハを横目に、わたしは疲れた体を揉みながら息を吐く。
思えば、ベッドというのも久しぶりだ。どうせ数日後にはまた野宿生活だし、今のうちにこの感触を味わっておくか。
「じゃあオトハ、わたしはシャワー浴びてきます。終わったら呼びますので」
「え?あ、はい」
「?何かありましたか」
「いえ、その」
なんだ、急にモジモジし始めた。
「あのー、私はお嬢様にハジメテを捧げるつもりですので」
「シャワー浴びてこいってそういう意味じゃありませんいい加減にしばき倒しますよこの淫乱ピンク」
相変わらず頭のおかしなことを言い始めるオトハを引っぱたき、わたしはシャワー室に向かった。